「キング・オブ・COTA(Circuit of the Americas)」は、今年もやはり無敵だった。 2013年の初開催以来、テキサス州オースティン郊外のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されるMotoGPのアメリカズGPでは、…

「キング・オブ・COTA(Circuit of the Americas)」は、今年もやはり無敵だった。

 2013年の初開催以来、テキサス州オースティン郊外のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで開催されるMotoGPのアメリカズGPでは、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が毎年、ポールポジションから優勝を達成する完全勝利を挙げてきた。今年のレースでも、マルケスが圧倒的に有利という予想は揺るがなかった。



圧倒的な強さでアメリカズGPを制したマルク・マルケス

 唯一、不確定要素を挙げるならば、前戦のアルゼンチンGPで3度のペナルティを受けた事態が今回のレースウィークにどのような悪影響をもたらすか、という点だった。だが、ずば抜けた精神力とライディング技術の双方を兼ね備える25歳の世界王者には、それらもまったく不安材料にはならなかった。

 土曜午後の予選を終えて、マルケスは2番手タイムに0.406秒の差を開いて最速タイムを記録。暫定ポールポジションを獲得した。しかし、この予選中には、タイムアタックで自己ベストを更新中だったマーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)の前方ライン上をマルケスが走行していたため、結果的に走行ラインを塞いでタイム更新を阻んでしまうという出来事があった。

 後方から迫ってきたビニャーレスに気づいたマルケスは即座にラインを譲ったとはいえ、渾身のアタックを邪魔してしまったことに変わりはなく、その処罰として暫定ポールポジションの位置から3グリッド降格を通告された。この裁定により、日曜の決勝では予選2番手タイムのビニャーレスがトップグリッドに繰り上がり、マルケスは2列目4番グリッドについた。

 午後2時にスタートした20周のレースで、マルケスは1周目にあっさりとトップに立つと、以後の周回では着々と後続との差を広げていった。5周目には2.113秒、10周目には4.822秒、そして最終ラップ前の19周目には7.694秒という圧倒的な大差が開いていた。

「いつもなら誰かが終盤にアタックするまで様子を見ながら待っているけど、正直なことをいえば、アルゼンチンの一件があったので今日は戦略を変えた」と、マルケスはこの日のレース展開を振り返った。

 アルゼンチンの一件とは、上記で触れた決勝中の3度のペナルティを指す。最初から一気に引き離してしまえば、他の選手とのバトルで絡むこともなく、したがって罰則処分を受ける可能性もない、というわけだ。

 前回のレースでは、自らの過失が原因でバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)を転倒させてしまう事態も発生し、そのために今回のレースウィークでは多くのロッシファンからブーイングも浴びた。毎年勝ち続けてきたコースで今年も当然のように優勝を期待されているという事実と、前戦のアクシデントがあいまって、今週末のマルケスにはかなりの精神的負荷がかかっていたことは容易に想像できる。レースを終えたマルケスは、そのプレッシャーを認めたうえで、「それがさらに大きなモチベーションになった」と明かした。

「モチベーションは、コース上で答えを出したい、ということ。だから、今日のレースでは大差を開いた。今回のようなプレッシャーがあると、気持ちよく走れる。正反対になってしまう場合もあるけれども、今週はいい方向に運んだ」

 スポーツの世界では「デタミネーション(絶対に結果を成し遂げようという強固な意志)」という言葉がよく使われる。今回のマルケスは、まさにデタミネーションの塊と化していた、といえるだろう。6年連続で圧勝を飾った後のウィニングランでは、昨年5月に交通事故で急逝したニッキー・ヘイデンの旗を掲げてコースを一周した。

「レース前に、チームとホンダに『ニッキーのコースで勝ちたい』と話していたんだ。彼はアメリカとホンダにとってスペシャルなライダーだし、僕自身も彼とはいい関係だった。メモリアルラップをできてよかった」

 ヘイデンはアメリカ合衆国でMotoGPが復活した2005年に、当時のU.S.GP開催地ラグナセカ・サーキットで圧勝を飾り、翌年も同地で優勝を遂げた。このラグナセカやインディアナポリスでも数年前までレースが開催されてきたが、現在のアメリカ開催地は今回のCOTAのみ。そして、そのいずれのコースでも、マルケスとホンダは圧倒的な強さを見せている。

 マルケスは2013年のアメリカズGP以来、今回までアメリカのMotoGP10連勝を記録している。2011年と2012年のMoto2時代もインディアナポリスを連覇しているので、アメリカでは通算12連勝、ということになる。また、ホンダにとっては2010年にダニ・ペドロサがインディアナポリスで優勝して以来、今回がアメリカでの最高峰クラス15連勝目のレースとなった。

 だが、次戦からは戦いの舞台が欧州に移る。ヨーロッパラウンドをどのように戦うかで、シーズンの帰趨(きすう)は大きく明暗が分かれる。開幕戦のカタールや今回のCOTAとは特性が異なる第4戦・スペインGPの舞台ヘレス・サーキットで、どの陣営やどの選手が強さを発揮するのか、未知数の要素はまだ限りなく大きい。