勝てた試合だった。いや、勝たなければいけない試合だった。だが結果は、成長が見えた守備と、いまだ課題が解決されないままの攻撃力という構図のスコアレスドローだった。 女子ワールドカップ出場権がかかった女子アジアカップ第2戦は、集中的な強化…
勝てた試合だった。いや、勝たなければいけない試合だった。だが結果は、成長が見えた守備と、いまだ課題が解決されないままの攻撃力という構図のスコアレスドローだった。
女子ワールドカップ出場権がかかった女子アジアカップ第2戦は、集中的な強化合宿を経て日本戦に的を絞ってきた韓国との対戦。立ち上がりから韓国が猛攻に出るのは想定内のことで、それに耐えうる守備力が日本に備わっているのかが問題だった。
後半、コーナーキックからのチャンスを外し、頭を抱える菅澤優衣香
熊谷紗希(オリンピック・リヨン)と市瀬菜々(ベガルタ仙台)の両センターバックが最後に体を張り、ピンチを防ぐ場面もあったが、そこに至るまでには前線からプレス、中盤でのカバーリングが功を奏していた。決して余裕のある対応ではなかったが、裏を取らせることなく凌いでいた。
しかし、日本が攻撃に転じた際に手数が足りない。個の対応で破れるような韓国守備陣ではない。日本はどうしても最後のパスが通らず、シュートを打てないまま時間が過ぎていった。韓国のプレッシャーにビビったというより、先に点を失うことだけは何としても避けたいという想いが強く、なかなか前線に踏み出すことができないようにも見えた。
ただ、0-0で折り返すプランを持っていた選手たちにとって、これは折り込み済みのことだった。
攻撃の起点となるチ・ソヨンとマッチアップしたのは隅田凛(日テレ・ベレーザ)だ。ここ半年で急成長を見せるボランチだが、もちろんアジアタイトルのかかる大舞台は初めての経験となる。
前半はその苦悩が見て取れた。韓国の大黒柱であるチ・ソヨンを止めたい気持ちが先走る。飛び込みすぎて常に逆を取られ続けた。周りがサポートに入り、チ・ソヨンに人数をかけると、当然のながら、その先に潜んでいる韓国選手の足かせが外れる。劣勢から抜け出せない原因のひとつがチ・ソヨンへの対応だった。
試合前からチ・ソヨンを警戒していた隅田だったが、あまりに自由にされてしまった前半への反省から、後半にむけては冷静にある判断を導いた。
「飛び込まずに相手の動きを止めるポジショニングを取る」(隅田)。
これが徐々にハマりはじめ、チ・ソヨンは簡単に前を向けなくなった。次第に韓国選手の足が止まっていく。前半に日本が凌ぎ切った韓国の攻撃は、想像以上に韓国選手の体力を奪っていたようだ。全員が攻撃に視野を切り替えつつ、カウンターを十分にケアしながら、最後まで無失点に抑えることができたのは、守備が大崩壊したアルガルベカップの教訓が根付いたからだろう。
深刻なのは、いまだ克服できない攻撃面の課題だ。スコアレスで折り返し、韓国の足が止まった終盤にゴールを割る。ちゃんとプランはあった。4-1-4-1を敷く韓国相手に、厚みのある中ではなくサイドから崩す――。
しかし、前半にサイドをえぐられていたため、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)、鮫島彩(INAC神戸)の両サイドバックはおいそれと上がることができなかった。加えて中央にもスペースが生まれたことから攻撃がどんどん中寄りに偏っていく。それに応じて、固まっていく韓国守備。悪い傾向だった。
そんな中でも一番のビッグチャンスは課題のひとつであったセットプレーで訪れた。62分、川澄奈穂美(シアトル・レイン)の左CKに合わせたのは、後半から入った菅澤優衣香(浦和レッズ)。このチーム始まって以来のベストなタイミングといっていいほどの形だった。
「ミートしたので、自分でも来た! と思ったんですけど……」(菅澤)
無情にもボールはわずかにゴールを逸れていく。調子を上げてきていた菅澤だけに、ショックは大きい。セットプレーでの得点力があまりに低いこのチームにとって、突破口となる得点になったはずで、何より勝利を引き寄せる決定的なゴールにりそうな瞬間だっただけに、ショックは計り知れない。
それでも菅澤は懸命に顔を上げた。
「次は決めます、絶対に!」
その後も73分には、ケガで調整が遅れていた長谷川唯(日テレ・ベレーザ)が岩渕真奈(INAC神戸)からの縦パスをDF裏で受けてシュートを放つ。終了間際には右サイドでボールを受けた岩渕がDFを振り切って渾身のシュートを見舞う。チャンスはあったがゴールは遠かった。
負けはしなかったけれど、勝ち点1にとどまったことで、日本は首位から一気にグループリーグ敗退の危機に陥った。日韓戦のあとに行なわれたオーストラリアvsベトナム戦で、オーストラリアは戦力を落としながらも8-0で圧勝。これでグループBは大混戦となった。
日本は数字上は2位につけているものの、韓国の最終戦の相手はベトナム。よほどのことがない限り勝ち点3を得ることは確実だ。日本は最終戦で負ければそこでグループリーグ敗退、引き分ければ3チームが勝ち点5で並び、得失点差、総得点、当該チーム対戦成績など細かい数字勝負となる。ここへ来て、やはり初戦の4ゴールという数字が重くのしかかってきそうだ。
とはいえ、オーストラリアに勝ちさえすれば、逆転で首位通過の可能性も残されている。オーストラリアも負ければ3位転落となるため、韓国戦以上の激戦となることは間違いない。
ワールドカップ出場権は出場国8チーム中5枚。5、6位決定戦に回れば、グループAの3位との対決となる。グループBに強豪が集結していることを考えれば、おそらくグループBのどの国が回ってもワールドカップ出場権を手にすることは難しくないだろう。だが、それで日本はいいのか。
チーム内で面倒ごとは避けてきた傾向がある。それでも守備が崩壊したアルガルベカップでは、初めて選手主導のミーティングで熱い議論が交わされた。その結果、守備面は明らかに向上した。一方で攻撃面は多彩なタレントたちに任せてきた部分が大きいが、それももう限界に達しているのではないか。
守備陣がしたように、攻撃陣もそれぞれの意見をぶつけ合い、新たな可能性を見出す必要がある。攻撃陣が守備に貢献するように、失点を逃れながらゴールのために守備陣がリスクを負うことも重要。そのためには、全員のイメージ共有が徹底的にされていなければならない。少なくともオーストラリア、韓国は長期の強化合宿でそれをしてきている。中2日でその溝を埋めることは簡単ではないが、今、変わらなければ勝利への道はない。
最終戦を前にした現状を見れば、日本にとって楽天的な要素はない。守備陣には、より一層の集中力で完封を、攻撃陣にはそれぞれに意地の一発を期待する。