蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.19 2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。 サ…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.19
2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝のプレビュー。バイエルン対レアル・マドリーという、欧州の巨大クラブ同士の激突は、はたしてどちらが凱歌をあげるのか。好調のロナウド、同じく状態のいいロッベンやリベリーらを両監督はどう起用するのか?
連載記事一覧はこちら>>
――それでは、次にチャンピオンズリーグ準決勝のバイエルン対レアル・マドリー(第1戦;4月25日、第2戦;5月1日)を展望していきたいと思います。ヨーロッパのカップ戦では歴代最多の25回を数えるこの対戦ですが、バイエルンはマドリーの3連覇を阻止することができるのでしょうか?
百戦錬磨のハインケス監督(左)とCL連覇中のジダン監督
倉敷 ヨーロッパの巨人同士の戦いですね。チャンピオンズリーグ(カップ時代を含む)における過去の対戦成績はバイエルンの11勝2分け11敗。36ゴール37失点とほぼイーブンです。
ただ、ここ5シーズンに6度対戦していますが、目下マドリーが5連勝とバイエルンを圧倒しています。この流れが続くのか、変わるのか、中山さんはバイエルンのホームで行なわれる第1戦をどう見ていますか?
中山 まずホームのバイエルンは、ユップ・ハインケス監督が準々決勝の第2戦のようにアリエン・ロッベンとフランク・リベリーの”ロベリー”を両ウイングに使うのではないかと予想しています。この2人の突破力を有効活用することで、マドリーの両サイドバックを封じ込めることにもつながりますしね。
ただし、この選択をして4-3-3を採用する場合、中盤の底はハビ・マルティネス、右は好調のトーマス・ミュラーを起用すると思うのですが、もうひとりを誰にするかが悩ましいところです。
本来であればアルトゥーロ・ビダルなのですが、彼は手術を受けたために欠場が決定的。ハメス・ロドリゲスやティアゴ・アルカンタラでは守備面に不安があるし、コランタン・トリッソやセバスティアン・ルディにしても”帯に短し襷(たすき)に長し”という印象は否めません。
そう考えると、ハインケスが久しぶりにミュラーをトップ下に置いた4-2-3-1を使う可能性も否定できないのではないでしょうか。
逆に、マドリーのジネディーヌ・ジダン監督は、バイエルンのサイド攻撃を警戒して、マルコ・アセンシオとルーカス・バスケスを使った中盤フラットの4-4-2で臨むのではないかと思っています。
やはりこの試合のポイントはサイドの攻防になると思うので、中盤をひし型にするとマルセロとダニエル・カルバハルが鎧(よろい)なしで戦わなければならなくなってしまいますから、それはバイエルン相手には危険過ぎます。
小澤 当然、バイエルンはマルセロのサイドを狙ってくるでしょう。これに対してマドリーは、セルヒオ・ラモスがマルセロの背後のスペースを素早くカバーして、セルヒオ・ラモスが空けたスペースにカゼミーロが下がって対応するという守備戦術を徹底すると思います。
そうなった時に心配なのは中央で控えるロベルト・レヴァンドフスキですが、彼にはラファエル・ヴァランをマッチアップさせて対応します。
ただ、レヴァンドフスキはクロスに対しても強いですし、封じるのは簡単ではありません。しかも、準々決勝のユベントス戦でも露呈したように、GKケイロル・ナバスはクロスボールの処理が得意ではないので、マドリーとしてはクロスボールをいかに入れさせないかがポイントのひとつになると思います。
それと、この両チームの対戦で忘れてはいけないのは昨シーズンの準々決勝です。特にバイエルン側からすると、第2戦は主審のジャッジによって敗れたという印象が強く残っているはずなので、モチベーションは相当に高いと思います。スペインの『マルカ』紙でも、この対戦が決定した翌日の一面で、退場処分を受けたビダルの写真が掲載されていたほどです。
マドリーとしては受けたくはないけど受けざるを得ないという第1戦になると思いますし、だからこそジダンはアセンシオとルーカス・バスケスを起用して中盤をフラットに並べた4−4−2のシステムを使う可能性もあると見ています。
倉敷 アップ・トゥ・ロングでみると、意地悪な目線ですが、マドリーに対する主審のジャッジには注目が集まりそうですね。特にアディショナルタイムあたりでしょうか。これがまずアップの目線、そしてロングの目線で見れば驚くべきフィード技術にどうしても目がいきます。
バイエルンのCBコンビ、マッツ・フンメルスとジェローム・ボアテングのフィード能力は傑出しています。近年のフットボールはハーフウェイライン後方からの仕掛けが重要なのですが、この2人はもっと深いところからピンポイントのパスを前線に送ることができる。マドリーもロングボールをうまく使えるチームですが、バイエルンの2人はラ・リーガでも滅多にお目にかかれないレベルです。
中山 おっしゃる通り、マドリーはそのロングパス対策を考えなければいけません。とはいえ、クリスティアーノ・ロナウドに守備のタスクを与えるわけにもいきませんし、カリム・ベンゼマひとりでは限界があります。
かといってフンメルスとボアテングを自由にさせると、そこからロッベンやリベリーに正確なロングパスが入ってしまうので、対峙するマルセロとカルバハルが自分のポジションを留守にできなくなってしまいます。
何本かのパスを経由するならセルヒオ・ラモスも対応できると思うのですが、1本のロングパスの場合はカバーリングが間に合わないので、ジダンにとってはそこをどうするかが問題だと思います。当然、最終ラインからレヴァンドフスキにボールを入れることもあるので、本当に難しいですよね。
倉敷 アウトサイドでの攻防はイーブンか、ややバイエルン有利でしょうね。ならば、真ん中という選択肢はどうでしょう。マドリーには中央から攻めきることができる選手が揃っていると思いますし、バイエルンのアンカー、ハビ・マルティネスの両脇は狙い目になるのではないでしょうか。彼は前を向いていてこそ真価を発揮するタイプで、横や斜めから崩して突破さえしてしまえば追いかけられてもそう怖くはない。
小澤 イスコが出場する場合、ハビ・マルティネスとのマッチアップでは中央で優位性を持てると思います。ただ、アセンシオ、バスケスが起用されても彼らはマルティネスの両脇のスペースを取りにいくとは思います。
セビージャ戦でもバイエルンは右のパブロ・サラビアにかなりうまくそのスペースを取られ、そこを起点に攻め込まれていましたから。
中山 その点を考えた場合、やはりバイエルンの中盤の守備力という部分は、不安材料になりますね。さすがにハビ・マルティネスの前にハメスとミュラーを並べるのはリスキーですし、最終的にビダル不在が大きく響くという可能性は十分にありますね。
倉敷 UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)がマドリーからローン移籍中のハメス・ロドリゲスに出場許可を与えたので、中盤での彼の使い方はポイントのひとつでしょうね。ハインケスはプライドを尊重してくれそうな監督なのでハメスがどう応えてみせるか。
ただ、あくまで過去の傾向ですが、マドリー出身の選手はマドリー戦では活躍できていないんですね。ロッベンも例外ではありません。
小澤 マドリーの中盤の構成も、必ずしもカゼミーロとルカ・モドリッチとは限らないと思います。今シーズンのモドリッチは、脱税の裁判やケガの影響もあって、昨シーズンまでのような安定感あるパフォーマンスではありませんし、試合によっては極端に消えてしまうこともあります。
ボール保持の局面で見ても、相手の分析と対策が進んだこともあるのでしょうが、トニ・クロースとモドリッチがビルドアップでDFラインからボールを引き出し、相手陣内にうまくボールを前進させるという割合は減っている印象です。
それを考えると、カゼミーロとマテオ・コヴァチッチのダブルボランチという選択も十分に考えられると思います。
倉敷 しなやかな選択肢を持っているチーム同士、両監督のプランが楽しみですね。バイエルンはすでにブンデスリーガ優勝を決めているし、マドリーは現実的にここ一本に絞って集中している。コンディションにも大きな問題はなさそうです。
中山 ハインケスのチャンピオンズリーグ連勝記録はセビージャとの第2戦で引き分けたことによって「12」でストップしましたが、まだ無敗は継続しています。ハインケスにとってマドリーは、かつて自分が率いてチャンピオンズリーグ優勝を果たした古巣でもありますが、今回の対決でもチャンピオンズリーグでの強さを発揮できるのかという点も楽しみですね。
小澤 しかもバイエルンは、準決勝の組み合わせ抽選会の前に来シーズンからニコ・コヴァチ(現フランクフルト監督)の監督就任を発表して、前回チャンピオンズリーグ優勝を果たした2012-2013シーズンと同じ流れを作ろうとしています。
あの時も、翌シーズンからペップ・グアルディオラの新監督就任を発表して、ハインケスが三冠を獲得して有終の美を飾ったという過去がありますから、ゲン担ぎをしているのかもしれませんね。
倉敷 ジダンもチャンピオンズリーグでは2年連続優勝、監督として敗退した経験はありません。ハインケスか、ジダンか。戦術だけでなく監督がドレスルームで選手たちに与えてやれる特別な力も含めて見どころ満載です。最後の最後まで楽しめる、ハイレベルな試合が期待できそうですね。
連載記事一覧はこちら>>
>