試合終了のホイッスルが鳴ると、サウサンプトンの吉田麻也は両手をひざに当て、肩を落とした。自軍の選手たちが握手を交わして健闘を称え合っていくのとは対照的に、吉田はひとり下を向いたまま、しばらく動かなかった。吉田麻也は相手エースのバーディ…
試合終了のホイッスルが鳴ると、サウサンプトンの吉田麻也は両手をひざに当て、肩を落とした。自軍の選手たちが握手を交わして健闘を称え合っていくのとは対照的に、吉田はひとり下を向いたまま、しばらく動かなかった。
吉田麻也は相手エースのバーディーを見事に抑えた
4月19日に行なわれたプレミアリーグ「レスター・シティvs.サウサンプトン」戦。降格圏の18位に沈むサウサンプトンは、この試合で3ポイントを勝ち取って来季残留に近づきたかった。
試合前にはマーク・ヒューズ監督も「3ポイントと好パフォーマンスが必要」と意気込んでいたが、結果は0−0のスコアレスドロー。残留圏17位につけるスウォンジー・シティとの差を「1」しか縮められず、ウェールズ人指揮官は「3ポイントを獲得できなかったことが悔やまれる」と唇を噛んだ。
残り4試合で、勝ち点29――。
この数字が、プレミアリーグ34試合消化時のサウサンプトンの成績だ。順位は降格圏の18位。20クラブで構成されるプレミアでは下位3クラブが自動降格となるため、残留するには17位以上につける必要がある。
その17位スウォンジーは現在勝ち点33で、サウサンプトンとは「4ポイント差」。しかも、スウォンジーは残り試合がひとつ多く、一方でサウサンプトンは19位のストーク・シティ(勝ち点28)とも1ポイント差しかない。サウサンプトンの降格が現実味を帯びてきたのは、間違いないだろう。
一般論として、プレミアリーグでは「40ポイント」が残留の目安とされている。たとえば、昨シーズンでは「40ポイント」のワトフォードが17位で残留し、「34ポイント」のハル・シティが18位で降格となった。
もちろん、シーズンによって変動はある。2013−2014シーズンでは「36ポイント」のWBAが残留、「33ポイント」のノリッジ・シティが降格した例もある。ただし、2015−2016シーズンでは「39ポイント」のサンダーランドが1部に残り、「37ポイント」のニューカッスル・ユナイテッドが2部に落ちたように、やはり40ポイント付近が残留の目安になる。
ひるがえって、サウサンプトンの場合はどうか。残りのカードはボーンマス戦(ホーム)、エバートン戦(アウェー)、スウォンジー戦(アウェー)、マンチェスター・シティ戦(ホーム)の4試合。最大獲得可能ポイントは12で、すべての試合に勝利すれば残留安全圏の41ポイントに到達する。
一方、ギリギリのボーダーラインはどこか。まずは、17位スウォンジーとの直接対決で「勝利」することが残留の条件になる。そのうえで、さらに2勝できれば「38ポイント」に到達。スウォンジーに勝利して「3勝1分け」で乗り切れば、「39ポイント」まで勝ち点を上積みできる。
それでも残留できる保証はないが、ここが現実的な目標になるのではないか。ただし、5勝15敗14分けの低空飛行が続いているサウサンプトンにとって、このハードルが決して低くないのは事実だ。
英ブックメーカー『ウィリアム・ヒル』の降格予想でも、18位のサウサンプトンは1.4倍の低倍率。19位のストーク(1.1倍)とともに、17位スウォンジー(4.5倍)、16位クリスタル・パレス(21倍)、15位ハダース・フィールド(6.5倍)に大差をつけられているのが現状だ(数字は英国時間4月21日10時時点)。
もっとも、レスター戦で収穫がなかったわけではない。「守備面で向上が見えた」と指揮官が語ったように、アーセナル戦(●2−3)、チェルシー戦(●2−3)と、失点を重ねていた守備陣が無失点に抑えた意義は大きい。特に前節のチェルシー戦では2点のリードを奪いながら、70分から立て続けに3失点。まさかの逆転負けを喫した精神的ダメージへの不安もあったが、この日の守備陣は最後まで集中を切らさなかった。
そのなかで中心的役割を果たしたのが吉田だ。左ひざのケガから先発に復帰し、この試合で3試合目。体調不良を押しながらの強行出場だったが、3−4−2−1システムのセンターバック中央に入ると、最終ラインを引き締めながら守備に走った。
この日のレスターは岡崎慎司が足首のケガでメンバー外になり、イングランド代表FWのジェイミー・バーディーと、ナイジェリア代表FWのケレチ・イヘアナチョの2トップで挑んだ。速さのあるバーディーに吉田は「怖いから先に動くしかない。いかにいいポジションをとって、いい動き出しをするか」と注意しながら、粘り強い守備を見せた。
実際、吉田はバーディーへの縦パスを前方に飛び出してインターセプトし、イヘアナチョのシュートも身体でブロック。76分にもDFラインの背後に抜けたロングボールを、バーディーと並走しながらスライディングでカットした。「(ケガから復帰し)やっと3試合くらい出られるようになって、コンディションだけじゃなく感覚も読みもよくなってきている」と、本人も手応えを掴んでいた。
しかし、リーグ戦で8試合勝利のないチームについては「今日は勝ち点3を取りたかったです。取りたかったし、取れる試合だったと思う」と反省を口にした。ただ、悲壮感はなかった。試合終了から約40分後に取材エリアに姿を見せると、クリーンシート(無失点)が自信を喪失しているチームの転機になると主張し、前向きに言葉をつないだ。
「ひとついいポイントはクリーンシートで抑えたこと。ここ何試合ずっとこなせなかったことなので。前回のチェルシー戦も失点して、そのあとに大崩れした。下位にいるチームのメンタリティは、なんとか変えていかなくてはいけない。踏ん張れるようにしなくてはいけないという意味では、今日のクリーンシートは大きい。一歩踏み出したという意味で、勝ち点1はゼロよりはマシです」
2010−2011シーズンから2季連続で残留争いに巻き込まれたオランダのVVVフェンロ時代、吉田はプレーオフの末になんとか残留を決めたという”修羅場”も経験している。その当時と比べれば、状況は明るいという。
「残留争い? できることなら、しないほうがいいですね。それはフェンロのときに重々感じていた。精神的にかなりくるものがあるので。ただ、フェンロのときの絶望感に比べれば、全然前向きですよ。ここ数試合は、本当にいい形がつくれている。勝利にちょっとずつ近づいている気がしています」
ヒューズ監督が「ホームで戦う次のボーンマス戦が極めて重要になる」と気を引き締めれば、吉田も「残留争いに直接関わっているチームには絶対負けられない。毎試合負けられないですけど、そこに勝てれば、まだまだプレミアに残れる勝機はある」と力を込める。
泣いても笑っても残り4試合――。6月に開幕するW杯前に、吉田には「来季残留」という重要なタスクが課せられている。
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