過去2年、ストフェル・バンドーン(現マクラーレン)にピエール・ガスリー(現トロロッソ)と、F1ドライバーが輩出している全日本スーパーフォーミュラ選手権。そして2018シーズンも気になる若い外国人ドライバーが日本にやってきた。それがブラ…

 過去2年、ストフェル・バンドーン(現マクラーレン)にピエール・ガスリー(現トロロッソ)と、F1ドライバーが輩出している全日本スーパーフォーミュラ選手権。そして2018シーズンも気になる若い外国人ドライバーが日本にやってきた。それがブラジル出身の21歳、ピエトロ・フィッティパルディだ。



偉大なレーサーを祖父に持つ21歳のピエトロ・フィッティパルディ

 彼の祖父は1970年代に2度のF1ワールドチャンピオンに輝いた「ブラジルの英雄」エマーソン・フィッティパルディ。また、F1やアメリカのCARTシリーズで活躍したクリスチャン・フィッティパルディを叔父に持つなど、ピエトロは『レース一家』のなかで育った。

 もちろん、ピエトロ自身も将来はF1へのステップアップを考えている。このシーズンオフの間もWEC(世界耐久選手権)、フォーミュラE、そしてインディカーなど、さまざまなトップカテゴリーのマシンをテストドライブ。3月12日~13日に鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラの公式テストにも参加し、そこでの走りが評価されてレギュラー参戦のチャンスを掴んだ。

「スーパーフォーミュラに参戦できることになって、とてもうれしいよ。この機会を与えてくれたチーム・ルマンに感謝している。

(公式テスト参加のため)サーキットに来る前に祖父に電話をしたら、細かな状況をいろいろ聞いてきて、すごく気にかけてもらっているなと感じた。その他にも叔父のクリスチャンだったり、身内にレーシングドライバーとして活躍した人が多いことには、すごく恵まれているなと感じるよ」

 フィッティパルディ家の一員として、ピエトロは自身の現状をこう語る。

「ただ、僕はルーキーだし、まだ経験も少ない。もちろん、一刻も早く勝ちたいという思いはあるけど、まずはいろいろと勉強しなければいけないなと思っている。

 それに、今年のスーパーフォーミュラはレース中にソフトとミディアムという異なる種類のタイヤを履き分けなければならない。すでにスタート練習やピットストップ練習も行なっているよ。開幕戦まで走行できる時間は限られているけど、できるかぎりの準備をしてシーズンに臨みたいね」

 ピエトロが所属するチームはUOMO SUNOCO TEAM LEMANS。8号車は大嶋和也がドライブすることに決まっていたが、7号車のドライバーは未定の状態だった。

 当初、チーム・ルマンには「昨年FIA F2ランキング3位のオリバー・ローランドがレギュラー参戦するのではないか?」と噂されており、3月上旬の鈴鹿公式テストにも参加していた。ただ、ローランドはすでに参戦が決まっていたWECのテストのため、鈴鹿の2日目は欠席することになる。するとこの2日目、限られた時間で予想以上のパフォーマンスを発揮したのが、21歳のピエトロだった。

 コンディションの関係で記録の出にくい状況だったにもかかわらず、ピエトロは前日のローランドを上回るタイムをマーク。これが最終的な後押しとなり、開幕まで1ヵ月を切った3月下旬になって正式にレギュラー起用が決定した。

 ピエトロを選んだ経緯について、チームを指揮する片岡龍也監督はこのように語る。

「ピエトロがテストに来て、『すごいな』と思ったことがいくつかありました。まず乗る前の段階から、メカニックのひとりひとりとコミュニケーションを取ったり、限られたテスト時間を有効に使うためにシミュレーターで鈴鹿サーキットを勉強してきたり……。その姿勢がすごく真面目でしたね。

 彼がテストに参加することも、実はけっこう直前になってから決まったので、(事前に組んでいたテストメニューの関係上)ピエトロには新品タイヤが1セットしかありませんでした。しかも初めて乗るマシンで、初めてのサーキット。そんな環境のなかで、こちらが思う以上の成果を出してくれました。

 レースに臨んでいく姿勢もすばらしいし、何より血筋が文句ないですよね。目に見えないプラスアルファの力がDNAにしっかり受け継がれているのではないかと思います。ドライバーとして成長していく姿も楽しみですし、チームに有益な情報を与えてくれるのではないかと感じたので採用しました」

 昨年、同チームで大活躍したフェリックス・ローゼンクヴィストのように、レベルの高いスーパーフォーミュラで1年目から活躍してくれそうな逸材だと片岡監督は語る。

 スーパーフォーミュラへの参戦も決まったことで、今年のピエトロは多忙を極めるシーズンとなるだろう。すでにWECに2戦、インディカーシリーズに7戦出場することが決まっているので、スーパーフォーミュラの第2戦・オートポリスと第3戦・スポーツランドSUGOは欠場することになる。

 フル参戦する姿が観られないのは残念だが、もっとも気になるのは、ピエトロが短期間で特性の異なるマシンやコースを走り分けてシーズンを戦わなければならない点だろう。また、世界中を飛び回ってレースをするため、時差ボケも影響してくる。

 その点について、ピエトロはこう語っている。

「今年はWEC、インディカー、スーパーフォーミュラに参戦するから、それぞれの場面ですぐに頭のなかを切り替える必要があると考えている。ただ、3つのカテゴリーに参戦するけど、出るレースすべてでベストを尽くしたい。

 今年スーパーフォーミュラに乗れるのは5戦だけど、日本に来たら他のカテゴリーのことは忘れて、この5レースに集中する。いつかはF1に参戦したいという目標があるから、そのために今年は出るレースすべてで結果を残すように集中したいね」

 2016年のバンドーンや2017年のガスリーのように、開幕前のピエトロへの注目度はそれほど高くない。だが、レースを重ねていくごとにライバルから恐れられる存在になりそうな予感はある。ある意味、今シーズンのスーパーフォーミュラで「もっとも成長が期待されている」ドライバーだ。