蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.18 2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。 サ…

蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.18

 2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。

 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。

 今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)準々決勝のレビュー。CL3連覇を狙うレアル・マドリーとバイエルンが、それぞれ難敵のユベントス、セビージャを退けた対戦を振り返ります。

――次は、チャンピオンズリーグ準決勝のバイエルン対レアル・マドリー(第1戦;4月25日、第2戦;5月1日)を展望していただきたいと思いますが、まずその前に、両チームの準々決勝を振り返るところからお願いします。

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後半終了間際、ロナウドがPKを決めて勝ち越し、何とか勝ち上がったレアル・マドリー

倉敷 まずユベントス対レアル・マドリーのレビューから。2試合を180分の試合としてみれば、マドリー圧倒的有利な展開から一転、『ローマは最高潮! ユベントスにはできますか?』というトゥットスポルトの見出しに応えるかのようなドキドキハラハラの終盤で、最後の最後で大きな議論を呼んだレフェリーの判定があり、突然終わったというゲームでした。まずマドリーが3−0で完勝したファーストレグを小澤さんはどうご覧になりましたか。

小澤 マドリーは、開始3分にクリスティアーノ・ロナウドが先制ゴールを決めたのが大きかったですね。いきなりアウェーゴールを奪えたことで、その後は落ち着いて試合を進められたと思います。そして、2点目はロナウドのオーバーヘッド。これは、ユベンティーノも拍手せざるを得ないような芸術作品でした。

 個人的にはもう少しユベントスが戦えると思っていたのですが、意外と何もないまま終わってしまった。逆に、マドリーとしては完璧な試合運びだったのではないでしょうか。

中山 ユーベ側から見ると、本来最大の武器であるはずのディフェンスにおいて、らしくないゲームをしてしまったことが敗因でしたね。1失点目は、ドウグラス・コスタとマッティア・デ・シリオが門を作って簡単にスルーパスを通されてしまったというイージーミスが原因でしたし、2失点目はGKとCBの連係ミスから生まれています。

 ジャンルイジ・ブッフォンとジョルジョ・キエッリーニという経験豊富なベテラン2人が、この大事な舞台でミスを犯してしまうとチーム全体の士気にもかかわってくるので、その時点でユーベに反撃するエネルギーは失われてしまったと思います。

 しかもその2分後、パウロ・ディバラが2枚目のイエローカードをもらって退場したことが決定打となりました。確かにミラレム・ピアニッチとメディ・ベナティアが出場停止だったことも影響したとは思いますが、本来計算できているはずの守備にミスが多く、攻撃のキーマンも期待に応えられずに退場するなど、ユーベにとっては悪いものがすべて出てしまったゲームでしたね。

倉敷 マドリーが大人のチームなのは、ディバラが退場し10人になったところで、すかさずマルセロが3点目を取りにいくというところです。第2戦を前にここで相手を諦めさせることができるという判断、経験値の高さを感じました。そして瞬時にその意図を読み取ったロナウドがお膳立てをするわけで、マドリーの強さはこういうところにも見られますね。

中山 マドリーの強さでいうと、ここにきて再びジダンのマネジメント力というものが真価を発揮している印象があります。この2試合、ジダンは中盤ひし形の4−4−2を使ってトップ下にイスコを起用しましたが、ラウンド16のパリ・サンジェルマン戦ではマルコ・アセンシオとルーカス・バスケスを使って中盤フラットの4−4−2を採用してそれが勝因のひとつになっていました。

 その時期はイスコが周囲に不満を漏らすというような報道もありましたが、それが一転、準々決勝になったらそのイスコを重用し、彼も期待に応えて先制点をアシストするなどしっかり仕事をするわけです。シーズンの大事な終盤になってチーム内にあった不満が次々と解消され、現在またチームがひとつにまとまってきた。パリ戦前までにあった負のサイクルが、遠い過去のように感じます。

倉敷 イスコ、アセンシオ、ルーカス・バスケスといった駒を試合ごとに使い分けることで信頼を取り戻したジダンとマドリーは、このまま3連覇への道を突き進めるでしょうか? 

小澤 ただ気になるのは、イスコをトップ下に置いた時、どうしてもサイドの守備が手薄になるという点です。実際、セカンドレグでその問題が露呈しましたよね。ユベントスが第1戦とは打って変わって右サイドから攻めてきて、左サイドバックのマルセロを狙ってきました。

 マドリーとしてもトニ・クロースが右にスライドしてマルセロのところで1対2の数的不利の局面を作られないよう気をつけていたのですが、早いタイミングで右にボールを入れられるとそのスライド対応が間に合いません。それを考えると、やはりルーカス・バスケスとアセンシオを入れた中盤フラットな4−4−2にして、きちんと中盤にもブロックを作った方が安定感は出ると考えています。

中山 おそらく第1戦を完敗した中で、マッシミリアーノ・アッレグリ監督はそこを意識したのでしょうね。しかも第2戦はディバラが出場停止だったこと、ピアニッチが復帰したことでシステムを4−3−3にして、右サイドからクロスを入れて、左サイドのマリオ・マンジュキッチがフィニッシュするという狙いどおりの戦いができました。

 逆にマドリーはセルヒオ・ラモスが欠場したことが大きかった。代わりにヘスス・バジェホが出場したわけですが、さすがに彼はセルヒオ・ラモスほどのカバーリング能力はありません。マルセロの背後を突かれた時の対応も含めて、そこがウィークポイントになってしまいました。2−0とされた後、ジダンは後半からアセンシオとルーカス・バスケスを入れて中盤フラットの4−4−2にして流れを変えたように見えましたが、結局、一瞬の隙を突かれて2試合合計で3−3になりました。

倉敷 そしてアディショナルタイムの PKです。イングランドのマイケル・オリバー主審のジャッジは、スペインでもPK判定の是非を問う緊急アンケートが行なわれるほどの大騒ぎになりました。ルーカス・バスケスの背後からベナティアがファールをしたという判定ですが、ユベントス側からすれば、それなら第1戦でフアン・クアドラードにも同じことが起きたではないか、と言いたいのでしょうね。

中山 微妙なシーンでしたね。ただ、試合終了直前という時間帯でよくPKの判定を下したと、その勇気がすごいと思いました。試合の流れからすると、マドリーのベンチはもう手を尽くした感もあったので、僕はユベントスが延長戦で逆転突破するのではないかと思って見ていましたから。

倉敷 VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)のあるリーグとないリーグが混在する状況は話をややこしくしそうです。そしてマイケル・オリバーは猛抗議したブッフォンにレッドカードを突きつけるわけですが、こちらの判定の方が個人的には残念です。柳に風で、聞こえないふりをしてほしかった。

 ユベンティーノもブッフォンが決められて負けるのなら、少しは心のよりどころがあったと思うんです。ブッフォンのチャンピオンズリーグにおけるおそらく最後のゲームが、こんな形で幕を閉じてしまったことが残念です。バルサのアンドレス・イニエスタもチャンピオンズとはもうお別れ、偉大な選手たちのアンハッピーエンドな幕切れにセンチメンタルな気持ちになりますね。

 では次に、セビージャ対バイエルン戦を振り返ります。ラモン・サンチェス・ピスファンで行なわれた第1戦は1−2でバイエルンが勝利し、第2戦は0−0、善戦しましたがセビージャは敗退、バイエルンが準決勝へ進みました。

小澤 まず第1戦ですが、セビージャはエベル・バネガを出場停止で欠きながらも、バイエルン相手にボール保持をしながら、序盤のハイプレスも回避してボールをうまく前進させることができていたと思います。そもそも31分のパブロ・サラビアの先制ゴールの前にも彼に決定機がありましたし、狙い通りの展開だったのではないでしょうか。

 ただ、バイエルンは経験豊富な選手が多く、失点後の対応がうまかった。慌てることなくプランとして持っていた長いレンジのパスを活用して押し込む展開を作り、すぐさま同点に追いつきました。1−1で迎えた後半も68分にティアゴ・アルカンタラが逆転ゴールを決めて勝ったというところは、さすがでした。

 やはりセビージャは、右サイドバックにヘスス・ナバスを使っているため、攻撃的に戦う時は効果を発揮しますが、押し込まれた時に脆さを露呈してしまいます。また、戦術レベルの高いラ・リーガのチームらしくグループで、攻守でコンパクトに戦いますから、バイエルンのようにミドル、ロングのパスを多用され、1人が受け持つ距離を広げられてしまうと各局面での優位性を保てなくなります。

 バイエルンは意図的にナバスとフランク・リベリーのマッチアップでの優位性を使うべく、右サイドにボールを運び、彼のカットインからのクロス、コンビネーションでの崩しから活路を見出してきました。実際、それで2点を奪っています。

 セビージャはヴィンチェンツォ・モンテッラ監督になってからメンバーを固定して、ある程度攻撃面は機能するようになった反面、守らなければいけない時に守りきれないというリーグ戦の中で見えた課題が、この試合でも出てしまった印象は否めません。

中山 両チームの戦力と経験値からするともっと差があると予想していただけに、意外とセビージャが健闘したという印象があります。惜しまれるのは、先制した直後にオウンゴールを献上してしまったことでしょう。

 もし前半を1−0で終えていたら、もっと違った展開が待っていたように思います。裏を返せば、バイエルンの試合巧者ぶりが光っていたともいえ、特にユップ・ハインケス監督の第1戦と第2戦のメンバーの使い分けは、さすがだと感じました。

 今シーズンのバイエルンは4−3−3を基本にしていますが、アウェーでの第1戦はトーマス・ミュラーを右ウイングに置いて、中盤をハビ・マルティネス、ティアゴ、アルトゥーロ・ビダルという構成にしてバランスを重視。

 逆に、ホームの第2戦はアリエン・ロッベンを右ウイングにして、中盤はハビ・マルティネス、右にミュラー、左にハメス・ロドリゲスと、攻撃型のメンバー編成で臨みました。第1戦の前半途中にビダルが負傷退場したこともありますが、この辺りの冷静沈着な采配ぶりは、百戦錬磨のハインケスならではと感じます。

小澤 確かに第1戦では前半から左サイドバックのフアン・ベルナトがやられていたと判断して、スパっと諦めて後半からラフィーニャを投入しましたしね。そういった交代カードの切り方などは、さすが名将ハインケスといったところですよね。

倉敷 バイエルンはリスクを回避すべく外から攻めるという狙いを持っていましたが、セビージャは巧みにバイエルンの右サイドでのインターセプトを狙っていました。ヨシュア・キミッヒとミュラーの関係がそれほど良くなかったので面白い狙いだなと思ったのですが、そこを狙った直後にカウンターを受けて不幸なオウンゴールで同点、さらに逆転されてしまった。

 ラモン・サンチェス・ピスファンで勝てないとなると、このチームは厳しい。ユナイテッド戦の再現を目指した第2戦は0−0でしたが、内容は悪くなかった。バイエルンが狙っているところとセビージャが狙っているところがそれぞれ違っていて、開かれたゲームとは言えないけれど、お互いを消し合うゲームでもなく、チャンスの多い面白い試合でした。

中山 最終的にはアウェーゴール2つを持っていて、引き分け以上で勝ち上がれるという余裕が、バイエルンを勝利に導いたと思います。それと、最近のバイエルンの試合を見て感じるのは、リベリーの充実ぶりです。彼は精神的に安定している時に桁違いのパフォーマンスを発揮する傾向があるので、おそらく現在はハインケス監督との関係がうまくいっていることの証だと思います。

 また、バイエルンではジェローム・ボアテングとマッツ・フンメルスのCBコンビによるロングフィードからの展開が際立っていました。セビージャはある程度細かくつないで展開したいのですが、バイエルンはセビージャのその狙いをかわすかのように、最終ラインから一発でサイドチェンジしたり、前線に決定的なパスを供給します。おそらくベスト4に残ったチームの中で、間違いなくバイエルンがストロングポイントにできる部分が、この両CBのフィード力ではないでしょうか。

小澤 バイエルンのCB2人は守備も堅い。セビージャがあれだけチャンスを作っても、最終的にフィニッシュする場面では楽にシュートを打たせてくれません。第2戦は、セビージャの枠内シュートがゼロでしたから。

 結局、セビージャはバイエルンに構えられてしまうと、アタッキングゾーンまでは侵入できてもフィニッシュのところ、中央のエリアで個人の力でシュートまで持っていけるレベルの選手がいないというのが苦しかったです。

 クラブ史上最高額で獲得したルイス・ムリエルにしても、バイエルンの守備陣を前にした時は、そこまでのレベルにないことを露呈していました。マンチェスター・ユナイテッド戦で活躍したベン・イェデルにしてもこのレベルの試合、相手になると毎試合違いを作る働きはできません。クラブの規模という点においては、まだセビージャはチャンピオンズリーグの8強の常連になるレベルではないのでしょう。

倉敷 今シーズン、セビージャは優秀なスポーツディレクターのモンチを失ったわけですが、後任のスポーツディレクターの評価はいかがでしょうか?

小澤 オスカル・アリアスは今季開幕前、そして冬も多くの選手を獲得しましたが、まだ”当たった”と呼べる選手はいません。アリアスが獲得した新戦力でレギュラーはバネガ、ヘスス・ナバスあたりですが、彼らは出戻り組です。もちろん、マンチェスター・ユナイテッドを倒してベスト8まで勝ち上がったので批判は回避できていますが、セビジスタの不満はたまっています。

倉敷 国内リーグで振るわず、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場は難しい状況のセビージャですが、ヨーロッパリーグの可能性はまだある。今季は途中就任だったモンテッラ監督も欧州の舞台で戦える人だとわかった。来季はどんなチームを作るのか楽しみです。

 では、次回は準決勝のバイエルン対レアル・マドリーを展望します。

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