上海の落胆から11日――。トロロッソ・ホンダは大きな宿題をこなして、このアゼルバイジャンにやってきた。あの失速の原因は何だったのか? 英国ミルトンキーンズでシミュレーター作業を行ない、バクーで再合流したチームから技術ブリーフィングで詳…

 上海の落胆から11日――。トロロッソ・ホンダは大きな宿題をこなして、このアゼルバイジャンにやってきた。あの失速の原因は何だったのか?

 英国ミルトンキーンズでシミュレーター作業を行ない、バクーで再合流したチームから技術ブリーフィングで詳細を聞かされたピエール・ガスリーはこう語った。



ブレンドン・ハートレイはバクーのレースに前向きなコメントを残した

「原因は小さなことだったんだ。だけど、たくさんの小さなことの積み重ねがマシンバランスとパフォーマンスに大きな影響を及ぼしてしまった。何かが決定的に大きな影響を及ばしたわけではないけど、小さな要素が組み合わさってパフォーマンスが打撃を受けてしまったんだ」

 たくさんの”小さな理由”とは、まずコース特性にSTR13のマシンパッケージが合っていなかったことだ。

「長く回り込むようなコーナーとか複合コーナー、特にターン3やターン13のようにトラクションが複合的なセクションだ。そういうコーナーでは、僕らは他チームのクルマに比べて苦しいということがわかった」(ガスリー)

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこの理由を次のように説明する。

「(コーナーの中で)フロントが入らないで出て行ってしまうし、そういう状況でコーナーの出口に向かっていくと、今度はトラクションが不足するということで、マシンバランスがディスコネクト(マシンの前後に一体感がない)という状態ですね。曲がれない、踏めないっていうことです」

 土曜日に施したセットアップがマッチしなかったこともあるが、現状のSTR13としては、こうした長いコーナーに合っていないという結論に至らざるを得なかったというわけだ。

 ただし、それだけであそこまで低迷したわけではない。前述のように”小さな理由”はまだまだある。

 データ解析の結果わかったのは、やはり風の影響を受けていたということだ。ブレンドン・ハートレイはこう語る。

「風の強い状況のなかで、マシンをいかに仕上げるかというのはチームにとって課題のひとつだ。どのマシンも風の影響は受けるものだけど、僕らのマシンは他車以上に風の影響を受けやすいみたいなんだ」

 通常、F1マシンは時速300km/h近い走行風を受けてウイングやボディワークでダウンフォースを生み出す。しかし、ダウンフォースがほしいコーナリング中に強い追い風が吹いていれば、それだけ走行風は弱くなる。斜めから風を受ければ、ダウンフォース発生量が不安定になったりする。STR13はそういった風によるダウンフォース発生量の減少が大きいというわけだ。

 それ以外にも「風向きであるとかバンプであるとか、コース図で見ただけではわからない要素も含めての弱点」と田辺テクニカルディレクターは語る。温度変化によるタイヤのウォームアップや、バーレーンから採り入れた新しいフィロソフィによるメカニカル面のセットアップの成否など、まだはっきりとわかっていない小さな要素はいくらでもある。

 トロロッソ・ホンダとしては、こうしたさまざまな要素が絡み合って上海の不振につながったと考えており、その分析が正しいかどうかを、このバクーの週末に確認することになる。

 バクーは中高速コーナーがなく上海とは特性が異なるため、すべてが完璧に確認できるわけではない。だが、セットアップの部分的な反応にフォーカスすることで、その答えを導き出すことは可能だろうという。

「どういう状況だったのかというデータ解析・要因解析をして、自分たちの弱かったところから推定原因を導き出していきます。現状ではそれは推定でしかありませんから、これから実走上で確認しながら自分たちの推定したとおりであるかどうかを突き止めていくというところです。(推定が正しいかどうか)100%クリアにするには上海に行かなければならないわけですが、(バクーでの走行でも)端々にセッティングに入れ込んで善し悪しを見ながら確認していくことになります」(田辺テクニカルディレクター)

 バクー・シティ・サーキットはカスピ海沿いを走る約2km、時間にして連続24秒前後という極めて長い全開区間がある。4メーカーのなかでもっとも非力なホンダ製パワーユニットにとっては、これはもちろん厳しい要素だ。

 バーレーンでも上海でもストレートで速度負けしなかったトロロッソ・ホンダだが、ここではやや苦戦を強いられるかもしれない。

「トップスピードでは依然として不利を背負っているよ。これはパワーとドラッグのバランスによるものだけど、メインのライバルたちと比べてストレートは少し遅いんだ。だから2kmのストレートは理想的じゃない」(ガスリー)

「ジェームス・キー(トロロッソ・テクニカルディレクター)の言い方を借りれば、モナコとモンツァがくっついたようなサーキットです。だから、そのバランスですよね。どこでタイムを稼ぐかということを考えながら、ストレートのスピードと低速コーナーでの安定性とのバランスをどう出せるかが重要です。PU(パワーユニット)的にはストレートが長いとICE(エンジン本体)的には厳しくなりますけど、電気の使い方も上手に合わせていくというのが、ここでのキーポイントになると思います」(田辺テクニカルディレクター)

 長いストレートが目立つバクー・シティ・サーキットだが、それ以外は低速の90度コーナーがほとんどで、ストップ&ゴーの特性。これはつまり、バーレーンと似ているとも言える。

 ガスリーは「低速コーナーは僕らの強みのひとつだし、(高速コーナーが少ない分)空力的な影響が小さいサーキットでもある。だから、僕らにとってはいい方向になるかもしれない」とは言うものの、「ただし計算上では、すごくウチのマシンに合っているサーキットというわけではない」と、無用な期待はしまいと自分に言い聞かせるように慎重な姿勢を崩さない。

「Q3に行けるかどうかはまだわからないけど、もちろんそれが目標だし、それを果たすために全力を尽くすよ」

 しかし一方で、ハートレイはそれに比べてやや野心的だ。

「ここのコース特性はストップ&ゴーで上海よりもバーレーンに似ているし、バーレーンで見せたようなパフォーマンスがここでも出せないという理由はないと思う。トロロッソは去年ここでもコンペティティブだったし、カルロス(・サインツ)はポイントを取っている。今回もQ3進出を目指しているよ」

 まずは、この10日間でこなしてきた宿題の答えが正しいかどうか。それによって、トロロッソ・ホンダがここで大きく前に進めるかどうかがはっきりと分かれる。

 そして、バクーという特殊なサーキットでどのようなパフォーマンスが発揮できるか。それはまた別の要素として、この週末にトロロッソ・ホンダに襲いかかる。彼らがこのバクーでどこまでそれに対処することができるか、楽しみだ。