4月7日、高円宮杯U-18サッカーリーグが全国でいっせいに開幕した。Jリーグのクラブユースと高校サッカーのチームが混ざったリーグで、高校生年代の頂点を決める。全国を東西の2地域に分けて行なわれるプレミアリーグ(1部)と、全国を9グルー…
4月7日、高円宮杯U-18サッカーリーグが全国でいっせいに開幕した。Jリーグのクラブユースと高校サッカーのチームが混ざったリーグで、高校生年代の頂点を決める。全国を東西の2地域に分けて行なわれるプレミアリーグ(1部)と、全国を9グループに分けて行なわれるプリンスリーグ(2部)があり、およそ1年間にわたってしのぎを削る。
昨季の高円宮杯U-18サッカーリーグではFC東京U-18が優勝している
日産フィールド小机ではプリンスリーグ、横浜F・マリノスユースが栃木の矢板中央高校と一戦をまじえている。
この日は折悪しく記録的な強風で、目を開けるのもつらいほどだった。ピッチ横の記録係の資料は強い風で吹き飛ばされ、たびたび回収に大わらわ。パイプ椅子は飛ばされないように、たたんで地面に並べられていた。ハーフタイムには鉄製のスコアボードが倒れてしまった。
当然、ピッチでも”事故”が起こりえる状況になっていた。
例えば、セットプレーで置いたボールが転がる。パスを正確につなぐのが困難で、相手のプレスに簡単にかかってしまう。あるいは長いボールの軌道を読み違える。常に不測の事態が起こるリスクがあった。
しかし、困難な環境に置かれて粘り強く勝利をものにできるかどうかにも、育成におけるひとつの分岐点はあるのだろう。
技術的には上のF・マリノスだったが、強風という条件下において、本来のプレーができなかった。つなぎを奪われ、カウンターから失点。一度は追いついて、PKでリードするチャンスもあったが、GKに防がれてしまう。そして後半は完全に相手の勢いに押し込まれ、耐え切れなくなって自陣でFKを与えてしまった。その結果、左足インスイングのクロスを頭で叩かれて1-2で敗れている。
一方の矢板中央は、最後まで勝利への執念を見せていた。露骨な時間稼ぎも敢行。何より球際に対する意識が最後まで衰えなかった。1対1で負けないことにより、戦いを旋回させていた。
育成について、考えさせられる展開だった。
町のクラブがJクラブに挑む小説『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)を上梓した筆者は、勝負の際(きわ)を探る目的で、育成年代について様々な取材をしてきた。この日のF・マリノスの試合ともリンクするのは、伝説のアルゼンチンの名将、ルイス・セサル・メノッティの言葉だろうか。
「フットボールは人生そのもの」
ピッチでは、理不尽、不条理な出来事が常に起こりえて、それに向き合わざるを得ない。勝利をすれば、視界が開けるような成長が望める。たとえ負けても、すべてを出し尽くしたなら、何かをつかめる。その繰り返しの中で、逞(たくま)しくならないといけない。立ち止まってはならず、才能を持っているだけでは成功できない。才能をアップデートさせる者が一番強いのだ。
性格や適性を語られる場合もあるが、あまり関係ないだろう。スポーツ取材をしていると、「”いい人”は弱いから成功できない。他人を引きずり下ろすくらい貪欲でないとダメだ」という話をしばしば聞く。それもひとつの真理だろう。”いい人”を、ただのお人好しとするなら。しかし、”いい人”にも、他人や環境に流されない強い優しさがある人はいる。
スペイン史上最高のファンタジスタのひとり、ファン・カルロス・バレロンは、筆者が取材した選手のなかでも、格別に”いい人”である。気さくで、笑顔を失わず、誰にでも気遣いができる。信仰心の強さもあるのだろうか。
バレロンは10代のときに、父と兄を立て続けに交通事故で失っている。もうひとりの兄は、暴力的タックルで選手生命が絶たれた。彼はその不運を目の当たりにした。
「ピッチで楽しみ続ける。次の試合はもっと、もっとね。それだけさ」
そう語るバレロンは、弱いどころか、果てしなく強かった。
デポルティボ・ラ・コルーニャ時代にはラ・リーガ、スペイン国王杯で優勝。チャンピオンズリーグではACミラン、バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッドを次々に破る立役者になっている。そして引退前に故郷ラス・パルマスに戻ると、最終節の試合終了間際に昇格を逃す悲劇に遭うも、次のシーズンに昇格をもぎ取っている。
その粘りは彼の人生であり、フットボールそのものだった。
おそらく選手育成では、この性格が一流になる、こうすれば一流になる、というメソッドは存在しない。フットボールは人生と同じで、危うく、先が見えないものだ。恵まれない状況のほうが、サッカー選手として成長できる側面もある。環境に恵まれていない南米からのほうが、いまだにうまい選手が出ているのは事実だ。そんな矛盾をはらんでいるのが、フットボールというスポーツなのだ。
どれだけボールを蹴ることに打ち込めるか――。それはひとつの才能だろう。その熱によって、選手としての一線を越えられる。どんな状況をも打破できる人間になれるのだ。
小机のスタンドからは、強風の中で試合を戦い終えた両者に、惜しみない拍手が送られていた。
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