アゼルバイジャンGP決勝後、トロロッソ・ホンダのドライバーたちは落胆の表情を隠そうともしなかった。時速300kmでハースのケビン・マグヌッセンに幅寄せされてポイントを失ったピエール・ガスリーはわかるとしても、F1初ポイント獲得を果たし…

 アゼルバイジャンGP決勝後、トロロッソ・ホンダのドライバーたちは落胆の表情を隠そうともしなかった。時速300kmでハースのケビン・マグヌッセンに幅寄せされてポイントを失ったピエール・ガスリーはわかるとしても、F1初ポイント獲得を果たしたブレンドン・ハートレイまでもが疲労と苛立ちの入り混じったような顔を見せた。



初入賞を果たしたブレンドン・ハートレイの表情は明るくなかった

 それは、レースでの彼らのマシンSTR13の競争力が欠けていたからだ。

 スタート直後にレッドブルとルノーの背後7位まで浮上しながらも、あっという間に12位まで後退してしまったガスリーは、かなり明け透けな言葉で不満を口にした。

「ストレートでどんどん抜かれてしまったんだ。かなり車速差が大きくて、DRS(※)ゾーンにさえ入らないうちに抜かれてしまった。まったく戦えなかった。今週末はずっと最終セクターのペース不足に苦しんできたけど、レースではさらに厳しかったんだ。(レース序盤に次々と抜かれた場面は)かなりフラストレーションを感じたよ」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 ハートレイも初入賞の喜びとは無縁の表情だった。

「F1での初ポイントを獲得できたことは、とても嬉しいよ。でも、今日はずっとディフェンスのレースだった。ペースがなかったんだ」

 前戦中国GPで不振に陥ったのは、回り込むようなコーナーでのマシンバランスの悪さが理由だったが、直線と直角コーナーしかないバクーでは、STR13のポテンシャルは決して低くはなかった。

 予選でハートレイがウォールにヒットしてホイールを割り、直後を走っていたガスリーとあわや接触というアクシデントもあって満足なアタックができなかったが、本来ならウイリアムズと同等かそれ以上の速さはあったはずだ。

「前にブレンドンがいるのはわかっていて、ターン12を抜けたあたりで、すでに自己ベストより0.6秒速かったし、これで最終セクターで少しでも彼のスリップストリームが使えれば、楽に0.8〜0.9秒くらいはタイムアップできるなと思っていたんだ」(ガスリー)

 チームとしてはQ1で1分43秒9は十分記録できる速さがあったと分析しており、これならウイリアムズとマクラーレンの前で12位だった。

 中団グループの真ん中で争う力はあった。しかし、マシンのセットアップはまだ万全とは言えなかった。

「ルノーやフォースインディアとの差は大きすぎた。グリップ的にもマシンバランス的にもまだ苦しんでいるし、マシンを正しいウインドウに入れるのに苦労している。その理由はまだ把握できていないし、パフォーマンス的にはまだまだ足りていない状態だよ」(ガスリー)

 2kmに及ぶ長いストレートでは、予選時の最高速はまずまず伸びた。

 現状ではコンサバティブな使い方をしているホンダ製パワーユニットは、中国GPから予選だけややアグレッシブなモードで5kW(約7馬力)ほどのパワーアップを果たしたルノーに、わずかな差をつけられているのは事実だ。しかし、ドラッグが小さいSTR13は単独走行でフェラーリやウイリアムズとほぼ同じ325km/hまで車速が伸びており、大きな不利にはなっていなかった。

 ただし、決勝では違った。

 予選では常にDRSが使えるが、決勝では前走車1秒以内につけていなければDRSを使うことができない。すると、メインストレートとバックストレートで長時間にわたって空気抵抗が大きな状態での走行を強いられてしまう。

 事前にバッテリーをフル充電してアタックに備え1周4MJ(メガジュール)を放出できる予選とは異なり、決勝では2MJずつしか充電・放出ができない。MGU-H(※)で発電して直接MGU-K(※)に送って放出することもできるが、MGU-Hで発電すればそのぶんターボの効きは弱まり、コーナーの立ち上がりでは逆にMGU-Hを電気で回してターボ過給を助けたほうがラップタイムは速くなる。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。
※MGU-K=Motor Generator Unit-Kineticの略。運動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置。



「エネルギーマネジメント」という新たな課題も浮上したトロロッソ・ホンダ

 そのため決勝では1周全体にERS(エネルギー回生システム)の120kW(約160馬力)を効かせることはできず、バッテリーからの放出が切れて1.6リッターV6ターボエンジンだけで走る”ディレイト”といわれる状態にならざるを得ない。

 だからこそ、パワーユニットの制御が重要になる。どこでどれだけ発電し、どこでどれだけ使うか。いわゆる”エネルギーマネジメント”と呼ばれるセッティングを、エンジニアたちは極めて複雑で緻密な計算の上で組み上げるのだ。

 そこに問題があった。長いストレートが連続するバクーに来て、初めてホンダのエネルギーマネジメントに綻(ほころ)びが生じた。ガスリーは決勝でのフラストレーションをこう説明する。

「DRSを使えない状況下では、僕らの厳しさが増したんだ。エネルギーマネジメントに苦しんでいるし、ここのレースではそれがとてもクリティカル(致命的)だからね。レース序盤にはウイリアムズやペレス(フォースインディア)にターン20でもう横に並ばれて、ストレートエンドまでにはもう抜かれてしまっていた。

 エネルギーマネジメントをもっとうまくやることができなかったか、どうすればうまくやれたのか、それも見直さなければならないだろう。エネルギーマネジメントに関しては開幕戦からそれほど苦しんではいなかったけど、今週末はこれまでよりも(ライバルとの)差が大きくなってしまった」

 ドライバーとしては、ストレートでバトルをしている際にオーバーテイクボタンを押して仕掛けたり、ディフェンスしたりしたくなるものだ。それが余計にバッテリー消費を速くし、必要な場所での充電もできず、エネルギーマネジメントはさらに狂う。

 絶対に抜けないセクター2を速く走り、1周のラップタイムを速くしても、ストレートでのバトルで戦えなければ意味がない。こうした想定が十分ではなかったのだ。

 ストレートでバトルができず、なす術(すべ)なく抜かれてしまうと、フラストレーションは溜まる。レース後のドライバーふたりの表情に表れていたのは、そんな疲労感と苛立ちだった。

 トロロッソとの技術ミーティングが終わった午後9時から、ホンダ陣営はさらにホンダ内でのブリーフィングを続けた。エネルギーマネジメントについて聞くと、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターの表情は厳しいものになった。

「レース展開のなかでのさまざまな状況に対して、エネマネ(エネルギーマネジメント)を最適化できていませんでした。それは大きな反省点です。エネマネをもう一度見直さなければなりません。

 予選のパフォーマンスは、セクタータイムで見れば本来はウイリアムズと同等以上だったと思いますし、金曜日の状況を見るかぎりロングランもそんなに悪くないと思っていたんですが、フタを開けてみると予想以上に苦しみました。長いストレートでスパスパッと行かれてしまい、マシンパッケージとしての最高速が足りなかったのは明らかでした」

 最高速不足はパワーユニットだけで決まるわけではない。レース序盤にレッドブル勢がルノー勢に簡単に抜き去られ、ドライバーたちが「バッテリーが充電されない!」としきりに訴えていたのも、エネルギーマネジメントのセッティングに問題があり、充放電が思ったようにできず”ディレイト”が発生していたからだ。2年前の初開催時には、メルセデスAMGもレース用セッティングの一部に計算ミスがあり”ディレイト”に苦しめられた。

 今季ここまでストレートでもまずまずの競争力を保ってきたホンダにとっては、初めての事態と言えた。

 そして上海よりは幾分マシになったとはいえ、低速コーナーからのトラクションも決してよくはなかった。立っているだけで飛ばされそうになるほどの強風のなかで、その影響もあった。

 中国GPの後に残った大きな宿題は、まだ解決できていない。

「長いストレートがあって、マシンパッケージ的に苦しいサーキットだということはわかっていたけど、車体側もコンペティティブ(競争力がある)ではなかった。ブレーキングではコンペティティブなようだけど、トラクションが最大の問題でペースが速くない。

 風が強いコンディションというのは、僕らのクルマに合っていない要素のひとつだ。どうすればこのマシンが(バーレーンのように)あそこまでコンペティティブになるのか、僕ら自身もまだわかっていないんだ。何からこの差が生まれているのか、現状ではハッキリと理解し切れていないし、究明しなければならない」(ガスリー)

「原因はわからないよ。僕が聞きたいくらいだ。どうしてバーレーンであれだけ速くて、ここでは遅かったのか、現時点では僕らはハッキリとした答えを持っていないんだ。金曜日のフリー走行では硬めのタイヤではまずまずの速さがあったんだ。でも、今日はペースがなかった。僕らはもっとパフォーマンスを取り戻さなければならないし、やらなければならないことが山積みだよ」(ハートレイ)

 ホンダもトロロッソも、ともにまだまだ解決すべき問題を抱えている。ヨーロッパラウンド開幕となる次のスペインGPには、多くのチームがアップデートを持ち込む。周りが前進するなかで自分たちが前進できなければ、もしくはその歩幅が小さければ、相対的に後退することになってしまう。

 大混戦の中団グループで、その中にとどまることができるか。はたまたその先頭に立てるか、下位に取り残されてしまうか。トロロッソ・ホンダにとっては早くも正念場が近づいてきている。