4月11日に各地で行なわれたJ1リーグ第7節。観客席、メディア、そしてなによりピッチに立つ選手たちに、どこか色めきたつところがあった。ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表監督が電撃的に解任され、新たに西野朗技術委員長が監督に就任。ワール…

 4月11日に各地で行なわれたJ1リーグ第7節。観客席、メディア、そしてなによりピッチに立つ選手たちに、どこか色めきたつところがあった。ヴァイッド・ハリルホジッチ日本代表監督が電撃的に解任され、新たに西野朗技術委員長が監督に就任。ワールドカップ直前で代表メンバーの行方は振り出しに戻り、今まで外れていた選手にも可能性が出てきたからだ。

 はたして、西野ジャパンはどのような編成になるのか? その期待感の先にあるものがたとえ何だとしても、Jリーグにおけるカンフル剤にはなっている。

 第7節、等々力陸上競技場で行なわれた一戦は、国内で最も代表候補の多いカードと言えるだろう。昨シーズンのリーグ王者である川崎フロンターレ対同じくカップ王者であるセレッソ大阪の対決。「代表視察」にはふさわしい好カードだ(試合は1-2でセレッソ大阪が勝利)。



日本代表としても期待される大島僚太(川崎フロンターレ)

「Jリーグはインテンシティが低い」

 ハリルホジッチはそう嘆いていたが、これはなにも彼だけではない。アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレも、同じ指摘をしていた。

 この試合、両チームを通じて強度の高いプレーで一番安定していたのは、川崎FのFW小林悠(30)だろう。

 小林はギャップを探してボールを受け、反転して左足でシュートを放つなど、派手さはないものの、理知的な動きと腰の強さを見せている。ボールの落下点を読み、ポジションに入ってからの跳躍も高く、ヘディングも高いレベルにある。昨シーズンのJリーグ得点王、MVPだけに、ハリルホジッチの選ぶメンバーにも入っていたが、西野ジャパンでも当確に近いのではないだろうか。

 川崎FではMF大島僚太(25)も、代表に入らなければおかしい。大島はボールを握って失わない。その強度に関しては、海外組も含めて日本人ナンバー1。ターンで相手を置き去りにし、ボールを持ち上がれるし、四方が見えるのでほぼ捕まらない。セレッソ戦も、川崎Fの攻撃の渦は彼を中心にできていた。もっとも、2失点目は明らかにその球際での甘さから生まれたもの。高いレベルの試合でパーソナリティーを出せるか。

 パーソナリティーという点では、大久保嘉人(35)は存分に出せる。動物的な感覚でスペースと時間を支配するプレーは、今もJリーグ随一だろう。セレッソ戦では、左サイドで相手選手を釣り出し、入れ替わって持ち出してのスルーパスを見せている。ダイレクトパスを多用し、プレースピードに関しては川崎Fのチームメイトより少し速いものをイメージしている。

 セレッソ戦はひとつポジションを下げてパサーに回って好機を作り出していたが、大久保の怖さはゴール近くで仕留める、もしくはその直前のプレー。そこを託すなら3度目のW杯もない話ではない。

 そして途中出場した瞬間、ピッチの空気を一変させたのが齋藤学(28)だ。左サイドで幅を作って相手を引きつけると、中の大島や大久保がボールを動かせるようになり、巨大な渦となってセレッソを苦しめた。単純な突破力だけが彼の魅力ではない。連係で崩せるアドバンテージがあり、わずかな時間で可能性を示している。ケガからの復帰直後で新入団であることも考慮すると、これからどこまで調子が上がっていくか。

 この日は欠場したMF中村憲剛(37)も、川崎Fのプレーを司(つかさど)り、代表に入ってもおかしくはないだろう。風間監督時代ほどの輝きはないが、日本最高のボールプレーヤーのひとり。一本のパスで、ゴールを創り出す。トップ下としての創造性は、香川真司などと比べても遜色はない。

 一方、この日のセレッソ大阪のメンバーは、ローテーション起用の影響があり、水沼宏太などケガ人が出ているという事情もあった。ブロックを作って守りながら、攻守の切り替えの速さでカウンターを仕掛け、セットプレーを有効活用という戦い。結果的にチームとしては屈強さを見せ、敵地で粘り強く勝利したが、選手の個性は強くは出なかった。

 先発したなかで代表候補となると、山口蛍(27)、柿谷曜一朗(28)といったところか。山口はインターセプトに関しては、ぞっとさせるほどの鋭さがある。これでポジションを守れたら、世界トップレベルで戦えるボランチになるはずだが……。

 局面を優位に動かしたのは、後半途中に入った杉本健勇(25)だろう。ハリルホジッチのお気に入りでもあったが、長いボールを自分のものにし、攻め立てられる味方にひと息つかせている。試合をクローズするのが目的の起用で、その役割を十分果たしていた。尹晶煥(ユン・ジョンファン)監督の指揮下に入って、ゴール前での仕事への集中力が上がり、ストライカーの匂いがするようになった。

 同じく交代出場した清武弘嗣(28)は2カ月ぶりの復帰。トップ下としての能力は折り紙付きだ(セレッソでのスタートポジションはサイドMFであることが多い)。しかし、この日は故障明けで、完調には程遠かった。才能に疑いの余地はないが、代表の可能性はリカバリー次第だろうか。

 選手たちは連戦にも負けず、自らのプレーを出し尽くしている。果たしてどのような抜擢があるのか。今回の解任騒動や監督交代の是非は別にして、ワールドカップに向けて気運は間違いなく高まっている。

 試合後のミックスゾーンでは、いつも以上に両チームの選手同士が歓談する時間が長かった。