「これまでリーグタイトルを勝ち取ってきたすべてのチームが、柱となるポジションにパワーと強度を備えていた。特にセントラルMFやセンターバックといったチームの背骨部分には、フィジカルの強さがどうしても必要になる。ところが、ジョゼップ・グアル…

「これまでリーグタイトルを勝ち取ってきたすべてのチームが、柱となるポジションにパワーと強度を備えていた。特にセントラルMFやセンターバックといったチームの背骨部分には、フィジカルの強さがどうしても必要になる。ところが、ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティはそうでない。はたして、現メンバーのままで今のプレースタイルを続けていくのか。来シーズンに向けて、この点は非常に興味深いポイントになる」

 これは、元イングランド代表DFで現解説者のガリー・ネビルが昨シーズン終了間際に残したコメントである。



革命的な戦術でプレミア制覇を成し遂げたグアルディオラ監督

 昨季のマンチェスター・Cの成績は、リーグ覇者のチェルシーと勝ち点15差の3位。マンチェスター・ユナイテッド時代にアレックス・ファーガソン監督のもとで10度の国内リーグ優勝を勝ち取ったG・ネビルは「来季も大きなテストになる」と述べ、マンチェスター・Cの選手編成とプレースタイルではプレミアを勝ち抜くのは容易でないことを示唆した。

 少し乱暴な言い方をするなら、当たりもフィジカルコンタクトも激しいプレミアリーグは、毎試合が肉弾戦のようなもの。それゆえ、グアルディオラ監督のポゼッションサッカーに疑問の眼差しを向けていたのだ。

 しかし、こうした懸念を在任2季目のグアルディオラ監督は軽く吹き飛ばした。2位マンチェスター・Uが4月15日のWBA戦で敗戦。マンチェスター・Uが残りの試合を全勝しても首位の勝ち点には届かないため、マンチェスター・Cのリーグ優勝が自動的に決まった。2位のマンチェスター・Uに勝ち点16差の大差をつけ、しかも5試合を残しての国内制覇だ。

 優勝までの歩みも、順調そのものだった。第3節からプレミア新記録となる18連勝を達成すると、第34節まで28勝2敗3分(第31節はFAカップとの兼ね合いで5月上旬に延期)と他者を寄せつけない圧倒的な強さを誇った。得点数「93」、失点数「25」はいずれもリーグベスト。まさに文句なしの戴冠と言えよう。

 しかも、「プレミアで頂点に立つにはフィジカルが足りない」とのG・ネビルの指摘も跳ね飛ばした。

 今季マンチェスター・Cの平均身長は177cmでリーグ最小。193cmのヴァンサン・コンパニや188cmのジョン・ストーンズに加え、183cmと高さこそあまりないが体幹の強いニコラス・オタメンディといったセンターバックには屈強な選手が揃っている。しかし、中盤の底を務めるフェルナンジーニョ(177cm)をはじめ、中盤から前線は小柄な選手ばかりだ。それでも、フィジカルとスピードに重きを置くイングランドを制した。

 また、「異次元」(英紙『タイムズ』)と賞賛された1試合平均のボールポゼッション率は、リーグトップとなる71.22%を記録。2位アーセナルの62.43%、3位トッテナム・ホットスパーの61.5%を大きく引き離している。

 つまり、G・ネビルの指摘を踏まえたうえで言えば、これまでのプレミアリーグの成功法則とは異なるアプローチで、グアルディオラ監督はイングランドの頂点に立ったことになる。

 では、成功の秘訣はいったいどこにあったのか──。

 主たる要因は、「ポジショナルプレー(ボールの位置によって、優位性を保つために流動的にポジションを取る考え方)」など、イングランドでもまだ完全には浸透していない「新たな概念」を持ち込んだことにある。実際、グアルディオラ監督はトレーニングでピッチを20分割してラインを引き、選手がどのゾーンにいるかの意識づけを徹底させた。

 こうしたコンセプトを就任1年目の昨シーズンから導入したが、「サッカーIQの低さ」が指摘される英系選手を中心に、戦術浸透には時間がかかった。アルゼンチン代表DFのオタメンディも「監督がチームに新しいアイデアを持ち込んだ。だから1年目はメソッドを理解するのに苦労した」と明かす。それゆえ、昨シーズンのプレーぶりはどこか中途半端な印象が拭えなかった。

 しかし、2季目の今シーズンは選手たちに迷いがなくなり、考えるよりも先に身体が動くようになった。どの位置にポジションを取ればいいのか、あるいは、どこにパスが入るか。さらには、どのスペースに走り込めば有効なのか──。何度も何度も繰り返し刷り込むことで、パスの出し手も受け手も、味方の動きを予測しやすくなったのだろう。

 チェスのようにロジックに基づいてポジションを取り、こうした動きを連続させることでチーム全体に連動性と一体感が生まれた。「選手の意識を変えた」と、そう言い換えてもいいだろう。だからこそ、選手の連係からパスがよくまわり、ファイナルサードで敵の守備網を難なく突破した。

 選手たちの高いボールスキルを基盤としながら、ゴールまでの道筋を明確にし、イメージを共有する。このポジションに入れば、味方がゴール前に顔を出してくるはず──。こうして攻撃の形をなかばオートマチックにすることで、選手のテクニックや創造性もいっそう生きるようになった。

 おかげで今シーズン、選手たちは目覚ましい進化を遂げた。

 リーグ最多の15アシストを記録中のMFケビン・デ・ブルイネは、ダイナミックなプレーで攻撃陣を牽引。近年は伸び悩みが指摘されていたイングランド代表FWのラヒーム・スターリングは、昨季の7ゴールから今季は17ゴールと得点数を大幅に伸ばした。トッテナム時代はタッチライン際のアップダウンを繰り返すだけだった右SBのカイル・ウォーカーも、マンチェスター・C加入後は思い切ったダイアゴナルランが急増している。彼らの成長も、グアルディオラ監督のきめ細かい指導が実を結んだ結果だ。

 冒頭のG・ネビルの言葉から評するなら、マンチェスター・Cの戴冠は、グアルディオラ監督の戦術コンセプトの勝利である。プレミアリーグに新時代が到来した。