4月7日~8日、国内最高峰の4輪レース「スーパーGT」の2018シーズンが開幕した。レクサス(トヨタ)、日産、ホンダの「三つ巴」によるGT500クラスのバトルを制するのはどこか――。開幕戦の舞台となる岡山国際サーキットは、レース前から…

 4月7日~8日、国内最高峰の4輪レース「スーパーGT」の2018シーズンが開幕した。レクサス(トヨタ)、日産、ホンダの「三つ巴」によるGT500クラスのバトルを制するのはどこか――。開幕戦の舞台となる岡山国際サーキットは、レース前から大いに盛り上がった。



優勝したKEIHIN NSX-GT(右)と2位のRAYBRIG NSX-GT(左)

 シーズン前の公式テストでのタイムはいずれも拮抗し、今年も接戦が予想されていた。しかし、いざフタを開けてみると、予選でホンダ勢がライバルより頭ひとつ抜ける速さを見せつけた。そして決勝もナンバー17 のKEIHIN NSX-GT(塚越広大/小暮卓史)が制し、ナンバー100のRAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン)が2位。ホンダ勢がワンツーフィニッシュを決めたのである。

 1年前の2017年、この開幕戦でホンダ勢は大きな屈辱を味わった。参戦する5台全車に同じ電気系トラブルがほぼ同時に発生。スタート後の数周で次々とマシンがストップしてしまう悲劇に見舞われた。また2016年の開幕戦では、ホンダ勢5台全車が予選Q1敗退という苦い思い出もある。

 そんなここ数年の傾向から、「ホンダ勢は開幕戦に弱い」というレッテルが貼られ、今年もパドックの一部では「どうせホンダは今年も勝てないだろう」という声が聞こえていた。しかし、今年のホンダは王座を奪還すべく、車体・エンジンなど改良可能な部分を徹底的に見直してきたという。NSX-GTの車体・エンジン開発で指揮を執る佐伯昌浩GTプロジェクトリーダーは、開幕戦にかける思いをこのように語っていた。

「昨年までの課題を克服するため、車体は冬の期間にテストを徹底的に繰り返してきましたし、エンジンも開幕戦をターゲットに絞った仕様で作り込んできました。開幕戦やシリーズ終盤戦など比較的気温が低い時期は強さを発揮できると思います。その分、シーズン中盤の夏場のレースは苦しくなると思いますが、それも覚悟の上です。だから、この開幕戦は絶対に獲らなければならないんです」

 まさに背水の陣で臨んだ開幕戦。そのホンダを救ったのが、17号車のKEIHIN NSX-GTだった。予選では途中から雨が降り出す難しい路面コンディションとなったものの、塚越広大が渾身のタイムアタックを敢行。圧倒的な速さを見せつけ、チームに4年ぶりのポールポジションをもたらした。

 ただ、決勝では苦しい場面が待ち受けていた。序盤はライバルが背後から迫ってくる展開のなか、小暮が落ち着いた走りでトップを死守。レース中盤は昨年チャンピオンのKeePer TOM’S LC500(ナンバー1)に先行されるも、ピットストップでふたたび逆転する。レース後半も塚越がトップを守り、このまま無事にフェッカードフラッグを受けるかと思われた。

 ところが、残り10周を切ったときにハプニングが襲う。コース上で他車同士が接触した際、飛散した空力パーツが17号車のマシン先端に突き刺さったのだ。そのときの状況を、チームを率いるリアルレーシング代表の金石勝智監督はこう振り返る。

「『なんのパーツか?』と思いましたし、正直『またか』とも思いました。オレンジボール旗(※)が出ないかという心配もあり、後方に(2番手の100号車が)迫ってきていたので、気が抜けなかったです」

(※)オレンジボール旗=車両に機械的な欠陥(ボディ破損やオイル等の液体漏れなど)が発生し、このまま走行を続けると2次的アクシデントを引き起こす可能性がある場合、この旗が提示されてピットインせざるを得ず、欠陥箇所が修復されるまでコースに復帰できない。

 金石監督が「またか」と思ったのは、過去に何度も悔しい思いをしてきたからだ。リアルレーシングは2008年からスーパーGTにフル参戦している名門チームのひとつ。ただ近年は、あと一歩で勝利に届かないレースばかりが続いていた。

 昨年も不運なアクシデントやトラブルでリタイアすることが多く、特に第6戦の鈴鹿1000kmではレース中盤までトップを快走していたものの、残り25周でタイヤがバースト。優勝争いからの脱落を余儀なくされた。

 しかし今回は、「またか」の予感がうれしい方向に外れた。見た目は”カジキマグロ”のようになってしまったが、奇跡的にも刺さったパーツは脱落することもなく、17号車に大きなトラブルを引き起こすこともなかった。マシンフロント部分にはラジエーターなど重要なパーツがたくさんあるため、刺さった箇所が数センチずれていれば間違いなくリタイアに追い込まれていただろう。

 ドライバーの塚越を動揺させないために、チームはその状況をあえて伝えなかったという。塚越はそのときの状況をこう語る。

「正直、こういうふうになっていたとは知らなくて、チームからの無線もありませんでした。よけいな心配をかけないように、勝智さん(金石監督)が配慮してくれたんだと思います。やっぱり不安要素があるとドライビングにも影響が出ますし、あの状況は集中しなきゃいけない場面だったので、そこはドライバー経験のある勝智さんならではの配慮だったと思います。

(レース後にパーツが刺さったマシンを見たときについて)まさか、こんなことになっているとは思わなかったです。でも、クルマは生き物じゃないけど……(17号車は)僕たちの気持ちを一緒に運んで、最後まで耐えてくれたのかなと思います」

 最終的に17号車は2番手の100号車に1秒後方まで迫られるも、なんとかトップを守り切ってフィニッシュ。リアルレーシングは2010年の第5戦・スポーツランドSUGO以来、実に8年ぶりの優勝を飾った。

 レース後、金石監督は安堵の表情を浮かべながら開幕戦をこう振り返った。

「今シーズンはテストから調子がよかったので、逆にプレッシャーもありました。ずっと勝てそうで勝てないレースが続いていたので、ようやく勝つことができて(チーム全体が)ひとつレベルを上げることができたかなと感じています」

 リアルレーシングを長年支えてきた塚越も、ひさびさの勝利に募る思いがあふれた。

「僕自身10年目のスーパーGTでは、ずっとリアルレーシングで戦っています。2010年のSUGOから勝てず、自分自身にもう一歩足りない部分があったかと思うなか、ようやく優勝することができました。応援してくれていたみなさんに対して、恩返しできたなという思いがすごくありますね」

 2010年以来、8年ぶりのタイトル奪還に向けて、まずは幸先よいスタートを切ったホンダ勢。これから本格化していくシーズン中の激しい争いにも、十分に競り勝っていけそうな勢いを感じた。

「GT500でホンダは勝てない」

 そのイメージを払拭すべく、彼らの逆襲がいよいよ始まった。