「アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチ。3人の代表監督と交渉し、招聘し、腹心として支えた男」 今季からJ2レノファ山口の監督に就任した霜田正浩氏 霜田正浩レノファ山口監督(51)を説明するには、ひとつ…

「アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチ。3人の代表監督と交渉し、招聘し、腹心として支えた男」
 



今季からJ2レノファ山口の監督に就任した霜田正浩氏

 霜田正浩レノファ山口監督(51)を説明するには、ひとつはそういう表現ができるだろう。FC東京時代は2001年から06年まで強化部のプロとして外国人選手、監督との交渉やサポートでJリーグトップクラスの手腕を発揮。サッカー協会の技術委員長に就任することになった原博実氏にその能力を高く買われ、2009年、技術委員として招かれ、その後は技術委員長、代表ダイレクターに就任している。

 もっとも霜田氏にとっては、自らが監督としてチームを率いることの方がプライオリティは高かった。そこで2016年末をもって代表ダイレクターを退任。果敢に野へ出て、監督業を求めることになった。2017年春にはタイ代表監督として3人の候補にまで残ったが、サインには至っていない。その後の数カ月はベルギーのクラブで指導者修行をしていた。

 そして2018年シーズンから、J2レノファ山口の指揮をとることになった。

「見ている人が応援したくなるサッカーをしたい。ゴールに向かって走り、ボールに対して体を投げ出す。ペナルティエリアでのプレーを増やさないといけないね。技術の問題で入らないなら、たとえ枚数を増やしても」

 監督就任後、霜田氏はそう明かしている。はたして日本サッカー界の中枢にいた男の監督としての手腕とは――。

 第12節終了現在、霜田監督率いる山口は、首位に勝ち点3差の4位につけている。昨季、20位だったチーム事情を考えれば、文句のつけられない出足だろう。恵まれた戦力とは言えないにもかかわらず、得点数はリーグ3位を記録。どこが相手でも高いラインを保ち、前に矢印を向け、堂々と挑んでいる。

「ひっくり返す力が、まだまだ足りない」

 霜田監督がそう振り返った第12節、敵地でのヴァンフォーレ甲府戦も、昨季までJ1だった格上を相手に堂々と渡り合った。一度はリードされるも、終盤に同点に追いつき、さらには勝利を狙っている。

その采配には迷いがない。次々にシステムを変え、攻撃のカードを切った。最後はDFの坪井慶介を下げ、FWの岸田和人を入れ、2-4-4のような極端に攻撃的な布陣を敷いた。そしてFKから同点弾を叩き込んだ。

 もっとも、やみくもに勝ちにいったわけではない。

「相手がFWを下げ、DFを入れて、守りに入ったから」

 霜田監督は淡々と説明する。リスクはあったものの、勝算は十分にあった。試合の流れを読み、手札を切る。それは優れた交渉人だった霜田監督の真骨頂と言えるだろうか。

 ではザッケローニ、アギーレ、ハリルホジッチという監督から学び取った経験はどう生かされているのか?

「(システムなどはその3人の)誰にも似てないかもね。でも、(彼らと仕事する中で)日本人選手は、下がったらやられる、というのは学んだ。だからセンターバックにはラインを高く取るように言っているし、下がらないように、と。選手はそのなかで変わりつつはあるよ」

 そう語る霜田監督は、選手の殻をも破らせつつある。例えば浦和レッズで1試合出場と燻(くすぶ)っていたオナイウ阿道(あど)はすでに6得点。同僚の小野瀬康介とともに得点ランキングトップに並ぶ。

「監督のおかげで新境地が開けました!」

 ミックスゾーンでは、地元テレビのインタビューに溌剌(はつらつ)と答えている選手もいた。山口に在籍するのは、ほとんどがトップレベルの壁を破れなかった選手たちである。つまり、プラス要素と同時にマイナス要素を抱えている。その最たる例がMFの三幸秀稔(みゆきひでとし)だろう。パサーとしてトップレベルのセンスを持っているにもかかわらず、プレーに連続性がなく、それでいていつも満たされない様子で、ひ弱さのほうが目立った。

 しかし、霜田監督は三幸を主将に抜擢し、守備のタスクもあるアンカーに配置した。「リーダータイプではない」「守れる選手ではない」という意見は多かった、霜田監督はそれを逆手に取った。「意見は持っている選手だから、言葉に責任を持たせることにした」と、自立を促したのだ。

 もっとも、たった数カ月で代表選手のようなプレーができるほど甘い世界ではない。

 甲府戦、三幸は前半、ワールドクラスと評しても遜色のない上質なパスを3本も出し、軽々と好機を作っている。1本は右サイドを完全に破り、もう1本は自陣から一気に相手の背後をつき、さらにライナー性の弾道で裏に走った選手にピンポイントで合わせた。オンザボールでは天使のようだった。

 しかし後半は、足先だけでボールにチャレンジし、何度も入れ替わられた。失点シーンも、相手のカウンターでボールホルダーに甘く寄せ、自分のラインを突破されている。また、終盤には不用意な持ち出しを奪われてカウンターを喰らうなど、まるで悪魔のようだった。

「(三幸には)アンカーをやらせて、奪いにいけと言っている。随分とよくなっているよ。今日は連戦もあって疲労は感じた。でも、いいからいけって。まだまだこれから。レノファの選手がサッカーをうまくなって、あそこでサッカーをやりたい、と思われるように」

 霜田監督は笑顔を見せた。掲げた目標はJ1昇格である。簡単ではないが、世界を舞台にやり合ってきた男にとって、それは手が届かないという感覚ではない。