監督が代われば、チームが変わる――。 改めて監督の重要性が浮かび上がる、浦和レッズの戦いぶりだった。 昨季途中から指揮を執り、アジア制覇をもたらした堀孝史監督のもとで新シーズンをスタートさせた浦和だったが、開幕5試合で2分3敗と結果を…
監督が代われば、チームが変わる――。
改めて監督の重要性が浮かび上がる、浦和レッズの戦いぶりだった。
昨季途中から指揮を執り、アジア制覇をもたらした堀孝史監督のもとで新シーズンをスタートさせた浦和だったが、開幕5試合で2分3敗と結果を出せず大きく低迷。4月2日、堀監督との契約を解除し、大槻毅育成ダイレクターが暫定的に指揮を執ることが決定した。
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過密日程下であり、大幅なスタイル変更を図るには時間が足りない。そんななかでの監督交代は、ショック療法的な意味合いが強いと思われた。実際に大槻監督は初陣となったルヴァンカップのサンフレッチェ広島戦で、直近のリーグ戦からスタメンをすべて入れ替える大胆な策を示している。
この試合をドローで終えた浦和は、リーグ第6節のベガルタ仙台戦で今季初勝利。さらに第7節のヴィッセル神戸戦でも一度は逆転を許しながらも、終盤のセットプレー2発で3-2と逆転勝利を挙げた。
そして迎えた第8節、清水エスパルスとの一戦。立ち上がりから攻勢を仕掛けると、FW興梠慎三の2ゴールが飛び出し、試合を優位に展開。後半は押し込まれて1点を返されるも、身体を張った守備で同点弾を許さず、2-1で逃げ切った。
まるで勝てなかったチームが、監督交代を機に3連勝である。こうしたケースはさらに悪い方向に転がる例も少なくないが、ショック療法がチームに刺激を与えて好転を生み出す成功例を、浦和は見事に実現したと言えるだろう。
「選手もがんばっていますが、大きく変えたのは監督だと思っています。風貌もそうですが、話術でプラスの影響を与えてくれている。声で選手を動かしてくれる監督ですね」
DF槙野智章が言うように、大槻監督がもたらしたのは、まずはメンタル的な部分の改革だろう。
オールバックで強面(こわもて)の指揮官が、試合中にスーツのポケットに手を突っ込みながら、叱咤激励を繰り返す。”親分”のドスの利いた声に、奮い立たない選手はいないだろう。この試合でも抜擢されたルーキーのDF橋岡大樹が終盤に足をつり、ピッチに座り込んだが、「まだやれる」とばかりにすぐさま起き上がり、最後までピッチに立ち続けた。疲労困憊になりながらもファイティングポーズは崩さない。ルーキーが見せた闘志は、大槻監督が醸し出す雰囲気によって導き出されたものだろう。
一方で、大槻監督は単に親分然として、選手たちに睨みを利かせているだけではない。ベガルタ仙台のヘッドコーチ時代には、分析のスペシャリストとして手倉森誠監督を支えた実績がある。そのスカウティングの確かな目が、好転のもうひとつの要因だ。
浦和は連勝をスタートさせた仙台戦から3バックに変更している。これはミハイロ・ペトロヴィッチ監督時代に採用されていたもので、1トップと2トップの違いはあるものの、後方からのビルドアップを重視する形である。清水戦では後ろから丁寧にボールをつなぎ、ボランチやトップ下に縦パスを当て、そこからサイドに展開。ウイングバックの突破力を生かしてゴールに迫る形が機能した。
興梠の得点はいずれもサイドアタックから生まれたものだ。大槻監督も「短い時間ではありましたが、準備していたことを十二分に出せた」と振り返っている。
今季の浦和は4-1-2-3のシステムで、ハイプレスとウイングのスピードを生かした縦に速いサッカーを標榜していた。しかし、センターバックのタレントが多い一方で、サイドバックの人材の不足からハマリが悪く、最前線の興梠が孤立する場面も少なくなかった。そこで、大槻監督は選手の能力を最大限に生かすシステムを見極め、原点回帰とも言える3バックを採用したのである。
「ミシャ(ペトロヴィッチ監督)のころには戻ってはないけど、フォーメーションもそうだし、やることがはっきりしてきた」
MF柏木陽介は変化のポイントをそう答えた。後ろで回しながらギャップを生み出し、間でボールを受ける形はペトロヴィッチ監督時代の浦和が得意としていたもの。中央の危険なエリアで連動することで、サイド一辺倒だった堀監督時代と比べても、明らかに攻撃の迫力を増していた。
もっとも、すべてが好転しているわけではない。実際に浦和がよかったのは前半だけで、後半になると清水の攻勢を浴び、前半に機能していた攻撃をまるで繰り出せなくなっていた。前半と後半の二面性――。これは仙台戦でも、神戸戦でも同じように露呈した弱みである。
90分を通して安定した戦いを保てないのが、現状の浦和なのだろう。その課題をクリアできなければ、浦和がさらに上昇気流に乗っていくことは難しい。それでも、柏木は小さくない手応えを感じているようだ。
「仙台戦では30分くらい、神戸のときは40分くらい。今日は45分できた。その時間をもっと延ばしていけるようにがんばっていきたい。実際にいい方向に行っている感はあるよ。結果がすべてだからね。勝っていくことが今は必要。現状、それができているのはいいことだと思う」
結果だけでなく、内容も着実に良化するなか、浦和は巻き返しを実現できるのか。ここでひとつの懸念が浮かび上がる。大槻監督は、あくまで”暫定”であるということだ。後任には鹿島を3連覇に導いたオズワルド・オリヴェイラ監督の就任が噂されている。
選手の意識改革をもたらし、適材適所を見極めた大槻監督がこのまま指揮を執り続ける可能性は、おそらくないと思われる。自身も清水戦後に、あくまで暫定の立場であることを認める発言をしている。いい流れを築くなかで、新監督にバトンを引き渡すのは、果たして浦和にとっては得策なのだろうか。
監督が代われば、チームが変わる――。
浦和の未来は、監督の選択にかかっている。
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