【福田正博 フォーメーション進化論】 ロシアW杯2カ月前で日本代表監督が交代したが、西野朗新監督が選手たちを指導できる時間は、5月30日に行なわれるガーナ戦のために選手が集まってからの約4週間しかない。限られた時間のなかで、「やりたいこ…
【福田正博 フォーメーション進化論】
ロシアW杯2カ月前で日本代表監督が交代したが、西野朗新監督が選手たちを指導できる時間は、5月30日に行なわれるガーナ戦のために選手が集まってからの約4週間しかない。限られた時間のなかで、「やりたいこと」「やるべきこと」「やりたいけど諦めること」を見極めて整理をし、チームを作り上げてくれると期待している。
4月12日に就任会見を行なった日本代表の西野朗監督
まず西野監督が考えるべきは、選手たちのコンディショニングだ。前回のブラジルW杯ではそれに失敗したことが大きな敗因となっただけに、今シーズンの試合出場数に差がある海外組、過密日程で戦うJリーグ組のコンディションを揃えなくてはいけない。そのうえでメンバーを絞り、戦術を落とし込んでいくという難度の高い仕事になる。
先日のTV番組『スーパーサッカー』で、西野監督のもとでプレーした経験がある川口能活、播戸竜二と共演した際に、監督の人物像を聞いたところ、「意外とざっくりした人」という答えが返ってきた。
私自身は現役時代の西野監督と同じピッチでプレーをしたことがなく、解説者としてJリーグ監督時代に取材した時の印象では、「勝負は細部に宿る」と理詰めで考える方だと思っていた。しかし実際は、大枠は決めるけれど自分の考えを最後まで押し通すわけではなく、選手や周りの意見を聞きながら、委ねるべきところは委ねながらチームを作る柔軟な指揮官だという。
今回のスタッフには、U-21代表監督の森保一コーチと、ハリルホジッチ監督時代から留任した手倉森誠コーチもいる。守備面をある程度その2人に任せながら、全体を西野監督が把握するというマネジメントをしていくことになるだろう。
西野監督は、1996年のアトランタ五輪やJリーグでガンバ大阪などを指揮してきた実績があり、選手の資質を見極める能力に長け、さまざまな戦術の引き出しを持っている。その根っこにあるのは「攻撃的なスタイル」だ。
高く評価する選手の特徴は、ガンバ大阪時代に重用していた明神智和(現・長野パルセイロ)のような、クレバーでボール捌(さば)きがうまく運動量が豊富な選手。就任会見時の「日本的にやりたい」という目標を具現化するには、ボールをしっかり捌けて、組織的にプレーする選手が必要なため、そうした選手が代表メンバーに名を連ねることが予想される。
ただし、西野監督のサッカー観をすべて反映するチームを作っていく時間はない。柔軟ではあるが、アトランタ五輪のブラジル戦のように、時には勝利のためにリアリストにもなる監督なだけに、ハリルホジッチ前監督や、それ以前の日本サッカーが築いてきたものを生かしていくだろう。
日本サッカーの特長である組織力を高めることが不可欠だが、そのためには、同じメンバーで練習や試合をする時間を増やすしかない。その時間がない現状では、ザッケローニ監督時代のメンバーを軸にすることを視野に入れてもいいのではないか。
ブラジルW杯で結果こそ出なかったが、そこに至る過程は悪くなかったし、何より組織立った日本人のよさを生かすスタイルで戦っていた。その4年前のメンバーが日本代表に残っていることをふまえ、私なりに現時点で理想と思える23人を考えてみた。
福田正博が選んだ23人のメンバー design by Unno Satoru
基本のフォーメーションは4−4−2、または4-2-3-1。選手同士の距離感を保ちやすく、攻撃も守備も組織的な役割をはっきりできるメリットもある。
まず、正GKは川島永嗣で、控えに中村航輔と東口順昭。CBは吉田麻也と森重真人で、昌子源を控えにし、SBは右に酒井宏樹、左に槙野智章。長友佑都と酒井高徳をバックアップメンバーにしたい。
守備の安定を考えた場合、ザッケローニ監督時代に多くの試合でスタメンを担ったGK川島、CB吉田と森重という組合せが最良だ。長友に代えて槙野をスタメンに入れるのは、日本代表に足りない高さやフィジカルを少しでも補うため。槙野には強さがあるため、攻守でセットプレーのキーマンになることも期待しての配置だ。
また、槙野をメンバーに入れておきたい理由はもうひとつある。W杯メンバーを選考する際に、フィールドプレーヤーは各ポジションに2名ずつというのが基本的な考え方だ。そこでCBもSBもこなせる槙野がいれば、DFの登録人数をひとり減らして、中盤か前線の選手を増やすことができる。
次に中盤については、セントラルMFの2つのポジションは長谷部誠、大島僚太、井手口陽介、山口蛍の4人で流動的に組み合わせたい。そして右MFに本田圭佑、左MFに清武弘嗣を据え、左右MFの控えが香川真司、原口元気、中島翔哉。
ハリルホジッチ監督時代、フリーキックを吉田が蹴っていた試合もあったが、セットプレーは重要な得点源になるため吉田はフィニッシャーとして使えるようにしたい。また、左SBにヘディングで勝負できる槙野を入れても、精度の高いキックを蹴れる選手がいなければ意味がない。その点で、左利きのキッカーとしてファーストチョイスは、コンディションを高めている本田圭佑になる。
清武、香川のどちらをチョイスするかもコンディション次第ではあるが、清武を先発で起用したい理由もフリーキックにある。ラストパスとフィニッシュの精度、テクニックや味方との連係などで2人は似たタイプだが、清武はプレースキックの精度が高い点がアドバンテージになる。
4-4-2をベースに考えているが、このメンバーならば4−2−3−1になってもトップ下は清武も香川も本田もプレー可能で、万が一3バックにする場合は長谷部がCBに下がることで対応できる。そのほか、左MFは、コンビネーションで考えれば乾貴士という選択肢もあるが、得点力や”最後の切り札”としての適性を見て中島翔哉を入れた。
宇佐美貴史や柴崎岳、森岡亮太といった選手もいるが、対戦相手や試合状況に応じて柔軟に戦い方を変えることを考えた場合に、複数ポジションでプレーしている実績のない彼らのメンバー入りは確率が少し下がるように思える。
FWは大迫勇也と岡崎慎司を基本に、際立つ武器を持った選手として杉本健勇と浅野拓磨をメンバーに入れたい。杉本には「高さ」、浅野には「スピード」という武器があるため、試合途中から投入することで、苦しい局面を打開してくれることを期待できる。
先発なら久保裕也という選択肢もあるが、それでも私が岡崎を推すのは、岡崎は前線から守備のスイッチを入れることができるからだ。
また、リオ五輪世代が3人入っているこのメンバー構成なら、年齢的にもバランスが取れている。あるいは、西野監督が今後の日本サッカー界のことを考え、堂安律のような東京五輪世代の若手をW杯に連れていく可能性もある。
先にも述べたが、短時間で組織力を高めることを考え、長らく日本代表でキャリアを重ねてきた選手を中心に、そこにフィットする選手を加える形で、あくまでも予想でメンバーを選んだ。新しい戦術やメンバーで挑むよりも、いち早くチームのまとまりを実感することが、失った自信を取り戻すことにつながるからだ。
こうしたことは、もちろん経験豊かな西野監督も考えているだろう。選手全員がW杯に向けてひとつになり、1%でも勝つ可能性が高いチームで本番に臨んでもらいたい。そして、この4年間で希薄になってしまった日本代表への注目度を、再び高める結果を出してくれることを期待している。