J1第12節、鹿島アントラーズがV・ファーレン長崎に2-1で勝利した。 今年25周年を迎えたJリーグで、最も多くの成功を収めてきたクラブと、最も新しいJ1クラブとの対戦は、”格の違い”が示すとおりの、ある意味で…

 J1第12節、鹿島アントラーズがV・ファーレン長崎に2-1で勝利した。

 今年25周年を迎えたJリーグで、最も多くの成功を収めてきたクラブと、最も新しいJ1クラブとの対戦は、”格の違い”が示すとおりの、ある意味で順当な結果に落ち着いた。

 だがしかし、今季初めてJ1に昇格してきたばかりの長崎も、ただただ立場をわきまえ、弱者のサッカーに徹するだけではなかった。それどころか、いい意味で長崎から”がむしゃらさ”や”ひたむきさ”をさほど感じなかったのは、鹿島が相手でも”至って普通に”戦い、がっぷり四つに組むことができていたからだろう。



「王者」鹿島相手にも怯まずに戦っていた長崎

 象徴的なのが、先制されても臆することなく取り返した同点ゴールである。

 試合開始早々の4分に先制したことで鹿島は、「(勢いに乗って)前からプレッシャーをかけてくるかと思ったが、ブロックを作って守ってきた」と、長崎の高木琢也監督。鹿島の大岩剛監督によれば、「もう1点取りにいこうと思ったが、選手のギアが上がり切っていなかった」からだったが、試合巧者の鹿島がイケイケにならず、慎重に試合を進める選択をした以上、その守備網を破るのは簡単ではないはずだった。

 だが、ピッチを横に広く使ってボールを動かし、ジワジワと鹿島陣内に攻め入った長崎は18分、短いパス交換で鹿島のマークをズラすことに成功。マークのズレで生じたスペースに潜り込んだMF米田隼也が縦パスを受け、ゴール前へクロスを送ると、これをFW鈴木武蔵が頭で叩き込んだ。鹿島の慎重策を出し抜く、完璧な同点ゴールだった。

 再び1点をリードされて迎えた後半にしても、長崎は果敢に攻め続けた。サイドに起点を作り、鹿島ディフェンスを横に広げ、間を突く。そんな意図のある攻撃を再三繰り出した。盤石の逃げ切りを図る鹿島の前に、ボールを持たされていたわけではなかった。

 結果的に敗れたこともあり、高木監督は「自分たちがボールを持つ時間が長くなったが、攻撃に変化をつけられなかった」と厳しい自己評価だったが、スタンドの記者席からは、長崎の攻撃力――取られたら取り返す――を示すには十分な試合内容に見えた。

 ところが、である。試合を終えた選手から聞かれたのは、少々意外な言葉だった。

「こういう(点を取り合う)展開はうちの試合ではない」

 今季2試合目の先発出場で同点ゴールをアシストした米田が語る。

「スコアレス(0-0)の状態が長くなれば、うちにチャンスが出てくる。先制されても追いつけたことはよかったが、それよりも相手を長くゼロに抑えて、どこかで点を取ってしのぎ切るというのが自分たちの流れだと思う」

 GK徳重健太も、「0-0の時間が長く続くと、うちの試合になることが多い」と語っているように、長崎は第7節から第10節までの4連勝中、わずかに1点しか失っていない。うち2試合は1-0での勝利である。

 対照的に、負けた6試合のうち、5試合で2点以上を失っている。なるほど、長崎の勝ちパターンははっきりしている。

 とはいえ、第12節終了時点での長崎の総得点15は、J1全18チーム中7位タイ。それほど得点力が低いわけではない。それは、鹿島から奪った鮮やかなゴールを見ても明らかだ。堅守頼みで勝ち点を拾ってきたチームでないことは、数字も裏づけている。

 しかし、だからと言って、どんなチームが相手でも得点できると自信満々に言えるほど、圧倒的な力を保持しているわけでもない。

 ならば、限られた手持ちの武器を”いかに強力に見せ、相手に脅威を与えるか”。それが勝負のカギとなる。

 J1初昇格の長崎、つまりは対戦時に勝ち点3を確実に稼いでおきたいチームを相手に、0-0の時間が長く続けば、対戦相手には多少なりとも焦燥感が生まれる。だからこそ、選手たちは「0-0の状態を長く続けることが重要」だと口をそろえるのである。高木監督も「もし0-0で、後半のあの(長崎が攻勢の)展開になっていれば、もっと鹿島はビビったはず」と振り返る。

 シーズン全体のおよそ3分の1に当たる第12節を終え、長崎は勝ち点14で14位につけている。開幕前は断然の降格候補と目されていたことを考えれば、大健闘と言っていい。新米J1クラブでは貴重な、100試合を超えるJ1出場経験を持つ徳重は言う。

「初めてのJ1でスピードや技術の違いを見せつけられると、選手一人ひとりが自分だけ置き去りにされているような孤独感を覚えてしまうことがある。でも、自分たちは常にチームで戦っている。そういう気持ちや雰囲気を作っていきたい」

 身の丈に合った戦いができているのは言うまでもないが、その身の丈は意外なほど高く、しかも、実際の身の丈以上に大きく見せる術(すべ)も心得ている。

 長崎、大健闘の理由である。