「Jogamos pouco」 湘南ベルマーレに1-0で敗れた後の記者会見で、ガンバ大阪のレヴィー・クルピ監督は少し疲れた表情で言った。ポルトガル語で「我々はほとんどプレーできていない」。それが直訳だろうか。それぐらい攻守にちぐはぐだっ…

「Jogamos pouco」

 湘南ベルマーレに1-0で敗れた後の記者会見で、ガンバ大阪のレヴィー・クルピ監督は少し疲れた表情で言った。ポルトガル語で「我々はほとんどプレーできていない」。それが直訳だろうか。それぐらい攻守にちぐはぐだった。

 J1第10節終了段階で、2勝1分7敗。名門ガンバは18チーム中17位と低迷している。なぜガンバはこれほど、もたついているのか?

 所属選手には、遠藤保仁を筆頭に日本代表選手級がずらり。昨年末のE-1選手権では、日本代表にJリーグクラブ最多の6人を送り出していた。戦力を考えれば、残留争いをするようなチームではないだろう。

 しかし、この日は不振を象徴するような不安定な戦いぶりだった。



4年ぶりにJリーグに復帰、今季からガンバ大阪を指揮するレヴィー・クルピ

 4月25日、BMWスタジアム平塚。ガンバは湘南のホームに乗り込んでいる。前節、大阪ダービーではセレッソを打ち負かした。その余勢を駆っているはずが、前半のプレーは目を覆うばかりだった。

 立ち上がりから、戦術的な練度の低さを露呈。前線からのプレスは甘く、ボランチも食いついては離され、ポジションを空けてしまい、最終ラインは敵の攻撃を”堀も石垣もない”状態で受け止めなければならない。防御線が確保されていないことで、組織的な湘南のプレーに簡単に突破されていった。

「もう少しラインを押し上げたかったが、ボールホルダーがフリーの状況で……。中盤で(プレスに)いくタイミング、いかないタイミングがつかめず、結局はマンツーマンの対応で後手を踏んでいた」(G大阪・DF菅沼駿哉)

 湘南は前線から差し込み、最終ラインの選手に自由を与えない。ビルドアップで機能不全を起こさせることに成功。これで自分たちがボールを持てるようになると、それぞれが正しいポジションを献身的に取ってボールを動かし、奪われてもセカンドボールを拾い、優位に立った。組織としての戦術的熟成で、ガンバ大阪を完全に上回っていた。

「隣の選手同士で温度を感じていくというか。ユニット、という話を選手にはしました。今日はお互いのやりたいことがつながった、と思います」(湘南・曺貴裁監督)

 前半16分だった。ガンバは組織が破綻し、先制点を浴びる。右サイドを破られかけ、慌てて2人で対応に行くも、クロスを折り返される。エリア内で受けた相手FWのシュートを2人がかりでブロックするが、こぼれ球を拾われ、菊地俊介に突き刺された。相手ボールに複数の人が集まって、それを守りきれなかったら、必ず隙は生まれる。

 その後もガンバはサイドを中心にポイントを作られ、決定的なシュートを打たれており、大量失点してもおかしくはなかった。適切なポジショニングや各自の仕事分担が徹底されていない。それによって生じた不安定さだった。

 もっとも、後半のガンバは少し違う顔を見せる。ボランチの高江麗央を下げ、敵陣に切り込める中村敬斗を投入し、遠藤をボランチに落とした。遠藤が配球役に回り、倉田秋、藤本淳吾にボールが入るようになる。ボールを持つ時間が増えたことで、個人の力量差が出た。

「前半も後半のような戦いができていれば、なにも問題はない。(終盤は)相手も足が止まり始めていたし。(戦いの)波を減らして、安定した戦いができるようになれば……」(G大阪・遠藤)

 ただ、ガンバは結局、攻めきれていない。ボールは支配したものの、決定機は湘南のほうが多かった。シュート数は16本対3本。1-0という最少失点の敗北は、幸運だった、と言うべきだろう。

 前半と後半の落差は、チーム戦術が浸透していない証左だろう。戦術という基本的な形、原則が定着していないことで、各選手がフィーリングでプレーしている。感覚が合えばうまくいくし、個人でも圧倒できるのだが……。

 そこにブラジル人監督の功罪があるかもしれない。

 クルピ監督はセレッソ大阪監督時代、香川真司、乾貴士、家長昭博、清武弘嗣、柿谷曜一朗、南野拓実など、多くの攻撃的選手の才能を引き出した人物である。今回も、17歳のFW中村を抜擢するなど、その持ち味は十分に出している。ブラジル人監督特有なのだろうが、自由を与えることと引き替えに閃(ひらめ)きを要求する。戦術に縛られないことで、選手は直感的プレーを爆発させることができる。

 その点、名伯楽と言えるだろう。

 しかし、クルピは「個」を旋回の軸にしているだけに、選手の質に左右されるところが多分にある。組織としては自由度が高すぎて、チームの安定にはつながらない。やや攻撃の選手の感覚に偏りすぎるというべきか。

「(もどかしさを)変えていくのは選手しかない。置かれている状況を整理しながら。もっとやらないかんのは自分自身だと思っているんで」(G大阪・MF倉田秋)

 今後、選手同士のコンビネーションが噛み合う時間が増え、才能があふれ出すのか。あるいは敗れ続けることで自信を失い、このまま転落するのか。クルピ・ガンバは、岐路に立っている。