女子アジアカップ準決勝は、華麗さと粘りの両方を持ち合わせる、なでしこらしさが前面に出た試合展開となり、日本が3-1で中国を退け、2大会連続の決勝進出を決めた。勝利を決定づける得点を挙げ、笑顔でベンチに駆け寄った横山久美 開始から岩渕真…
女子アジアカップ準決勝は、華麗さと粘りの両方を持ち合わせる、なでしこらしさが前面に出た試合展開となり、日本が3-1で中国を退け、2大会連続の決勝進出を決めた。
勝利を決定づける得点を挙げ、笑顔でベンチに駆け寄った横山久美
開始から岩渕真奈(INAC神戸)の気迫は凄まじいものがあった。宇津木瑠美(シアトル・レイン)の縦パスを受けると挨拶代わりのドリブルで突破。前半に勝負をかけようとしていることがこのワンプレーから伝わってきた。自らのフィニッシュだけでなく、ワンタッチやダイレクトパスを駆使して変化をつけながら周りを生かしてゴールを狙う。
岩渕は初戦のベトナム戦から連続スタメンでフル出場している。試合を重ねるにつれて、疲労は溜まっているはずだが、前線からトップスピードでプレスに走り、時にはペナルティエリアにまで下がる献身ぶり。彼女を動かしているものは、”エース”の誇りと責任だ。それだけ目に見える形で指揮官から期待を寄せられてきた。それに報いる先制弾だった。
39分、隅田凜(日テレ・ベレーザ)が何度もトライしていた縦パスが、完璧な状態で岩渕の足元におさまる。素早くターンすると、そこからは岩渕の十八番であるドリブルで、ゴールまでの道筋はひとつ。「いい時間に決められてよかった」(岩渕)と、責任を果たしたエースの表情は穏やかだった。
そしてもう1人、よろこびを爆発させたのが横山久美(フランクフルト)だ。出場機会が、なかなか巡ってこないなかでも、毎日の練習後には最後までFK、シュート練習を続け、キックの精度を高めていた。
73分、有吉佐織(日テレ・ベレーザ)がボールを持った瞬間から、「早く!!」とボールを要求。左ペナルティエリアの際――そこには横山の大好物のゾーンが広がっていた。
「相手のプレッシャーも弱かったので狙いにいった」というシュートは、GKが目一杯に伸ばした手のさらに先を抜けてゴールに突き刺さった。
勝利を引き寄せるゴールを決めた次の瞬間、横山が目指したのはベンチだった。待っていたのは横山の苦悩を知っている選手たちだ。横山は、ようやくはじけた笑顔でその輪に飛び込んだ。よろこびを噛み締めるように、込み上げる感情とともに横山を受け止めた阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)の表情がこのゴールの重みを物語っていた。
その後、横山は自身のPKでの得点と、自身のファウルでのPK献上と、後半すべての得点に絡むことになるが、それらすべてを飲み込む決定的なゴールだった。
この試合で面白い試みをしていたのが有吉だ。なでしこジャパンでは右サイドバックとしてその存在感を示してきたが、この日彼女が託されたのはまさかの左サイドバックだった。突然の起用でも、所属チームでは本職。サイドハーフにチームメイトの長谷川唯が入ったこともあって、混乱は全くなかった。それ以上に、この大一番で最大のチャレンジをしてみせた。
最初のチャレンジは8分。長谷川の左サイドからのパスを前線で受けようと、有吉が中を抜いて上がってきた。大外からのビルドアップは頻繁に目にするが、中抜きとは珍しい。
オーストラリア戦はベンチで「中を切られて外に追いやられている」(有吉)と感じながら見ていた。そこからアイデアのひとつとして浮かんだのが、あえて行なう”中”でのプレーだった。
「外で受けても起点になるけど、自分が中を取って唯(長谷川)が外で受けることで、リズムが出るならそれもアリだと思った」(有吉)
そして、それは長谷川の得意なプレーでもあるのだ。
16分には隅田からのワンタッチパスに反応して、ペナルティエリア内に走り込むなど、有吉のチャレンジの数々は、中国守備陣を大いに惑わせていた。
多くの決定機を実らせることができなかったベトナム戦から、勝ちきれなかった韓国、オーストラリア戦を経て、準決勝で初めて日本らしい90分間の試合運びをした。攻め込まれる時間があってもいい。1失点はしたものの、今の日本にはしのぐ力が備わっている。
特筆すべきは、ベストメンバーと捉えられているオーストラリア戦から5人を入れ替えた準決勝で、見事な試合運びをやってのけたことだ。ボランチは宇津木と隅田という初顔合わせ。有吉は左サイドバック、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)は右サイドバックに、センターバックには三宅史織(INAC神戸)が抜擢された。GKも池田咲紀子(浦和レッズ)に代わり、2トップには岩渕と増矢理花(INAC神戸)。
どう機能するか出たとこ勝負なところもあった。もちろん、すべてがスムーズに運んだわけではないが、完全に馴染まずとも、ひとつの形を作り上げる力があるということは示してみせた。
「まだまだ理想とする形には、攻守ともにすべてにおいて足りない」と厳しく評する高倉麻子監督だが、2年を経てようやく理想とする形の大枠が見えてきた。
大会を通じてチームは成長する。なかなか歩みの遅かったなでしこたちも、この大会で粘り強さが前面に見えるようになり、メンバーを代えてもチームが崩れないベースアップを確認できた。
力を注いできた攻撃へのこだわりも捨てていない。意識の統一が体現され、守備が格段に向上し、攻撃にも同様の好影響をもたらした。高倉監督の目指す、より一層自由な発想が生まれてくるチームに近づいているはずだ。
決勝は、グループステージで日本が勝利のチャンスを手放さざるを得なかったオーストラリアとの再戦となる。あの試合から日本はさらに成長を遂げている。
獲るべきW杯の出場権を獲得し、進むべき決勝にも進んだ。しがらみを解いて、自分たちが表現したいものを、とことん試してみればいい。最高の舞台で、最高の相手とすべては整った。今こそ、なでしこジャパンの力を証明してみようではないか。