表彰台には立てなかったとはいえ、昨季第7戦から4戦連続でのファイナル4進出。安定して上位に進出するという点において、室屋義秀が際立った結果を残していることは疑いようがない。 にもかかわらず、ある種の失望感をともなってその結果を受け止め…

 表彰台には立てなかったとはいえ、昨季第7戦から4戦連続でのファイナル4進出。安定して上位に進出するという点において、室屋義秀が際立った結果を残していることは疑いようがない。

 にもかかわらず、ある種の失望感をともなってその結果を受け止められてしまうのは、常に勝つことが期待される世界チャンピオンゆえの宿命と言うしかないのだろうか。




エアレース第2戦を4位で終えた室屋

 フランス・カンヌで開催されたレッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第2戦。スポーツとしての航空文化の普及度では世界一と言っても過言ではない国、フランスでの初開催となった記念すべきレースで、室屋は4位に終わった。開幕戦での2位に続き、2戦連続で上位には進出しているものの、またしても優勝には届かなかったのである。

 ラウンド・オブ・8までの室屋は、文句をつけようがないフライトを見せていた。ラウンド・オブ・14で記録した58秒015は全体で3位、ラウンド・オブ8での57秒374は全体で1位。室屋は昨季年間総合王者の肩書にふさわしい強さで勝ち上がっていった。
 
 表彰台を逃したファイナル4のフライトにしても、室屋が犯したミスは不可抗力によるものだったと言ってもいい。

 レース2日前の公式練習からずっと、世界的な映画祭でその名をとどろかすカンヌはほとんど風がなく、海も至って穏やかだった。ところが、レースデイのこの日、バーティカルターンに入るゲート8手前の1カ所だけ、時折風が吹き込んでいた。今にして思えば、何人かのパイロットがゲート8への進入直前、急にラインを修正するような動きを見せていた。前日までには見られなかった光景だ。室屋が振り返る。

「1周目のゲート8に入ってきたとき、パイロンに当たりそうになったのを避けてインコレクトレベル(ゲートを水平に通過しない)のペナルティを取られたが、それでも自分が風に流されたとは思っていなかった。だから、2周目もまったく同じことをしてしまった。前日までほとんど風がなかったし、この日もレーストラックの内側に波は立っていなかったので、完全に無警戒だった」

 果たして室屋は、優勝したマット・ホール、2位のマティアス・ドルダラー、3位のマイケル・グーリアンに2秒以上の後れを取ることとなった。

 ファイナル4は不運だった。常に自然との戦いを強いられるエアレースにおいては、ときにはこういうこともある――。ラウンド・オブ・8までが強い勝ち上がりだっただけに、そう言って割り切るべき結果なのかもしれない。

 実際、室屋自身も、「あまり考えても仕方がない。これはこれでいい経験だったし、反省はしなければいけないが、ミスが起きた理由ははっきりしているし、(2戦連続ファイナル4進出という)流れは悪くない。いいレッスンになったと思っている」と前向きに語る。
 
 その言葉が強がりではない証拠に、室屋は今季開幕前から一貫して、「すべてのレースで優勝を狙うのではなく、コンスタントに上位に進出してポイントを重ねていくことが結果的に年間総合優勝につながる」と話している。
 
 とはいえ、安定した成績も見方を変えれば、昨季の第7、8戦を連勝した後、今季開幕戦は2位、そして第2戦は4位と、理由はどうあれ、段階的に順位を落としているのもまた事実である。昨季終盤、あれほど室屋に微笑みかけていた勝利の女神が、次第にそっぽを向き始めたようにも見える。
 
 幸いなのは、開幕戦から第2戦までのおよそ2カ月半のインターバルを利用して行なった大掛かりな機体改造が、順調にその成果を示していることだ。室屋によれば、「まだフライトの回数が少ないので、必要なデータを取り切れていない。今回のレースでは、まだ機体性能を完全にはつかみ切れていなかった」というが、主に機体前面のカウリング部分に施された大改造が、「下手をすれば機体性能を落とす危険性もあったが、かなりの性能アップにつながっていることはどうやら間違いない」。



機体改造は順調なだけに、第3戦・幕張での勝利が期待される

 それだけに、「第2戦の後、機体を福島に持っていってテストフライトが十分にできるのは大きい」と室屋。ここで一度、活動拠点である、ふくしまスカイパークに腰を落ち着け、テストを重ねられることは、次戦のみならず、今季全体を見通しても極めて重要な意味を持つ。改造後の機体はホームベースで完全に仕上げられ、次のレースでこそ、本当の意味でバージョンアップした姿を披露することになるはずだ。

 次回第3戦は、5月26、27日に千葉・幕張海浜公園で開かれる。

 昨季終盤の奇跡的な猛追で逆転優勝を果たした年間総合王者は、依然勢いを持続しているのか。それとも、潮目は変わってしまったのか。
 
 室屋が世界チャンピオンとして初めて迎える日本でのレースは、凱旋レースとして大きな注目を集めると同時に、今季の年間総合優勝の行方を占う重要な一戦となりそうだ。