約0.5秒に5チーム10台がひしめく大混戦――。それが2018年の中団グループだ。 開幕戦のオーストラリアで下位に沈んだトロロッソが第2戦・バーレーンで中団トップに浮上できたのも、この大接戦のなかだからこそ。コンマ数秒のパフォーマンス…

 約0.5秒に5チーム10台がひしめく大混戦――。それが2018年の中団グループだ。

 開幕戦のオーストラリアで下位に沈んだトロロッソが第2戦・バーレーンで中団トップに浮上できたのも、この大接戦のなかだからこそ。コンマ数秒のパフォーマンス向上が順位に大きく影響したからだ。



トロロッソ・ホンダは中団グループのトップの座に立てるか

「このタイトな中団グループのなかでは、0.3~0.4秒の差で簡単に順位が3つ4つ変わることにつながる。予選でパーフェクトなラップを決められれば好結果になるし、小さなミスでも犯せば大きく順位を失いかねない。ドライバーとしてはとてもエキサイティングな状況だよ」

 ピエール・ガスリーがそう語るように、マシンパッケージとドライバーのすべてが揃えられなければ、中団グループの激しい争いを制することはできない。わずかな失策でもあれば、Q3進出からQ1敗退まで簡単に入れ替わってしまうのが、今の中団グループなのだ。

 トロロッソはメカニカル面のセットアップを変えることで、大きくパフォーマンスを伸ばした。バーレーンの金曜はオーストラリア仕様、土曜からはバーレーン仕様で走ったブレンドン・ハートレイは、その違いに驚いたと言う。

「土曜日に空力アップデートを適用してからは今までで一番のマシンフィーリングだったし、それ自体はとても勇気づけられることだった。僕は金曜にメルボルン(仕様)のクルマで走り、土曜からアップデートしたクルマに乗り換えて、そのステップの大きさを実感したからね。

 2台揃ってQ3に進むポテンシャルは十分にあったと思う。コース自体は違うけど、低速コーナーと高速コーナーのスピードプロファイル(速度域の分布)という点では、バーレーンと上海はかなり似通っているし、今週末の上海でもコンペティティブ(競争力がある状態)じゃないと考える理由は何もないよ」

 中団でトロロッソとトップを争うのはハースだ。フェラーリ製パワーユニットを積み、どのサーキットでも安定した速さを発揮すると目されている。

「現状では中団グループのなかで、ハースが少しばかりアドバンテージを持っていることは間違いないと思う。だけど彼らは毎年、シーズン序盤はポテンシャルが高い状態で開幕を迎えるけど、開発をうまく進められない傾向にあるから、僕らはしっかりと開発を進めてマシンのポテンシャルを高めて、なるべく早く彼らを追い越す必要があるね」(フェルナンド・アロンソ)

 ハース自身も開発の重要性は認識しており、ロマン・グロージャンも「いかに開発を続け、中団のトップに食らいついていくかの勝負だ」と語っている。

 ルノーのニコ・ヒュルケンベルグも、トロロッソとハースを中団トップ候補に挙げている。

「2戦を終えて勢力図が見えてきたけど、非常にタイトな中団グループのなかで、トロロッソ、ハース、マクラーレンが僕らのライバルだし、彼らを打ち負かすために全力を尽くさなければならないね」

 一方、マクラーレンはバーレーンで苦戦を強いられたが、これはサーキット特性による1戦かぎりのものだと認識しているようだ。アロンソはこう説明する。

「バーレーンよりは上海のほうが僕らにはいいと思う。(テスト地の)バルセロナやメルボルンではバーレーンよりもよかったから、ここもそうだと思う。

 昨年もそうだったけど、なぜかバーレーンはうまく性能が発揮できず、僕らにとってもっともパフォーマンスが低いサーキットなんだ。バーレーンでは実力以下のパフォーマンスしか発揮できなかったし、バーレーンでの失速はワンオフ(一度きりのもの)であってほしいと思っているよ」

 マクラーレンはルノー製パワーユニットを搭載する3チームのなかでもっとも最高速の伸びが小さく、ドラッグが大きいことは彼ら自身も認識している。これがマシンデザインそのものからきているのか、車体を大きく前傾させてマシン全体でダウンフォースを稼ぐセットアップ方針からきているのか、詳しい調査を進めているところだという。

「全体的なペースでは、トップ3チームからは大きく後れを取っている。同じパワーユニットを搭載するレッドブルとも大きな差があるし、改良が必要なのは疑いようのない事実だ。

 今年、僕らはルノー製パワーユニットを搭載する他のマシンと直接比較ができるようになったわけで、(最高速が伸びないのが)セットアップの方向性によるものなのか、それともマシン設計自体を見直さなければならないものなのか、今後数戦で僕らがどんな解決策を見いだせるのか、今チームは調査しているところだよ」(アロンソ)

 昨年、中団グループのトップにいたフォースインディアは苦戦を強いられている。資金不足のためマシン開発が遅れ、開幕戦にぶっつけ本番で投入した2018年空力パッケージが使いこなせずにいるからだ。

「2018年型パッケージを学習していっている途中という状態。バーレーンで投入したフロントウイングが思ったように機能してくれなかったことも事実だが、問題はフロントウイングだけに限らずマシン全体。少しずつ改良していくしかないが、本格的なアップデートはバルセロナ(第5戦)まで待たなければならない」(チームのエンジニア)

 セルジオ・ペレスは「中団グループはこれまで以上にタイトだし、シーズンを通して激しい戦いが繰り広げられることになると思う。ハースとトロロッソがもっとも速いけど、中団はとてもタイトだから、僕らもできるだけ早くそのギャップを縮めて中団トップの争いに加われればと思っているよ」と開発による浮上を願っている。昨年も実際には、シーズン序盤はマシンパフォーマンスが低く、戦略で入賞を続けながら開発を追いつかせていってのランキング4位確保だったが、今年もその再現を狙っている。

 いずれにしても、極めてタイム差がタイトなだけに、サーキット特性とマシン特性の相性によって、毎レースのように勢力図は入れ替わることになりそうだ。チームにとっては厳しい戦いだが、見る側にとってはこれほど面白いことはない。

「去年はフォースインディアだけが中団トップにいて、中団グループのなかでは速いけどトップに追いつくほどの速さはないという膠着(こうちゃく)状態だった。でも、今年は中団グループが恐ろしいほどの接戦で、勢力図が毎レースのように変わる。

 メルボルンではハース、ルノー、マクラーレン、トロロッソの順だったけど、バーレーンではトロロッソ、ハース、ルノー、マクラーレンの順だった。中団の勢力図は、まだ誰にもわからない。エキサイティングだと思うし、F1にとってもいいことだと思うよ」(グロージャン)

 そんななかで、1.2kmのバックストレートがある上海は、非力なホンダにとってこれまで厳しいサーキットのひとつだった。しかし、ストレートの多いバーレーンでわかったように、今年のトロロッソのマシンパッケージは空力効率が高く最高速が伸びるため、少なくともストレートで大きなハンディキャップを背負うことはなさそうだ。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「まだまだ楽観視はしていません。ですが(バーレーンでの活躍で)悲観する必要もなくなったというのが我々にとっては大きな材料だと思っています。お先真っ暗な状況のなかでガムシャラに走っているわけではない、ということが自分たちのなかでもしっかりと掴めたことが大きかった」

 シーズン序盤のフライアウェイ(欧州以外の)4戦のなかでもっとも中高速コーナーが多く、通常のグランプリサーキットと言える上海では、もっとも正確に今の勢力図が映し出されることになるはずだ。レースごとに入れ替わる中団グループの勢力図のなかで、トロロッソ・ホンダが上海でどのような走りを見せてくれるか、楽しみだ。