専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第154回 今回は、プロとアマが使うクラブの違いについて、いろいろ述べていきたいと思います。 有名プロ選手がツアーで使っているクラブは、市販されているクラブと、基本的には別物で…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第154回
今回は、プロとアマが使うクラブの違いについて、いろいろ述べていきたいと思います。
有名プロ選手がツアーで使っているクラブは、市販されているクラブと、基本的には別物です。ヘッドは同じものがあるかもしれませんが、プロのヘッドは鉛を貼ったり、一部を加工していたり、調整は必須です。
シャフトも別物です。プロは契約メーカーから供給されたものの中から、良いものを選んで装着しています。
以前、シャフト工場を見学したことがありますが、そこで働くオバちゃんたちが海苔みたいなカーボンを切ったり、貼ったりしている姿を見て、ちょっとびっくりしました。実は、手作業が多いのです。
それを、電気釜(オートクレーブ)で焼くと、硬いシャフトになるというわけです。ゆえに、個体差が当然出てきます。その微妙な違いを読み取り、プロは自分に一番合うシャフトをマッチングさせるのです。
プロのクラブの調整は、トーナメント開催中も行なわれています。各クラブメーカーが試合会場にトレーラーを横づけし、ラウンドが始まる直前まで対応します。そこで、「ライ角を1度変えて」などといった、プロからの細かい要望やリクエストに応じているのです。かなりシビアな世界ですね。
一流選手はクラブの使用回数も半端なく、同じクラブでも頻繁に新しいものに取り替えています。我々のように、10年間同じクラブを使っている、ということは皆無です。
気に入っているパターを長く使用している場合はありますが、他のクラブはもはや消耗品です。
全盛期の丸山茂樹選手のサンドウェッジは「マルサンド」と呼ばれて、バンカーからふわっと上げる技術は「神業」と称されていました。それで、これは都市伝説なのですが、その「マルサンド」には「3回限界説」という逸話がありました。
つまり、砂でフェースが摩耗するので、3ラウンドしたら取り替えるというものです。
事実は定かではありませんが、関係者から聞いた話では、丸山選手は「2ラウンド目のサンドウェッジがベスト」と言っていたそうです。1回目はキレ過ぎて、ふわっとボールが出にくいとのこと。
いやはや、我々も3回使ったら、新しいクラブを新調したいものですな。えっ? 「年に3ラウンドしかしないからちょうどいい」って……そういうことですかぁ~。
一方、海外の”メジャー級”選手のクラブはどうでしょうか?
タイガー・ウッズが全盛時に日本にやってきたのですが、そのとき、メーカーのブースにはタイガーとデビッド・デュバルの使用クラブが展示してありました。
メーカーの方に「持っていいよ」と促されて握ってみると、ズシリ感がとんでもなく、「とても(うまくは)当たらないだろうな」というのが率直な感想でした。感触としては、三国志の英雄が持っていそうな”青龍刀”でしょうか。それぐらいの重みと迫力がありました。
同じメーカーのクラブでもプロが使用するのはアマチュアのものとは違うんですよね...
さて、その”当たらない”クラブですが、プロ使用ということで大々的に宣伝しますよね。しかも、有名プロが使って優勝したとなると、やはりイメージがいいですから、「使ってみたい」とアマチュアは思うわけです。
ただ、そういった男子プロが使用するクラブは、いつしか顧客が離れて、宣伝も減少していきました。潮目が変わったのは、女子プロがドライバーのCMに出るようになってからです。
昔はジャンボ尾崎選手を筆頭に、飛ばし屋のプロがCMに登場し、アマチュアの興味を引きました。しかし、そのジャンボ選手も年齢を重ねてさすがに衰えて、なかなか勝てなくなりました。
そこでメーカーは、ジャンボ選手の代わりに、女子プロの宮里藍選手をCMキャラクターに起用します。これが功を奏して、ドライバーは「以前よりも売れた」というから驚きです。
要は、男子プロに比べて女子プロのほうが、ヘッドスピードが遅く、男子のアマチュアと同じくらいになります。人によっては女子プロのほうが、アマチュアよりもヘッドスピードが劣る場合もあります。にもかかわらず、アマチュアよりも女子プロのほうが飛距離は出る。ということは、「きっと、そのドライバーの性能がいいからだ」ということになって、売れたのです。
それからは、多数の女子プロがCMに登場。男子アマチュア向けにドライバーを宣伝する、という現象が起こって、それが現在まで続いているのです。
そうして、そんなCMにつられてアマチュアゴルファーがドライバーを購入します。でも、「あんな小柄の女子プロが250ヤード飛ぶんだから、オレも……」とマン振りしてみると、せいぜい220ヤードがいいところ。いったい、この30ヤード差は何なのでしょうか?
いろいろ諸説ありますが、プロの場合、ミート率が違ってきます。簡単に言うと、ナイスショットをする確率、どれだけ「芯を食った」か、という回数ですね。
我々も、まぐれ当たりで芯を食えば、230~240ヤードぐらい飛ぶことがあるでしょう。盆と暮れ、くらいはね。
片やプロは、ほぼ毎回芯を食っていますから、クラブの機能を常に最大限引き出しています。その差、ですね。
まあ、おおよそアマチュアの場合、ナイスショットをして220ヤードです。おそらく10回打った平均をとれば、200ヤード未満がいいところでしょう。結局、10回に1回のナイスショットを平均飛距離と言い張っているだけです。
とにかく、プロは”盆と暮れのショット”が8割ぐらいの確率で打てますから、そりゃ飛びますよ。
あと、自分に合った適正のシャフトですか。プロはプロのフィッターと何度も相談し、最大限の飛距離を出すためにあつらえたシャフトを利用して、飛距離を伸ばします。
加えて、パワーロスの少ないスイング、クラブにマッチした飛ぶボールの使用など、総合力で飛ぶようにしているのです。
というわけで、女子プロが使っているクラブと同じドライバーを買ってはみたものの、「さほど効果が得られなかったな」と感じた熱心なアマチュアは、さらなる飛躍を遂げようと、シャフトの交換に挑みます。
シャフト交換、すなわち”リシャフト”をする層というのは、だいたい2回に1回ぐらいは80台が出る腕前となり、ハンデが12ぐらいになった人たちでしょうか。ゴルフの腕前が伸び盛りにあって、スコアアップにどん欲ですから。
さらに上のシングルになりますと、調子が悪いクラブのリシャフトは”お約束”となっています。
もちろん、市販品の”吊るし”クラブでそこそこ飛んでくれれば問題ないわけで、必ずしもすべてのクラブをリシャフトすることはありません。それこそ、クラブと本人の相性次第ということになるでしょう。
そんなわけで、私もアマチュアゴルフ人生をひと回りして、達観できる年齢になりました。昔はリシャフトをしていましたが、今はヘッドスピードも落ちたので、メーカーが作った吊るしのクラブをそのまま使っています。
若い頃は、「メーカーの作るクラブは、セッティングが甘いんだよなぁ」なんてことを言っていましたが、最近は自分の体のほうが甘くなり……って、糖尿病じゃないですよ。とにかく、リシャフトするほどの体じゃなくなったのです。
そもそもクラブメーカーは、スコア100ぐらいのアマチュアが打って、ちゃんと飛ぶように作っているのです。ようやくメーカーが狙っている層に、自分も当てはまるようになりました。
現在、吊るしの高反発クラブが絶好調です。最近は飛ばし屋を相手に回して、ドラコンを獲りましたから。
年老いてわかること、それは「吊るしクラブ、バンザイ!」「高反発、サイコー!」……って、そういうことだったんですね。
木村和久(きむら・かずひさ)
1959年6月19日生まれ。宮城県出身。株式をはじめ、恋愛や遊びなど、トレンドを読み解くコラムニストとして活躍。ゴルフ歴も長く、『週刊パーゴルフ』『月刊ゴルフダイジェスト』などの専門誌で連載を持つ。
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