蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.17 2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。 サ…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.17
2017-2018シーズンも佳境を迎え、各地で最高峰の戦いが繰り広げられる欧州各国のサッカーリーグ。この企画では、世界トップの魅力、そして観戦術を目利きたちが語り合います。
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎──。
今回のテーマは、チャンピオンズリーグ(CL)準決勝のプレビュー。リバプール対ローマは、どのような展開になるのか? 優位に立つのはどちらか? 両監督の采配は?
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――今回はチャンピオンズリーグ準決勝、リバプール対ローマ(第1戦;4月24日、第2戦;5月2日)を展望していただきたいと思います。まず、お三方はこのカードの見どころはどこにあると見ていますか?
CL準決勝で対戦するリバプールのクロップ監督(左)とローマのディ・フランチェスコ監督
倉敷 まず、ここまで勝ち上がることが期待されていなかった両チームの対戦であるということ。それから、準々決勝ではマンチェスター・シティ、バルセロナという似たテイストのチームを、それぞれが異なるやり方によって破ってきたチーム同士の対戦ということ。この2つの点において、似た境遇にあるチームの対戦だと見ています。
つまり、この対戦の前段階でひとつのピークを見せてしまった両チームが、次に同じようなアップセットをしてきた者同士の対戦を迎えた時、果たしてどちらがチャレンジャーになるのか、という興味が湧いてきます。
そのうえで、ローマのエウゼビオ・ディ・フランチェスコ監督がどのシステムを選択するのかという点にも注目しています。バルサ戦のセカンドレグの時は3バックにして戦いましたけど、リバプール戦を3バックで臨むわけにはいかないので、ここは必ず4バックに戻してくると思います。
そうなると、ローマは中盤で圧倒できるゲームをできなくなってしまうわけですから、よりエディン・ジェコの役割がカギになってくるのではないかと見ています。
中山 僕も、ディ・フランチェスコがどういう意識でリバプール戦に臨み、どのシステムを使うのかという点に注目しています。倉敷さんがおっしゃるように、確かにアンフィールドでの第1戦を、3バックにしてバルサ戦のセカンドレグのように攻撃的に戦うのはリスクがあると思います。普通にいけば、ディ・フランチェスコは慣れている4-3-3を採用する可能性が高いでしょう。
ただ、実力的にはリバプールが上回っている以上、ローマはアップセットを起こすための仕掛けを用意しておかなければいけません。そこでディ・フランチェスコが再び「我々に失うものは何もない」と考え、意表を突いて3バックで攻撃的に出たとしたら、さすがのユルゲン・クロップも面を食らうと思いますし、恐怖を感じるのではないでしょうか。
ローマが勝つ道はそこにあるような気もしますし、願望を込めて、リバプールが攻撃的に戦うローマとハイプレス合戦をするという試合をぜひ見てみたいです。
倉敷 確かにそれは面白そうですね。それに、バルサ戦の後のローマダービーでもディ・フランチェスコは3バックを採用していて、何か3バックに確信を得られたようにも見受けられます。ラツィオが3バックのチームだからということもあるかもしれませんが、その試合では中盤の並びをバルサ戦の時と少し変えて、3−4−3にして戦っていました。
小澤 確かにディ・フランチェスコのキャラクターからして、もう失うものはないのでアグレッシブに行くという選択はあるかもしれませんね。ただ、やはりローマにとって難しいのはあくまでも第1戦のアンフィールドでの戦いであって、リバプールはカウンターを武器にしたトランジションサッカーであることを考えると、ローマは相手にボールを持たせるかたちの方がいいと思います。
そうなると、今まで通りの4バックに戻して引き気味にスタートしようという考えが順当だと思いますし、ディ・フランチェスコはそっちを選択するのではないでしょうか。その中で、前線のジェコにボールを入れて、そこからセカンドボールの処理をしながら攻めるかたちが妥当でしょう。
倉敷 ファーストレグがリバプールのホームであるということもポイントですね。僕が見る限り、リバプールは先行逃げ切り型のチームで、ローマはセカンドレグで挽回するタイプのチームだと見ています。
実際、両チームの準々決勝の勝ち上がり方もそうでしたし、それを考えると、ローマはセカンドレグで勝負をかけてくる可能性が高いと見てよさそうですね。
中山 確かにそれでいくと、アウェーの第1戦はバランス重視の4バックで戦って、失点をいくつまで抑えられるかという考え方にして、第2戦で攻撃的に出るというパターンが濃厚かもしれませんね。
倉敷 そうです。ローマはアウェーで1点取れば十分という考え方もあると思うので。特に今回のチャンピオンズリーグは、アウェーで点を取ってないと勝てないですから。
それと、チャンピオンズリーグのような大会では、その時に輝いている選手を持っているチームが強いという印象があります。そういう点で、モハメド・サラーという存在は今シーズンを象徴する選手になる可能性が高いと見ていて、勢いという部分も含めてリバプールが勝ち上がりそうな気がします。
対するローマでは、〝時の人〟という点では、選手ではなく監督のディ・フランチェスコでしょう。現在のローマでは、あのラジャ・ナインゴランでさえもとてもストイックにハードワークをして黒子(くろこ)になっていて、つまりナインゴラン級のレベルの選手も納得させられるだけの指導力を、ディ・フランチェスコは持っているということだと思います。
中山 サラーにとっては古巣との対戦になりますし、相当に気合いも入ることでしょうね。キーマンという点では、僕はリバプールのロベルト・フィルミーノにも注目しています。ローマの攻撃の起点は、4−3−3の時も3−1−4ー2の時も、アンカーのダニエレ・デ・ロッシになりますが、彼にボールを自由に配給させないためにも、フィルミーノのプレスバックがポイントになると見ているので。
そもそも彼は前線に張り付いてプレーするタイプではないですし、9.5番のようなタイプです。実際、シティ戦でも要所要所でボールの出どころを押さえていましたし、時にはイエローカード覚悟で相手を止めてくれる。もちろんリバプール側からすると彼に得点の部分で期待をしているとは思いますが、ローマ側から見ると、実にやっかいなタイプのセンターフォワードですね。
対するローマのキーマンは、やはりGKのアリソンでしょう。こういったビッグマッチでサプライズを起こす場合、どうしてもGKの活躍が必要になってきます。アリソンは現在ヨーロッパで5本の指に入るGKだと思いますし、ローマの守備という点を考えると、彼のパフォーマンスがカギとなりそうな気がします。
倉敷 やはりこのカードのポイントは、リバプールの攻撃をローマがどのような守備で対抗するのか、という点になりそうですね。小澤さんは、ローマがリバプールの3トップを封じ込めるためにどういった戦略で臨むと思いますか?
小澤 リバプールは両サイドバックも含めてガンガン攻めると思うので、あまり下がって守るようだと厳しいでしょうね。しかも、リバプールはハイプレスを仕掛けてローマのビルドアップのところも潰してくると思うので、下がって守るとボールを奪ってから前線のジェコに当てても、セカンドボールを拾える選手がいなくなってしまいます。そうなると、守備も攻撃も機能しなくなってしまうので、ディフェンスラインが低すぎる状況で守るのは避けたいところでしょう。
逆に、リバプールはいつも通りに戦えば、ローマがハイプレスを仕掛けようが、下がって守ろうが、おそらくどちらにでも対処できると思います。現在のチームはそれだけの完成度がありますし、そういう意味ではクロップの方が対ローマ戦ということでしっかりと戦術を落とし込んで試合に入れるように思います。
すでにローマは3バックを披露していて、もはや秘策は残されていないと思いますし、3バックを使ったとしてもクロップも分析済みでしょう。まずファーストレグでリバプールが勝利する可能性は高いと思いますし、ローマとしては、できるだけ点差の開かないかたちでの敗戦を受け入れて、セカンドレグに望みをつなげるという格好になりそうです。
倉敷 それと、少し細かいファクターになりますが、近年は国内リーグにおいてもチャンピオンズリーグ出場権を獲得できないチームは失敗をしてしまったという評価がされる時代になっている中で、現在の両チームの国内リーグ状況を見ると、リバプールの方は安全圏にいますが、ローマは微妙な状況にあります。
つまり、ファーストレグの結果がリーグ戦にどのように影響するかという点で、ローマの方がファーストレグに重きを置かなければいけないという状況にあるということです。もしファーストレグで完敗して可能性がなくなったら、ディ・フランチェスコは国内リーグにエネルギーを集中させる可能性もあるからです。
ただ、矛盾するようですけど、ディ・フランチェスコがどちらにかけている人なのかということは、まだわからない部分が多い。チャンピオンズにプライオリティを置いている可能性だってないことはないだろうと思うので、その見極めも含めて、第1戦、第2戦と、それぞれ違った楽しみ方があるのかなと思っています。
中山 確かにディ・フランチェスコにとっては悩ましいところですね。チャンピオンズリーグのファイナリストになる千載一遇のチャンスを逃したくないという”色気”みたいなものも出てくるでしょうし、とはいえ、来シーズンのチャンピオンズリーグ出場権を逃したら自分の立場が危うくなってしまう可能性もある。ローマは決して選手層の厚いチームではないですから、リーグ戦を含めてどのようにローテーションを組むのかという点にも注目する必要がありそうです。
いずれにしても、倉敷さんが冒頭でおっしゃっていたように、この対戦はどちらがチャレンジャーになりきれるかがポイントになるでしょう。メンタル的に守りに入った方が、最終的に落とし穴にはまってしまうような気がします。そういう点で、特にローマの戦い方に注目したいと思います。
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