【福田正博 フォーメーション進化論】 急転直下の決断に驚かされた。 日本サッカー協会は4月9日にヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任し、後任を西野朗(あきら)氏に決めた。ロシアW杯本番まで約2カ月しかないタイミングでの監督交代は遅きに失…

【福田正博 フォーメーション進化論】

 急転直下の決断に驚かされた。

 日本サッカー協会は4月9日にヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任し、後任を西野朗(あきら)氏に決めた。ロシアW杯本番まで約2カ月しかないタイミングでの監督交代は遅きに失した感はあるが、監督の求心力がなくなり、チームがバラバラな状況に陥ったがゆえの苦渋の決断だったのだろう。



4月9日に会見を行なった日本サッカー協会の田嶋幸三会長

 現状においては、2016年3月から日本サッカー協会の技術委員長としてチームを見てきた西野氏の「代打、オレ」は最適だと思う。W杯までの時間は限られているものの、監督、選手、スタッフが一丸となって日本代表を立て直し、今できる万全の準備をして6月19日のW杯グループリーグ初戦に向かってもらいたい。

 ただ、こうした事態を招いた全責任が、ハリルホジッチ前監督だけにあるわけではない。日本サッカー界が、W杯ごとに「目先の結果」ばかりにとらわれてきた結果とも言っていいだろう。

 日本サッカー界が手に入れたいのは、「W杯での結果だけ」なのか、「日本人らしいスタイルで結果を残すこと」なのか。もちろん、理想は後者なのだが、強豪国ではない日本にとっては至難の業であるため、「結果」と「日本人らしいサッカー」の天秤は、W杯が終わるたびに左右に大きく揺れる。この一貫性の欠如が、今回の監督交代劇を生んだ遠因になっている。

 振り返れば、 ジーコ氏が”選手の個性を尊重したスタイル”で挑んだ2006年のドイツW杯はグループリーグ敗退。岡田武史氏のもと、”堅守速攻”で臨んだ2010年の南アフリカW杯は、決勝トーナメント進出を果たしたが「日本人らしいサッカーではない」という批判の声が上がった。

 そして前回ブラジルW杯ブラジル大会では、アルベルト・ザッケローニ氏がパスを細かくつなぐ”ポゼッションスタイル”を構築し、日本人のよさであるチームワークと規律を生かすサッカーが構築されたように思えた。

 しかし、W杯で結果が出なかったことで、日本サッカー協会は「時代の潮流は、ポゼッションではなく縦に速いスタイルにある」と判断。ブラジルW杯後はそのスタイルを得意とするハリルホジッチ前監督にチームを託したのだ。

 こうして4年ごとに大幅な軌道修正がなされるなかで、日本代表が世界の強豪国に追いつくための”本当の課題”が後回しにされてしまったと感じる。その課題とは、「試合終盤20分間でのガス欠」への対応だ。

 ドイツW杯では、初戦のオーストラリア戦で先制点を奪いながら、後半39分、44分、ロスタイム2分に立て続けにゴールを奪われて逆転負け。南アフリカW杯は本大会直前で自陣を固める堅守速攻に切り替えたことが奏功したが、ポゼッションサッカーで押し切ろうとしたブラジルW杯は、初戦のコートジボワール戦で先制点を守りきれずに後半に2失点。第3戦のコロンビア戦も、1-1の同点で迎えた終盤に3失点して1-4で敗れた。

 ドイツW杯後、ジーコ元監督は「日本人には身長が足りなかった」と分析し、それから12年後のハリルホジッチ前監督も「フィジカルが足りない」と常に嘆いていた。フィジカルの差が、試合終盤での体力の差に表れることは明らかだが、日本人の体格がわずか数年で世界基準に達するわけでもない。

 そのため、外国人監督を招聘する際には、「フィジカルのハンデを埋める対策を、フィジカル以外の部分で講じてくれること」を前提とすべきだ。その監督が日本での指導経験があれば少しはその点に理解があるかもしれないが、そうでない場合は、サッカー協会がオファーするときにしっかりと説明しなければいけない。日本代表の弱点を理解しないまま、試合を重ねていってしまうリスクが高くなるからだ。

 アジア予選レベルでは、フィジカルや体力の差が表れる場面が少ない。また、強化試合で対戦する強豪国は、試合終盤に圧力を弱める傾向があるうえに、交代枠も公式戦の3人ではなく6人まで設けられていることで、「終盤のガス欠問題」が露呈しづらい。

 過去にハンス・オフトやフィリップ・トルシエが日本代表を率いたときには、国内でプレーする選手が多数を占め、国内合宿を多く組むことができた。そのため、日本人選手を十分に理解して対策を練る時間があった。

 しかし、ジーコ体制に移った頃から海外でプレーする選手が増え、今では日本代表の主力選手のほとんどが欧州のクラブに所属しているため、代表選手が集まれるのは年間で数日しかない。

 Jリーグのあるクラブを指揮する外国人監督は、「日本人を理解するのに1年かかった」と話していた。毎日のように選手たちと顔を突き合わせても1年かかるのに、活動期間が制限される代表監督となればさらに時間が必要になる。これでは、代表監督就任まで日本に馴染みのなかった外国人監督が、日本人の国民性を含めて、日本サッカーの特徴をつかむのに時間がかかるのは当たり前のことである。

 つまり、日本代表の強化は4年周期では何も変わらないということだ。フォーメーションや戦術を変更しようとも、本質的な課題に取り組まない限りは日本サッカーの成長につながらない。

 日本代表のフィジカルの弱さとパワー不足、それにともなう体力消耗の問題はこれからもついて回る。しかし、フランス代表のように体格に恵まれて技術も高いチームが必ず勝つわけではないのがサッカーだ。だからこそ、日本サッカーが置かれている問題をきちんと把握し、日本人の特性を生かしたサッカーを構築できる監督が、日本サッカー界には必要だ。

 過去と現在の日本代表を比べたら、進歩していることは間違いない。しかし、世界の強豪国が日本代表以上のスピードで成長していれば、それは日本代表の後退を意味する。ブラジルW杯後の4年間、日本代表はまさにその状態だったように思える。

 西野朗監督のもとでロシアW杯に挑むことになった日本代表だが、どんな結果で大会を終えることになっても、チーム強化で結果を出してこられなかった事実をしっかり受け止めて新監督を決めてほしい。

 日本サッカー協会が提唱する「日本独自のサッカーを」の実現を第一に考えれば、多くの国に倣って4年というタームで監督を交代させることはない。10年以上ドイツ代表の指揮官の座にあるヨアヒム・レーヴ監督のような例もある。限られた時間のなかで、日本人のよさを伸ばし、足りない部分を補えるサッカーを構築できる監督に長いスパンでチームを託し、未来への希望が抱ける日本代表へと成長させてくれることを願っている。