プレーの場所をどんどん高いステージへうつしている茂野海人。兄・洸気さんはNTTドコモに在籍。(撮影/松本かおり)  カナダ、スコットランドとの対戦を控える日本代表が6月4日、都内に集合した。チームは5日の夜にバンクーバーへ。11日にカナダ…

プレーの場所をどんどん高いステージへうつしている茂野海人。
兄・洸気さんはNTTドコモに在籍。(撮影/松本かおり)


  カナダ、スコットランドとの対戦を控える日本代表が6月4日、都内に集合した。チームは5日の夜にバンクーバーへ。11日にカナダ代表とテストマッチを戦う。
 昨年のワールドカップに出場した選手たちを芯に、サンウルブズ、4月~5月におこなわれたアジアラグビーチャンピオンシップに出場したジャパンの中から選ばれた今回の日本代表は33人(他にバックアップメンバー8人も選出)。カナダには25人(FW=14人、BK=11人)が向かい、この中にはバックアップメンバーから2人のバックロー、金正奎、堀江恭佑も含まれている。HO堀江翔太やLO大野均など7人のワールドカップメンバーはスコットランド戦直前の合宿から参加する。

 カナダへのツアーは、5人のノンキャッププレーヤーも含まれている。その中のひとりがSH茂野海人だ。サンウルブズのSHとして今季スーパーラグビーの12試合中8試合に出場(先発=3試合、途中出場=5試合、283分プレー)した経験をインターナショナルの舞台でも活かしたい。
「緊張するタイプなのですが、思い切って、自分の持ち味を出していきたいですね」
 強気な仕掛けが通用したスーパーラグビーでの体感は自信となった。

 激動の1年間を送った。
 江の川(現・石見智翠館)高校から大東大に進学し、2013年春にNECグリーンロケッツへ。チームの海外派遣制度を利用してニュージーランド(以下、NZ)へ向かったのが昨年だった。オークランドのポンソンビークラブでプレーし、同クラブでのシーズンが終われば帰国する予定が大きく変わった。オークランド代表(ITM CUP/NZ国内州代表選手権)のポール・フィーニー監督がポンソンビーの試合を見て、茂野のプレーを気に入ったのだ。
 オークランド代表に選ばれてITM CUPで戦い、チームの上位進出に貢献する。紺×白のジャージーはファイナルに進出し、茂野はその試合で背番号9を背負った。チームはオールブラックス級の選手を多数擁するカンタベリー代表に23-25の惜敗も、その経験は大きな刺激を与えてくれた。

 帰国後トップリーグでのシーズンを経て、スーパーラグビーにも参戦と、忙しい1年を送っている。しかし、ラグビー王国の国内最高峰レベルの大会で活躍したというのに、当初、サンウルブズのスコッドの中に茂野の名前はなかった。NECでともにプレーするFL村田毅、細田佳也、SO/CTB田村優らがそこに呼ばれているのは知っていた。
「(自分は)まだ実力が足りないんだな、と思っていました」
 本人はそう理解していたという。
 しかしその後、事態は急変した。同チームに(開幕前に)追加招集された茂野はスーパーラグビーで高いパフォーマンスを示し、日本代表首脳陣にアピール。今回のスコッド入りも果たした。

『見たらほしくなる』男なのだろう。トップリーグ入りのときもそうだった。
 大東大時代、将来はトップリーグでプレーしたいと思っているのに声がかからない。NECでプレーしていたコーチに頼んでグリーンロケッツの練習に参加させてもらい、そこで自身のプレーを見てもらって入社が決まった。
 オークランド代表入りも、直に見た監督の判断で実現したし、サンウルブズから日本代表への過程も同様。本人は「いつもギリギリのところにいる、ということでもありますね」と言うけれど、指揮官を振り向かせるものを持っている。

 PKなどから積極的に仕掛けるスタイルは、実はNZで自分のものにした。オーソドックスなスタイルが芯を貫くNECでは、自ら動くことは少なかったが、辻高志コーチからもらった「思い切りやって来い」の言葉を受けて、どんどん走ってみた。
「相手の反応が遅かったり、そういうこともあったのでイケる、と。周囲の選手たちもレベルが高いのでついて来てくれるので、やりやすかった。それに(ボールを)持って走るのは楽しいですね。それにあらためて気づきました」
 英語がよく分からない。それもよかった。
「失敗したときに言われることが、日本語で言われたらへこむようなことでも、英語ならよく分からないから気にならなかったんです」

 王国で作り上げたスタイルを、桜のジャージーでも、グリーンのジャージーでも披露したい。
「先を見てプランを立てるより、自分は目の前のことに集中したいタイプ。これまでもそうやって結果を残し、チャンスをもらってきたと思います。今回も高いレベルでプレーできる機会をもらいました。素直に嬉しいですね。このチームでも、NECでも、自分のスタイルを理解してもらえるようなプレーをすればみんなサポートしてくれるはず。思いきってプレーしたい」
 駆け足で階段を昇ったこの一年の勢いをもっと加速させたい。カナダ戦を経て、日本に戻って来るのは6月13日。そのときには、すでにキャップホルダーとなっているだろうか。