ピエール・ガスリーが4位でチェッカードフラッグを受けた瞬間、トロロッソのガレージは張り詰めていた緊張が一気に解け、歓喜に包まれた。フェラーリとメルセデスAMGの2台に次ぐ殊勲。4位という結果は上位3台のリタイアによって得た期待以上のも…

 ピエール・ガスリーが4位でチェッカードフラッグを受けた瞬間、トロロッソのガレージは張り詰めていた緊張が一気に解け、歓喜に包まれた。フェラーリとメルセデスAMGの2台に次ぐ殊勲。4位という結果は上位3台のリタイアによって得た期待以上のものだったが、中団グループトップの座を守るどころか、後続に大きな差をつけて力強く掴み取ってみせた。



バーレーンの低速コーナーにトロロッソのマシンは合っていた

 開幕戦メルボルンでは予選・決勝ともにミスやトラブルで噛み合わず、入賞圏に届かないレースを強いられたが、実質的な実力では大きな差をつけられていたわけではない。それにしても、バーレーンで初日から中団トップを常に走り続けた飛躍の理由は何だったのだろうか。

 トロロッソは空力面のアップデートを持ち込んだが、これはバージボード(モノコック側面の整流板)とブレーキドラム(ホイール内側のカバー)で、「アップデート自体は小さなものでラップタイムにして0.05~0.1秒程度」だとガスリーは語る。基本的にはドラッグを低減し、空力効率を高めるものだという。

 メルボルンに比べて良好なパフォーマンスを発揮できたのは、コース特性がSTR13に合っていたというのも理由のひとつだった。

 バーレーン・インターナショナル・サーキットは高速コーナーが1箇所しかなく、ストレートを低速コーナーでつないだストップ&ゴーのサーキット。これが低速コーナーに強いSTR13に合っていた。

 低速コーナーが得意というのは、パワー不足でストレートが遅いことの裏返しのような表現として使われることもある。だが、STR13の場合はそうではないとブレンドン・ハートレイは説明する。

「僕らはテストでの手応えとGPSデータの分析で、ライバルと比べて低速コーナーからの立ち上がりでのトラクションが優れているという結果を得ているんだ。その反面、中速・高速コーナーでは少し負けているときもある。

 メルボルンでもウエットコンディションのFP-3(フリー走行3回目)でコンペティティブだったことも、僕たちのマシンの(メカニカル面の)強みを物語っていると思う。だから、低速コーナーが強みだというのはパワーユニットに関係したことではなくて、今の僕たちのマシン特性がそうだということだよ」

 しかし、金曜フリー走行で走り始めてみると、低速コーナーだけでなく中高速コーナーでもSTR13は良好な挙動を示した。メルボルンで苦しんだコーナリング中のマシンバランス変化やリアの不安定さが解消され、ドライバーたちが自信を持って攻めていけるクルマになったのだ。

「メルボルンでは、コーナーのエントリーからコーナーのなかでマシンバランスがかなり違っていたんだ。だからスタビリティ(安定性)が欠けたような感じで、エイペックスを過ぎた後からコーナー出口にかけてマシンバランスがよくない状態だった。

 でも、それが大きく改善できてマシンバランスがよくなったうえに、全体的なグリップレベルもよくなった。そして空力面のセットアップも改善できて、中高速コーナーの挙動もメルボルンのときと比べて格段によくなったんだ」(ガスリー)

 これはメカニカル面、つまりサスペンションセットアップの哲学を変えたからだ。バルセロナ合同テストで、さまざまなトライをしたなかで見つけていたアイデアだという。

 だが、半公道サーキットで通常のグランプリサーキットと大きく異なる特殊なメルボルンでは正確な評価が難しく、このトライが混乱を引き起こすことも十分に考えられたため、このバーレーンGPで初めて実戦投入されることになったのだ。

 トロロッソのテクニカルディレクターを務めるジェームス・キーはこう説明する。

「マシンセットアップに対して新しいフィロソフィを採用した。メカニカル的にマシンをどう扱うか、という考え方を変えたんだ。それが大きな後押しになったし、マシンパフォーマンスという点では非常に満足のいく週末になった。

 中高速コーナーはメルボルンではトリッキーだったけど、まだまだ改善の余地はあるとはいえ、今週末は中高速コーナーに対してもマシンバランスは良好になり、挙動もコンシステント(一貫性)になった。今回のセットアップ変更をメルボルンで施していれば、開幕戦でももう少しマシだったと思う」

 予選6位・決勝4位という結果ばかりが目立つが、実際にはトロロッソ以降の中団グループは接戦で、Q3進出組からQ1敗退組までが0.5秒差でひしめくような勢力図だ。

 そのなかで、アップデートやコース特性、そしてセットアップ変更によるコンマ数秒のゲインが、トロロッソの順位を大きく押し上げたのだ。

「各チームの各マシンには、それぞれいいところとよくないところがあり、特定のサーキットに合っているところもあるだろうし、中団グループは差がすごくタイトなだけに、そこでのコンマ1秒単位の違いで勢力図は簡単に入れ替わってしまうだろうね。短期的に見れば、中団グループのトップはレースごとに入れ替わってもおかしくないだろう。中団グループが非常にタイトなだけに、そこから抜け出せるかどうかは、ここからの開発競争がカギを握っている」(キー)

 一方でパワーユニットは、何も問題を抱えることなく週末を走り切った。

 開幕戦で起きたMGU-H(※)のトラブルはHRD Sakuraで完全に解明され、その対策を施したコンポーネントがきちんと機能したかたちだ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

「レース中も問題ありませんでしたし、レース中のデータも今細かく見ているところですが、基本的にまったく問題はなかったですね。メルボルンのトラブル自体はこれまでに起きたとの同じようなものですが、トラブルの主原因はこれまでにトラブルがなかった想定外のところにあり、(トラブルが起きる過程の)形態が異なるものでした。その破損原因の推定と特定を行なって、できるかぎりの対策を施したものを持ち込んできましたが、現状では今回持ち込んだ対策がうまく機能していると思っています」(田辺豊治テクニカルディレクター)

 トラブル自体は想定外とはいえ、実はホンダが開幕戦に向けてテストで使用したのは異なる新仕様のMGU-Hで、その開発を進めていたものが今回バーレーンに持ち込まれた。

 昨年は「ストレートで大幅にタイムロスしている」とパワー不足に不満をぶつけられたが、今年は空力効率のいいSTR13のおかげもあってストレートスピードでも他車に引けを取らず、レースのなかでもバトルができ、ハースやルノー、マクラーレンを抑えるどころか引き離す力強さを見せた。田辺テクニカルディレクターはこう語る。

「あっさりパスされるようなこともなく、レースランでのエネルギーマネージメントと燃費マネージメントをやりながら、きちんと後ろのライバルを抑えながら走ることができましたから、『非常によくできました』という感じですね。マシンパッケージが持っているパフォーマンスを最大限にレースでも引き出すことができたと思います」

 つまり、車体とパワーユニットとを合わせた”マシンパッケージ”全体で見て、パフォーマンスが最大化する最適解を弾き出したというわけだ。

 逆に言えば、車体性能だけを追求すればそれはいびつなものとなり、空気抵抗が増えてストレートを犠牲にすることになる。ホンダのパワーが依然として4番目であることに変わりはないが、ルノーに載せ換えたマクラーレンの最高速が伸びていないことを見れば、パワー不足だけが昨年の不振の原因ではなく、ライバルメーカーと勝負ができないほど大きな差があったわけではなかったことが改めて浮き彫りにされた。

 もちろん、パワーユニットはまだまだこれから大幅に開発を進めなければならない。車体についてもテクニカルディレクターのキーは「現段階では新セットアップも、さらなる熟成が必要」だといい、中高速コーナーの多い上海(第3戦)ではバーレーンよりも苦戦を予想している。

 また、STR13の開発ではホンダとの融合にリソースの大半を傾注したため、後回しにせざるを得なかった空力開発にもこれから力を注ぎ、中高速コーナーの速さを磨かなければならないだろう。



トロロッソのスタッフと抱き合って喜ぶピエール・ガスリー

 4位というのは、名門チームにとっては「本来のポジション」でしかない小さな成果に過ぎないのかもしれない。

 しかし、4位という結果にもチームスタッフ総出で飛び跳ね抱き合って、全身で喜びを表現するトロロッソのスタッフたちと、その輪に飛び込んで胴上げまでされる自身初ポイント獲得のドライバー、そして2015年に始まった第4期F1活動で最高位となる4位をようやく手にしたホンダ――。

 その様子を見ていて、ともに歩き出したばかりの彼らならば、喜びと目標を共有し、ともに手を取り合い、小さな成果から大きな未来へと歩んでいけるのではないかと感じられた。

「信じられない。信じられないくらい最高のレースだった! クルマも最高だったよ、みんなありがとう。僕らは戦える!」

 チェッカーを受けたガスリーが無線でチームスタッフ全員に伝えたその言葉が、すべてを言い表していた。

 今はまだ小さな一歩でも、一歩ずつ、一歩ずつ、彼らは大きな目標に向かってともに進んでいくだろう。