アジアチャンピオンズリーグ(ACL)は、グループリーグ全日程が終了した。日本勢は鹿島アントラーズが決勝トーナメントに進出したものの、柏レイソル、セレッソ大阪、川崎フロンターレは敗退。一方で韓国勢は、全北現代、水原三星、蔚山(ウルサン)…

 アジアチャンピオンズリーグ(ACL)は、グループリーグ全日程が終了した。日本勢は鹿島アントラーズが決勝トーナメントに進出したものの、柏レイソル、セレッソ大阪、川崎フロンターレは敗退。一方で韓国勢は、全北現代、水原三星、蔚山(ウルサン)現代の3チームが勝ち上がっている。

「韓国勢が好調? 今シーズンはどこもいい準備ができたと思う」

 蔚山の金度勲監督は語ったが、日韓の差はどこにあるのだろうか。

「これで追いついちゃうんですからね」

 今シーズン、サガン鳥栖から蔚山に移籍したFW豊田陽平が川崎F戦後に洩らした言葉に、日韓のサッカー観の違いが浮き出ていた。



ACL川崎フロンターレ戦で赤崎秀平と競り合う豊田陽平(蔚山現代)

 4月18日、等々力陸上競技場。ACLのグループリーグ最終節、Jリーグ王者の川崎Fは蔚山と対戦している。

 この日、前半の川崎はボールプレーの練度で格の違いを見せている。すでにグループリーグ敗退が決まっていただけに、中村憲剛や小林悠など主力の多くは不在だったが、つなぎのレベルは遜色ない。丁寧なビルドアップからプレスをはがし、コンビネーションを使ってボールを前に進めた。

 開始早々、ケガ明けで試合時間を増やしつつあるMF齋藤学が傑出したプレーを見せ、ワンツーからの鋭い突破でシュート。GKが弾いたボールを鈴木雄斗が押し込み、軽々と先制に成功した。これでペースを握ると、ワンサイドの試合展開に。前半終了間際には混乱した守備を突き、長谷川竜也のミドルシュートで2-0とリードした。

 蔚山のFW豊田はACLを主戦場にしており、この日、グループリーグ6試合中5試合目の先発出場となった。

「プレーする喜びを取り戻したい。鳥栖に必要とされる選手に」

 豊田はそう言って、Kリーグ挑戦に一歩を踏み出した。鳥栖ではJ2得点王に輝き、J1昇格をもたらした。その後、J1では5シーズン連続15得点以上(カップ戦も含む)を記録。クラブ史上初の日本代表にも選ばれ、2015年アジアカップに出場するなどクラブの象徴的選手となった。

 その実力は、新天地でもプレシーズンマッチから存分に評価されている。ゴールこそまだないものの、鳥栖時代にも見せていた前線からの果敢なディフェンスでセンターバックを消耗させ、ACL決勝トーナメント進出に貢献。川崎F戦も、クロスに対して勇猛果敢に合わせに入って、GKと正面からぶつかってもんどり打って倒れるシーンがあった。大きな体躯を利して、前線にパワーを入れていた。

 しかし前半は、チーム全体の動きが悪すぎた。前線とバックラインの距離が広がりすぎ、一か八かの長いパスを送っては失う、の繰り返し。攻守を効率的に動かすポジショニングなど戦術は成熟しておらず、局面のプレーも精彩を欠いていた。

 前半終了間際、右からようやく豊田にクロスが入るが、このヘディングは枠を外している。

「(ハーフタイムの)監督はかなり怒っていましたね。本気を出して戦っているのか!と。それで激しさのところは出るようになった」

 豊田はそう振り返ったが、後半は状況が一変した。

 蔚山は前線が圧力を増し、全体が押し上げ、川崎Fを敵陣に封じ込める。後半2分に右CKを得ると、エリア内で2度のヘディングで競り勝ち、あっさりと1点差に詰め寄った。高さ、強さを最大限に行使している。

 豊田も献身的に裏に抜け出し、クロスのポジションを取ることで川崎Fのラインを下げた。そして後半5分、右サイドからのクロスがエリア内から弾き出されたところだった。左サイドのイ・ヨンジェがこぼれを拾い、左足で逆サイドに突き刺した。

「監督からは、『(センターフォワードとして)センターバックのところで戦え。背後に(入るボールを狙って)出ろ。中盤に落ちてくるな』と言われます」

 豊田はその役割を説明している。

「(蔚山の)攻撃は両サイドの”槍の選手”(サイドを駆け上がる走力のある選手)を使う感じで、そこからのクロスに合わせられるか、というのが徹底的に求められます。ボールを受けたらサイドチェンジを使って、槍の選手がクロスを前線に上げ、たとえ合わなくても、それをとにかく繰り返す。中盤で気の利いたパスが入ることとかはほとんどないですが、このやり方で点が入っちゃう部分もあって」

 川崎F戦、蔚山は先手を取れるようになると、サイドチェンジも入るようになった。各選手の立ち位置は悪いままだったが、押し込んでしまえば、その野放図さは目立たない。クロスに対して飛び込む強度は高く、むしろ荒々しさが際立つようになった。

<フィジカルと闘争心>

 そのふたつを軸にプレーを旋回させられるのが、今も昔も韓国サッカーなのだろう。論理的アプローチは乏しく、攻撃も守備も単調だ。だが、強さ、激しさで足りないものを補い、アジアレベルでは相手を凌駕できる。事実、ACLグループリーグで川崎Fは勝ち点3で敗れ去り、蔚山は勝ち点9で勝ち上がっているのだ。

 呆気にとられたのは、川崎Fのほうだろう。自分たちのペースで”サッカーショー”を見せていたはずが一変。2-2で引き分けに終わった。

「(日本人が)これに合わせるのは、(敵でも味方でも)なかなか簡単ではないですね。多かれ少なかれ、Kリーグのチームはこんな感じかもしれません」

 豊田は簡潔に語ったが、そこに日韓の感覚の違いが見えた。

 ACLラウンド決勝トーナメント1回戦、豊田擁する蔚山は、同じ韓国Kリーグの水原三星との試合に挑むことになる。