【福田正博 フォーメーション進化論】 コンサドーレ札幌が第13節を終えた時点で7勝4分2敗と好調を維持している。まだシーズン序盤とはいえ、札幌が3位につけることを予想できた人はいないのではないだろうか。 今シーズンの札幌はミハイロ・ペト…

【福田正博 フォーメーション進化論】

 コンサドーレ札幌が第13節を終えた時点で7勝4分2敗と好調を維持している。まだシーズン序盤とはいえ、札幌が3位につけることを予想できた人はいないのではないだろうか。

 今シーズンの札幌はミハイロ・ペトロヴィッチ監督を指揮官に迎え、前監督の四方田修平(よもだ・しゅうへい)氏がヘッドコーチとして新体制を支えている。




今季から札幌の指揮を執るペトロヴィッチ監督

 基本フォーメーションは、ペトロヴィッチ監督がこれまで指揮を執ってきた浦和レッズやサンフレッチェ広島でも採用してきた3−4−2−1。開幕前に札幌のキャンプを訪れた際に、ペトロヴィッチ監督のスタイルがチームに浸透するには少し時間がかかると感じたし、監督自身もそう語っていた。

 ペトロヴィッチ監督のサッカーには多くの約束事が存在している。活発に動きながらパスをつないでいくが、選手が流動的に動くことはそれほどない。選手同士が常にいい距離感を保つために、ポジショニングの取り方には細かいルールが決まっているからだ。

 特徴的なのは、どのポジションの選手にも”斜めの動き”を制限させることにある。

 スペースに斜めに走り込んでパスをもらうといった動きは、マークの受渡しやラインのコントロールを強いることで、相手DFを混乱させることができる。その反面、ひとりの選手が動いたことで空いたスペースを誰が使うかなど、選手が個々に判断しなければいけない局面が増えることになる。

“流動的に動くサッカー”を成立させることは難易度が高い。選手全員が共通認識を持って的確な判断ができるようであれば問題ないが、Jリーグでそれを実践できるクラブはまだ多くないように思う。

 ペトロヴィッチ監督は、判断の差異によって選手同士の距離感が狂うことを避けるために動きを細かくパターン化し、選手が判断を伴う状況を極力作らないようにしている。これがチームに浸透することで、起用される選手が変わっても大きな戦術変更をする必要がなくなるというメリットも生まれる。

 とはいえ、選手が覚えることは多く、広島、浦和時代もチーム全体にペトロヴィッチ監督のサッカーが浸透するまで長い時間を要した。それだけに、札幌でもしばらく我慢の時期が続くだろうと思っていた。

 そんな予想に反して短期間で成果を挙げられたのは、札幌の選手たちが新しい戦術を理解することに前向きだったことに加え、結果が出ていることで浸透スピードが早まるという好循環も生まれているからだろう。

 1トップには高さがある都倉賢やジェイが起用され、その後ろの2シャドーには三好康児とタイ代表のチャナティップが躍動している。クイックネスやテクニックの生きるペトロヴィッチ監督のサッカーだからこそ、2人は攻撃的な能力を前面に出すことができているのだ。

 ただし、ペトロヴィッチ監督の戦術は、圧倒的な個の能力で”違い”を生み出すサッカーではない。左MFの菅大輝や右MFの駒井善成を含め、全員が新システムの中で存分に能力を発揮できていることが今の結果につながっている。圧倒的な能力を持つ選手がいなくても、チームとしての戦い方を徹底させることで成績を残してきた、ペトロヴィッチ監督の”真骨頂”といえるだろう。

 この勢いがシーズン終盤まで続けばいいが、それを望むのは酷なことだ。長いシーズンを戦う中でキーマンとなる選手が故障したり、相手に研究されてきた時に、いかにチームとして戦えるかが課題になる。

 たとえ苦しい戦いが続くことになっても、クラブやサポーターは長い目でチームを支えてもらいたい。今シーズンだけではなく、数シーズン先も「試合をまた観たい」と思わせるチームを作るには、「結果」だけではなく「内容」も重要になる。

 しかし、その両方を追い求めることは極めて難しく時間もかかるため、内容よりも結果を追い求めるクラブが多いように感じる。

 それに対して札幌は、現役時代にジェフ市原や札幌でプレーしていた野々村芳和社長が、この困難さを理解した上で2013年からの改革に乗り出したはずだ。途中でJ2に落ちることがあったとしても、長いビジョンでペトロヴィッチ体制を支えていってくれると信じている。

 ペトロヴィッチ監督のこれまでの実績を見れば、「内容」を向上させる手腕に疑いの余地はない。今季の札幌の試合を見たサッカーファンの多くは、躍動感があって攻撃的な札幌のサッカーに魅力を感じているだろう。

 一方で「結果」に目を向けると、ペトロヴィッチ政権時の広島や浦和が、掴みかけていたタイトルを逃してきたことも事実だ。それでも、内容を充実させながら結果を残す困難さを誰よりも知りながら、これまでの教訓を生かし、札幌という地で大輪の花を咲かせようとするペトロヴィッチ監督の姿勢に夢を感じる。

 今シーズン、そして数シーズン先まで、札幌がどんなサッカーを見せてくれるのか。長く内容と結果が残せるチームへと成熟して、熱烈な応援で知られるプロ野球・北海道日本ハムファイターズのような、さらに地元に愛されるクラブへと成長してくれることを期待している。