NBAのプレーオフは予定調和の結果に終わることも多いが、今年は波乱の年になるかもしれない。 過去3年連続でNBAファイナルを戦った、ゴールデンステート・ウォリアーズとクリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)に盤石の強さがなく、ヒュ…

 NBAのプレーオフは予定調和の結果に終わることも多いが、今年は波乱の年になるかもしれない。

 過去3年連続でNBAファイナルを戦った、ゴールデンステート・ウォリアーズとクリーブランド・キャバリアーズ(以下、キャブズ)に盤石の強さがなく、ヒューストン・ロケッツやトロント・ラプターズなどの台頭もあって、スリリングな戦いが続きそうなのだ。

 特に、大混戦のイースタン・カンファレンス内で”ダークホース”になりそうなのが、フィラデルフィア・76ersだ。長く続けてきたチームの再建策がようやく実を結び、フレッシュで魅力的なメンバーがフィリーの街に集まってきている。



好調な76ersをけん引してきたベン・シモンズ(左)とジョエル・エンビード(右)

 昨季の新人王候補になったジョエル・エンビード、ダリオ・シャリッチに加え、一昨年のドラフト全体1位指名選手のベン・シモンズがNBAデビュー。さらに、昨年のドラフト全体1位で指名されたマーケル・フルツも加わり、76ersは「若きタレント集団」と呼ばれるに相応しいチームになった。

 3月23日のミネソタ・ティンバーウルブズ戦で、76ersのブレット・ブラウンHC(ヘッドコーチ)はプレーオフへの意気込みを次のように述べた。

「シーズン50勝というのは凄い数字で、もちろん辿り着ければ素晴らしい。ただ、それが目標ではない。私たちはとにかくプレーオフ1回戦でのホームコート・アドバンテージ(カンファレンス4位以内)を勝ち取りたいんだ」

「シーズン50勝?」
「プレーオフでのアドバンテージ?」

 過去5年の低迷ぶりが強烈に印象に残っている人は、思わず耳を疑ったかもしれない。

 しかし、順調に勝利を重ねた今季の76ersは、4月11日のアトランタ・ホークス戦まで破竹の15連勝を飾るなど、ブラウンHCが目指していたシーズン50勝を達成。イースタン・カンファレンスの3位で2012年以来となるポストシーズン出場を決め、プレーオフ1回戦のホームコート・アドバンテージも獲得した。

 この魅力的なチームの中でシンボル的な存在となってきたのが、センターのエンビードだ。身長219cm、体重113kgという巨体ながら、身体能力、クイックネス、スキルを兼ね備えた万能型。NBAのレジェンド、ウィルト・チェンバレンが比較の対象として話題に上がるなど、まだ24歳のビッグマンは底知れぬスケールの大きさを感じさせる。

「ゲームに出られなかった2年間、僕は『失敗だ』などと言われてきた。それでもハードに練習を続け、ここまでこれたことを嬉しく思うよ」

 今季、オールスターに初出場した際にそう述べていた通り、エンビードは2014年ドラフト1巡目全体3位で76ersに指名されながら、度重なるケガで最初の2年間はまったくプレーできなかった。

 しかし今季は、63試合で平均23.8得点、11.0リバウンドという優れた数字をマーク。間近に迫ったプレーオフは、攻守両面でほとんど弱点がなく、いずれアンストッパブルな選手に成長するであろう”大器”にとって初の大舞台になる……はずだった。
 
 76ersに激震が走ったのは3月28日のニューヨーク・ニックス戦のことだった。

エンビードは第2クォーターで味方選手と接触して脳震とうを起こし、眼窩(がんか)骨折という重傷を負った。報道によると、復帰までには2~4週間かかる見込みで、4月14日に開幕するプレーオフの第1ラウンドには間に合わないかもしれない。

 ポストシーズンではラプターズ、キャブズを脅かす存在になると思われた76ersだったが、思わぬかたちで先行きに暗雲が立ち込めた。今後は、もうひとりの若きスーパースター、シモンズに大きな負担がかかることになりそうだ。

 エンビードに匹敵する才能を持つと評されるシモンズは、ルーキーながらリーグを代表するオールラウンダーになった。今季すでに12度のトリプルダブル(3月だけで5度)を達成するなど、若きプレーメイカーとして76ersを支えている。

「シモンズは特別だよ。サイズ、視野の広さ、判断力は天性のもので教えることはできない。アンセルフィッシュで、周囲の選手を生かすことができる。チームメイトたちのプレーをより簡単にさせることができるんだ」

 対戦したウルブズのトム・ティボドーHCがそう語る通り、シモンズも長くリーグを騒がせる選手になっていくだろう。エンビードが不在の間は、まだ21歳のシモンズがチームを引っ張っていかなければならない。身長208cmながらボール運びを任される大型司令塔は、ティボドーHCが絶賛する通り、仲間たちの力を引き出すことができるだろうか。

 このルーキーの頑張りで、マイアミ・ヒートとのプレーオフ第1ラウンドを突破し、エンビードの復帰を待つのが76ersにとって理想的な展開だ。ともに突出した才能を持つシモンズとエンビードが、キャブズ、ラプターズ、セルティックスといった強豪が待ち受ける第2ラウンド以降に揃って臨むことができれば……。

 ともあれ、76ersが”NBAの未来”と評されるほどに楽しみなチームであることに変わりはない。今季は大本命が不在のイースタンに、その”未来”が意外に早く訪れても驚くべきではないのかもしれない。

 間もなく始まる2018年のプレーオフ。レブロン・ジェームズ、ヤニス・アデトクンボ、カイリー・アービングといった実績ある選手はもちろん、エンビードとシモンズからも目が離せない。

 今回のポストシーズンは、これから始まる”76ers新時代”の第1章として、いずれ懐かしく振り返られることになるだろうか……。