1点ビハインドで迎えた27分、自陣右サイドでボールを奪うと、最終ラインでボールを回し、相手のプレスをかいくぐる。縦パスを受けたFW大津祐樹が粘ってボールをつなぎ、FWオリヴィエ・ブマルのスルーパスを引き出したFWウーゴ・ヴィエイラが右…

 1点ビハインドで迎えた27分、自陣右サイドでボールを奪うと、最終ラインでボールを回し、相手のプレスをかいくぐる。縦パスを受けたFW大津祐樹が粘ってボールをつなぎ、FWオリヴィエ・ブマルのスルーパスを引き出したFWウーゴ・ヴィエイラが右足を一閃(いっせん)――。10本以上のパスがつながり生まれた鮮やかな同点弾に、今季の横浜F・マリノスの真骨頂を見た。



前半だけでハットトリックを達成したウーゴ・ヴィエイラ(右)

 アンジェ・ポステコグルー監督が就任した今季の横浜FMは、ハイプレス・ハイラインの革新的なサッカーを実践している。しかし、そのスタイルは結果につながってはいない。J1リーグ第8節を終えて2勝2分4敗。16位と苦しい状況に置かれていた。

 攻撃的スタイルを標榜するわりには得点の数が比例せず、複数得点を記録した試合がひとつもない。一方でリスクを負うがゆえに、ミスからカウンターを浴びて失点を重ねる試合も目立つ。このバランスの悪さが今季の低迷を招いている。

 そして迎えた湘南ベルマーレとの一戦。横浜FMは強さと脆さの両面を露呈し、壮絶な打ち合いの末、4−4の痛み分けに終わった。

 開始8分、まず脆(もろ)さが浮き彫りとなる。右サイドでボールを奪われると、そのまま突破を許し、クロスがDF中澤佑二の頭に当たってオウンゴールを献上。悪い形でのボール逸によって、ハイラインがあっさりと打ち破られた。

 それでも27分、冒頭のシーンが生まれる。湘南のプレスを卓越したボール回しではがし、歓喜を呼び込んだこの得点場面は、縦に速いサッカーが主流となっている今のJリーグでは滅多にお目にかかれないものだろう。

 ただし、その後がよくなかった。得点からわずか1分後、相手のロングボールに対し、GKの飯倉大樹がゴールを空けて飛び出しクリアするも、そのボールを相手に奪われ、無人のゴールに蹴り込まれてしまう。あれだけ苦労を重ねて奪ったゴールが、たったひとつのミスで水泡に帰してしまう。この効率の悪さこそ、横浜FMが結果を出せない最大の原因だろう。

 リスクを負った攻撃スタイルは、観る分には面白い。飯倉が飛び出したのも、ラインの裏の広大なスペースを埋めるために、GKでありながらリベロ的な役割を求められているからだ。第7節のサンフレッチェ広島戦でも同様の形で失点しており、ファンとしては「またしても」との思いもあるだろうが、このスタイルを続ける以上は起こり得る失点である。

 ただし、いくらサッカーが面白くても、プロである以上は結果が求められる。右サイドバックの松原健は、「僕らがボールを保持し続ければ、相手に勢いを与えることはない」と理想を掲げる。しかし、その理想を体現するには、現状では精度が足りない。ボールを奪われないためには個の力量はもちろん、ポジショニングや判断の質も含め、さまざまな課題が横たわる。

 41分には、ラインの裏にアーリークロスを入れられて、3点目をあっさりと許してしまう。後方から勢いを持って飛び出してくる湘南の速さについていけず、横浜FMは完全に負けパターンに陥っていた。

 ところが、この日の横浜FMはひと味違った。前半終了間際に立て続けにウーゴ・ヴィエイラが2点を奪取。前半だけでハットトリックを達成したポルトガル人ストライカーの決定力の高さは称賛されるべきものだが、失点を重ねても攻めの姿勢を示し続けた横浜FMのスタイルがようやく実を結んだ瞬間だった。

 この日、横浜FMのカギを握ったのは左サイドだった。サイドバックの山中亮輔、サイドハーフのユン・イルロク、トップ下の大津、さらには扇原貴宏、天野純の両ボランチも含め、左サイドに厚みをもたらし、素早い連係で湘南の守備網を次々と打ち破った。ウーゴ・ヴィエイラの2点目、3点目は、この左サイドから生まれている。

 一方で左サイド偏重が危機を招いたのも事実だ。左サイドに人数が多いため、逆サイドが手薄となる。せっかく追いつきながらふたたび勝ち越し点を許した場面でも、中の人数が不足していた。

 後半立ち上がりにセットプレーから同点に追いつくと、松原が言う「ボールを保持し続ける」理想に近いサッカーを展開し、終始相手を押し込んだ。もっとも逆転ゴールが生まれなかったのも、この左サイド偏重が原因だったように思われる。

「左だけだと対応されやすいし、左右のバランスを意識する必要があった」と天野も指摘したように、左一辺倒の攻撃では崩し切るには至らなかった。

 多くのゴールが生まれ、娯楽性に富んだ一戦となったが、両チームにとって詰めの甘さを露呈する試合でもあった。とりわけ主導権を握る時間の多かった横浜FMは、そうした想いを強くしているに違いない。

 それでも選手たちは前向きだ。

「このサッカーで勝ててないですけど、ひとつ勝てたら勢いに乗っていけると思うし、ぶれないでやり続けるだけ。一体感もあるので自信を持ってやっていきたい」(天野)

「ちょっとしたミスだったり、ちょっとした運のなさで今は勝てていないけど、観ていた人も4点入ったことで、いけそうだなと感じてくれたはず」(飯倉)

 4点獲って勝てないことを嘆くのか。それとも初めて複数得点を奪えたことを進歩と捉えるのか。その反応はそれぞれの役割によって異なるだろうが、求めるスタイルを考えれば、間違いなく前進だ。

 面白いサッカーに結果が追いつく日も、そう遠くはない。そんな希望を感じさせる、横浜FMの乱打戦だった。