そもそもJ1昇格1年目のクラブとしては、充実した戦力を備えていた。加えて、今季新たにブラジルからやってきた助っ人ストライカーは、近年のJリーグでは最高レベルと評判だった。昇格早々の上位進出もありうる。そんな予想をする向きは少なくなかっ…

 そもそもJ1昇格1年目のクラブとしては、充実した戦力を備えていた。加えて、今季新たにブラジルからやってきた助っ人ストライカーは、近年のJリーグでは最高レベルと評判だった。昇格早々の上位進出もありうる。そんな予想をする向きは少なくなかった。

 実際、開幕からの2試合は連勝スタート。開幕前に上位進出を期待した声は、次第に優勝候補に推す声へと変わっていった。わずかに1カ月半ほど前の話だ。

 ところが、その後は、ひとつの引き分けを挟んでまさかの8連敗。優勝候補の呼び声はどこへやら、名古屋グランパスは現在、最下位に沈んでいる。

 J1第11節、18位の名古屋は2位のFC東京に2-3で敗れた。

 泥沼の連敗を抜け出せない名古屋に対し、東京は開幕からの3試合こそ2敗1分けと出遅れたが、その後は7勝1敗と怒涛の快進撃。あまりに対照的な歩みを見せるふたつのクラブの対戦は、現在の勢いがそのまま反映される結果に終わった。

 なかなか勝てずにいると、運にまで見放されてしまうものなのか。名古屋のそんな悪循環を象徴していたのは、東京が2-1でリードして迎えた後半開始直後のプレーだった。

 名古屋のDF櫛引一紀が縦パスを入れようと蹴ったボールが、FC東京のMF高萩洋次郎の足に当たってしまう。跳ね返ったボールが絶好のパスとなって、よりにもよってJリーグ屈指の俊足、FW永井謙佑の目の前へ。広大なスペースをドリブルで進んだ永井は、余裕綽綽(しゃくしゃく)でゴール前へラストパス。これをFWディエゴ・オリヴェイラが押し込み、結果的に決勝点となるFC東京の3点目が決まった。

 さらに時計の針を巻き戻せば、FC東京の先制点にしても、名古屋から見れば、あまりにやるせない失点だった。FC東京にPKが与えられた名古屋のファールはかなり際どく、どんなレフリーでも絶対に見逃してはくれないというほど、あからさまなものではなかった。風間八宏監督が「これだけアクシデントで試合を動かされると(勝つのは)難しい」と嘆くのも無理はない。

 連敗を止めるためにも先に失点はしたくなかった名古屋にとって、いずれも出鼻をくじかれる、あまりに痛い失点ばかりだった。結局、名古屋はブラジル人トリオの高い個人能力を生かしたセットプレーで2点を返すにとどまった。わずかに1点が遠かった。



ブラジル人トリオの活躍で1点差まで迫るが...

 前半はボランチで、後半は右サイドバックで奮闘したMF宮原和也は「(開幕直後の)勝っていたときは、もっと余裕を持ってプレーできていた」と語り、こう振り返る。

「相手に先制される試合が多く、追いかける立場になると焦ってしまう。シンプルに前へ前へ(ボールを蹴る)というのも大事だが、もっと落ち着いて余裕を持ってやれたらいいのに……、そういうシーンがいっぱいある」

 ボランチのMF長谷川アーリアジャスールもまた、「1点取られても、その後すぐに(同点ゴールを)取れて、せっかくいい流れになっているところで自分たちのミスで失点。後半立ち上がりも、これからいこうというところでの失点。相手は勢いがつくし、自分たちは(勢いが)なくなる」と、常に後手に回り続けた試合展開を悔しがる。

 ただのひとつの引き分けもなく黒星が8つも並ぶなどという事態は、いかに負傷者が続出したと言っても、名古屋の戦力から考えれば、理屈で説明するのは難しい。運も含め、負のスパイラルに陥っている。そうとしか言いようがない。

 とはいえ、泥沼にはまっている監督や選手から聞かれたのは、決してネガティブな言葉ばかりではない。

「選手は(自分たちがやろうとすることを)やり続けてくれた。精神的に強かったし、よくやった」(風間監督)

「戦う気持ちはよく見えた。最後まで戦う気持ちを出せたことには満足している」(FWジョー)

 加えて、幸いにしてというべきか、敗戦後のゴール裏では、サポーターが選手たちを拍手で迎えた。

 8連敗という結果ばかりでなく、内容的に見ても名古屋らしいサッカー――ボールポゼッションで相手を圧倒することが、必ずしもできているわけではなかったが、それでもゴール裏で声をからすサポーターは、チームがどんなことに取り組んでいて、今がどういう段階であるかを理解していた。

 真の強豪クラブとなるためには、一貫した方針のもと、腰をすえた強化が必要なのは間違いない。目先の結果ばかりにこだわり、志向するサッカーがコロコロと変わっていては強くなれない。名古屋は現在、自らのスタイルを確立するため、進むべき道を着実に歩んでいるように見える。

 ただし、今立つ道を迷わず進むと決めたのなら、それなりの痛みが伴うことは、もはや覚悟しなければなるまい。第11節を終了して勝ち点7の最下位は、過去の歴史に照らせば、J1残留が極めて厳しい立場に立たされていることを意味する。どうしてもJ2再降格を避けたいのなら、手を打つべきだろう。事態は一刻を争う。

 はたして名古屋の決断や、いかに。