このトヨタ・ハイラックスのように、ボンネットがついた乗用車風のトラックは「ピックアップ(トラック)」と呼ばれる。この種のピックアップはアジアや南米、中東などの新興国では、まさに”クルマの定番”というべき売れ筋商品の筆頭である。 十数年前ま…

 このトヨタ・ハイラックスのように、ボンネットがついた乗用車風のトラックは「ピックアップ(トラック)」と呼ばれる。この種のピックアップはアジアや南米、中東などの新興国では、まさに”クルマの定番”というべき売れ筋商品の筆頭である。

 十数年前までは日本でも国産ピックアップがいくつも生産・販売されており、本来の仕事グルマ需要はもちろん、気合いの入ったアウトドア趣味グルマでもあった。しかし、その後の日本市場は急激にエコカー偏重主義へと変貌していって、その結果、日本メーカーのピックアップは海外生産、あるいは生産終了へと追い込まれていったのだ。

 13年ぶりに国内市場に復活したハイラックスはもちろんトヨタ車ではあるが、今はタイ工場で生産される輸入車でもある。

 ハイラックスは2004年の6代目終了とともに国内生産から撤退。この最新型ハイラックスは通算8代目にあたるのだが、04年に日本の生産設備を受け継いだタイ工場を中心に今は世界6拠点で生産されて、140カ国以上で販売されている。

 ハイラックスはつまり、「これまで13年間も販売がストップしていた日本こそが、世界の仲間はずれ?」といえるくらいの超グローバル人気商品なのだ。また、今回のハイラックス復活の背景には「日本で売っていた当時から乗り続けているお客さん(個人客だけでなく法人ユーザーも)が、いよいよ買い替えたがっている」という切実な理由もあるらしい。

 で、新しいハイラックスだが、13年前に日本市場のタガがはずれてしまっていることもあって、そのサイズは日本目線で見ると、素直にデカい。本物の悪路走行を想定した地上高や全高が高いのは当然として、長さも幅もかなり大きい。ただ、世界のワークホースとしてはこれが平均的な大きさでもあり、とにかく運転席からの見晴らしはよく、地上高もタイヤもビッグなので、少々の段差は踏んだり乗り越えたりしても問題なし……で、実際の取り回しは意外なほどストレスが少ない。

 日本仕様でもきちんと商用車登録となる新型ハイラックスは荷物もガンガン積めるし、もともと過酷な現場仕事を想定しているために、メカニズムは簡素でタフそのものだ。

 自慢の悪路走破性にいたっては、私のようなオタクのアマチュアドライバーが乗るかぎり、クルマの限界のはるか手前で人間の限界がきてしまう(笑)。いずれにしても、その悪路性能は同じトヨタが誇るランドクルーザーシリーズ(第33回、第96回、第114回参照)に匹敵するレベル……ということは、実質的に世界で1、2を争う神様級ということだ。

 アジアやアフリカの新興国といっても、今やクルマに求められる安全性や環境性能、快適性に先進国と大差はない。それにこの種のピックアップを趣味グルマとして使う文化も世界中に浸透している。

 よって、このハイラックスも、ディーゼルエンジン+6速オートマ+自動ブレーキ付き……という「最新ハイラックスの世界基準」そのままで日本でも乗れるのが嬉しい。こんなことはクルマの法規が世界各国でバラバラだった昔からは考えられないことである。

 また、内外装の質感や装備にもなんら不足はない。後席も見た目は狭そうだが、実際にはプリウスに大差ない広さがあって、よじのぼるようなシートの高さ以外、今どきの5人乗りSUVのツボはすべて備えている。

 ただ、あくまでトラックなので空荷だとリアタイヤがガタピシ跳ねがちなクセはあるものの、スピードが上がると不思議と落ち着くのがマニアなツボ。基本的に4本のタイヤが幅広く踏ん張っているので、絶対的な安定性はすごく高い。さすがは「どんなにコキ使われても絶対にヘコたれない」と世界中から信頼されているクルマだけのことはある。

 それにしても、このハイラックスに加えて、前記のランドクルーザー各車……と、トヨタはいつの間にかマニア垂涎の本物のオフロード車が日本でも選び放題になっている。じつをいうと、この種のピックアップについては、今も日産や三菱、いすゞなども海外で生産しており、それなりの人気を博している。しかし、それを日本で売ってくれているのはトヨタだけである。

 トヨタは世界でも1、2を争うビッグメーカーだけに「日本人の知らないトヨタ車」も数えきれないほど存在している。そういう自分たちの美点をいかして、少量でもいいから「面白いトヨタを世界から……」という機運が今のトヨタにはあって、今回のハイラックスにしても「こういうクルマって、日本でもまた意外にウケるんじゃない?」といったド直球のツボをねらった企画でもある。

 最近のトヨタに「面白いことをやろう!」という明るい雰囲気がただよっているのは、なにより現社長の豊田章男氏が生粋のクルマ好きである影響が大きい。世界最大級の企業なのに、そういう純粋なツボを前面に押し出すところが、今のトヨタの強さである。

【スペック】

トヨタ・ハイラックスZ

全長×全幅×全高:5335×1855×1800mmホイールベース:30850mm車両重量:2080kgエンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ・2393cc最高出力:150ps/3400rpm最大トルク:400Nm/1600-2000rpm変速機:6ATJC08モード燃費:11.8km/L乗車定員:5名車両本体価格:374万2200円