鹿島アントラーズ、横浜F・マリノス、浦和レッズ、ガンバ大阪、そして名古屋グランパスと、優勝経験のある「オリジナル10」のクラブが苦戦を余儀なくされているのは、今季のJ1序盤戦のサプライズだろう。前線の田川亨介も攻撃の形が作れずに苦しん…

 鹿島アントラーズ、横浜F・マリノス、浦和レッズ、ガンバ大阪、そして名古屋グランパスと、優勝経験のある「オリジナル10」のクラブが苦戦を余儀なくされているのは、今季のJ1序盤戦のサプライズだろう。



前線の田川亨介も攻撃の形が作れずに苦しんだ

 そんな名門たちに隠れるように(?)、サガン鳥栖も苦悩の戦いが続いている。第10節終了時点、わずかに2勝のみで16位と低迷。2012年にJ1に昇格して以降、目立った成績こそ残せていないが、鳥栖は粘り強い戦いでJ1に踏みとどまってきた。昨季は2年目のマッシモ・フィッカデンティ監督のもとで8位とまずまずの結果を残しており、今季はさらなる上位進出を目論んでいたはずだ。

 今季の鳥栖は開幕からヴィッセル神戸、V・ファーレン長崎と2試合連続で引き分けたものの、第3節に横浜FMを下して初勝利を挙げた。続く鹿島戦には敗れたが、第5節には名古屋を撃破。開幕5試合で2勝2分1敗と、まずまずのスタートを切っていた。

 ところが第6節にセレッソ大阪に敗れると、そこから5連敗。坂道を転げ落ちるように順位を落としていった。

 そして迎えた第11節のG大阪戦。同じく低迷するチームとの一戦は、好転のきっかけを掴むチャンスであったはずだ。しかし、0−3となすすべなく敗れ、ついに6連敗。G大阪にかわされて、下にいるのは名古屋だけという状況に陥っている。

 この日の鳥栖は3バックを敷いたが、前半から押し込まれる展開が続き、5バックのような布陣でG大阪の攻撃に粘り強く対応。その分、前の人数が足りず攻撃に迫力を欠いたものの、スコアレレスで前半を折り返せたのは、アウェーであることを踏まえても悪くはなかった。

 後半に入るとウイングバックの攻撃参加も増え、サイドからいい形が生み出されるようになる。もっともここで決めきれないでいると、68分、左サイドでボールを奪い切れずに絶好のパスを通され、MF倉田秋に鮮やかな左足ミドルを叩き込まれてしまった。

「前半はせっかくボールを奪っても、カウンターを仕掛けるところがうまくいかなかった。後半は修正して、いい展開で進んでいたと思うが、サッカーとはゴールで試合が動いていくスポーツ。あのすばらしいゴールが決まってしまい、一発で流れが変わってしまったという印象です」

 フィッカデンティ監督がそう分析したとおり、この失点が鳥栖にとっては痛かった。その後はバランスを崩して前がかりになるも、G大阪にとってはカウンターを発動させる、おあつらえ向きの展開に。案の定、鳥栖は相手の速攻から2点を失い、0−3の完敗を喫した。

 3失点もさることながら、鳥栖の抱える問題は得点力不足に尽きるだろう。これで4試合連続の完封負けである。指揮官の言葉を逆説的に捉えれば、ゴールが奪えないのだから、試合を動かすことができないのだ。

「攻撃のバリエーションがなく苦しかった。ボールを奪っても裏に蹴るだけのワンパターンになってしまった。そこは、修正すべきところかなと思います」

 キャプテンを務めるDF吉田豊は、こう課題を口にする。2トップの一角に入った19歳のFW田川亨介も「僕が裏に抜ける形が多いですけど、そればっかりになっているので、もう少しパターンがほしい。セカンドボールもなかなか拾えないので、中盤も押し上げられず、前で孤立する難しい状況になりました」と、攻撃の形が作れない現状に苦悩しているようだった。

 田川が言うように、鳥栖の攻撃を見ていると、明らかに前の人数が足りていないことがわかる。本来は高い位置でボールを奪い、人数の揃った状態で攻撃に転じたいところだが、G大阪戦では後方でしのぐことを強いられ、結局アバウトなボールを放り込んで前線を走らせるしか術(すべ)がなかった。これでは、得点を奪うのは難しい。

 戦力的な問題もあるだろう。今季の鳥栖は、これまでエースとして君臨してきた豊田陽平が韓国の蔚山現代に期限付き移籍し、屈強なコロンビア人FWのビクトル・イバルボを軸としたチーム作りに着手していた。ところが、そのイバルボが負傷離脱。第6節のC大阪戦を最後にピッチに立てておらず、第8節から始まった無得点試合は、彼の不在と無関係ではないはずだ。

「今は戦力が揃っていない状態ですが、ケガ人ももうすぐ戻ってくる。全員が揃ったときにしっかりと巻き返すために、今は冷静さを失わずに耐えながらやっていきたい」

 今は我慢の時期だと、指揮官は語る。イバルボをはじめ、ケガ人が戻ってくれば巻き返せるはずだというわけだ。もちろん、苦境を打開するには個の力が求められる。だが、果たしてそれだけですべてが好転するだろうか。

「イバルボは相手をふたりくらい引きつけてくれるので、その能力には助けられますが、それよりも重要なのは、ひとりひとりが犠牲心を持ってやれるかどうか。僕らは本来、走れるチーム。そこをもっと自信を持ってやらないといけない」

 吉田が言うように、昨季までの鳥栖は「ハードワークが売り」のチームだったはずだ。実際にトラッキングデータを見ると、もっとも走ったチームだったことがわかる。

 しかし、今季の平均走行距離はリーグで13位(第10節終了時のデータ)にとどまっている。ただ単に走ればいいというわけではないが、走りが特長であったチームがそのストロングポイントを失ってしまえば、結果を出せないのも必然である。

 6連敗の現実は、選手たちに重くのしかかっている。

「もっと割り切っていいと思います。引き分けでも連敗を止めるのが大事。今日はドローでもよかったと思う。今のチーム状況を理解して、何かを変えないといけない。割り切らないと、ずっとこの状況が続くと思う。どうやって連敗を抜けられるかにフォーカスしないと、同じことを繰り返すだけだと思う」

 インサイドハーフを務めるMF原川力は悲壮感を漂わせていた。何かを変えなければ――。まだシーズンの3分の1を終えたに過ぎないが、鳥栖は早くも土俵際に立たされている。