ようやく、〈ポスト・セレナ世代〉からグランドスラム新女王が誕生した。昨年のウィンブルドン決勝と同じカードになった全仏オープン(5月22日〜6月5日)の女子シングルス決勝。第4シードの22歳ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)が…

 ようやく、〈ポスト・セレナ世代〉からグランドスラム新女王が誕生した。昨年のウィンブルドン決勝と同じカードになった全仏オープン(5月22日〜6月5日)の女子シングルス決勝。第4シードの22歳ガルビネ・ムグルッサ(スペイン)がディフェンディング・チャンピオンで第1シードのセレナ・ウイリアムズ(アメリカ)を7-5 6-4で破り、グランドスラム初栄冠に輝いた。

 昨年の全米オープンでのフラビア・ペンネッタ(イタリア)、今年の全豪オープンでのアンジェリック・ケルバー(ドイツ)と新チャンピオンは生まれたが、それぞれ当時の年齢で33歳と28歳。これからのテニス界を担う世代とは言い難い。実際、ペンネッタは昨年いっぱいで引退し、ケルバーはしばらくスランプに陥った。22歳7ヵ月でのグランドスラム制覇は、2012年の全豪オープンでビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)が22歳6ヵ月で初優勝して以来最年少となる。

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 バックハンドのトップスピンロブは、セレナの頭上に放物線を描き、ベースラインの真上に落ちた。自分の目でそれを見届けたセレナの拍手は、この日のムグルッサのパフォーマンスのすべてに対する称賛であり、せめて女王らしい負けの認め方だった。  「彼女の強打はすごい。そして大舞台でどうプレーするか、グランドスラムでどう勝つかがわかっている」 そうセレナが称えただけのことはある。リーチの長さを生かした鋭いアングル、切り返しのダウン・ザ・ライン、それらは時に鮮やかなウィナーになり、ときにじわじわとセレナを追い詰めた。

 第1セット第5ゲームでムグルッサがブレーク。第8ゲームでブレークバックを許すが、流れは渡さなかった。第11ゲームでふたたびブレークし、サービング・フォー・ザ・セットは15-40からデュースに持ち込み、3度のデュースの末にキープ。7-5でセットを奪った。

 セレナのミスが目立ったように見えたが、 ムグルッサよりも多かったのはいわゆる凡ミスではなく、フォーストエラー…つまり、「強いられた」ミスだ。それがムグルッサの21本に対して39本。どちらが攻めていたかがわかる。ムグルッサの強気の姿勢は昨年のウィンブルドンでの経験も後押ししていた。

 第2セットはムグルッサがいきなり第1ゲームをブレークしたが、第2ゲーム、2度目のデュースのあと2つのダブルフォールトをおかしてブレークバックを許した。ムグルッサのダブルフォルトは計9本。しかし、すぐにふたたびブレークし、サービング・フォー・ザ・マッチを待たずに第9ゲームのリターンゲームで4つのマッチポイントを握る。これらをすべて逃したが、次のゲームはラブゲームで勝利へ突っ走り、セレナに反撃のチャンスは与えなかった。

 本来のセレナなら……相手のちょっとした弱気や焦りにつけ込み、劣勢も覆すセレナなら、この試合でもきっかけは何度かあった。ムグルッサが連続ダブルフォールトでサービスを落としたあともそうだろうし、マッチポイント4つを逃したあともそうだろう。しかしそれができなかったのは、ムグルッサが冷静かつアグレッシブだったからなのか、あるいはセレナもついに下り坂ということか。

 ノーシード相手の準々決勝や準決勝の苦戦も含めて、後者という見方が強まっているが、答えを出すまでにはせめて次の大舞台、ウィンブルドンを見るべきかもしれない。

 ムグルッサは昨年準優勝したウィンブルドンにも自信をのぞかせた。 「この決勝のことを覚えておく。そしてまたもう一度決勝にいって、勝ちたい」 芝でもクレーでも通用する攻撃力で連続優勝は夢ではない。そしてムグルッサがそのレベルに達すれば、女子テニスは転換期を迎えるかもしれない。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)