春の嵐のごとき強風に、何度もサンウルブズファンのため息が交じる。東京・秩父宮ラグビー場の観客数は9707人。今季の秩父宮開催ゲームで初めて1万人を割った。 もうちょっと……あと1本パスが通じれば、トライになるの…

 春の嵐のごとき強風に、何度もサンウルブズファンのため息が交じる。東京・秩父宮ラグビー場の観客数は9707人。今季の秩父宮開催ゲームで初めて1万人を割った。

 もうちょっと……あと1本パスが通じれば、トライになるのに。攻め込んでのそんな場面がわんさとあった。残り4分、交代出場のスクラムハーフ田中史朗の短いパスがインターセプトされ、一気に自陣ゴール前まで押し返された。

 4月7日、スーパーラグビーのサンウルブズは豪州代表を何人も擁したワラタスに29-50で敗れた。これで開幕6連敗となった。試合後の記者会見、主将の流大(ながれ・ゆたか)は悔しそうに漏らした。

「アタック自体は機能していました。でも、フィニッシュのところ、もうちょっとボールをキープできていれば、と。パスミスしたり、ボールを失ったり……。遂行力(の不足)というのは敗因のひとつだと思います」

 同情の余地はある。骨折のリーチ マイケルほか主軸にケガ人が相次いだこともあって、メンバーは固定されていない。コンディショニングの問題もあり、選手を休ませながらチームをつくらざるをえないのだ。



サンウルブズFW陣を引っ張る堀江翔太(左)

 だから、メンバーは試合ごと、大幅に入れ替わっている。おのずと微妙な連係プレー、コミュニケーションが難しくなろう。呼吸が合わない。日本代表キャップ(国別対抗出場数)「55」を誇るサンウルブズ初代主将のフッカー堀江翔太も、こう言った。

「アタックを続ければ、相手にもっとプレッシャーになったのかな。やっぱりメンバーがいろいろ変わっているなかで合わない部分がある。アタックでミスして相手にとられた」

 スーパーラグビーの記録をみると、プレー中に攻撃権を相手に渡すターンオーバーは「18」を数えた。相手はわずか「5」。ワラタスはタレントぞろいで、判断、スピード、基本技術は高く、鋭く切り返された。

 トライは7本、奪われた。とくに「ファースト20分勝負」(流)としていた時間帯に3本とられた。前半20分で7-24となった。これではチームはリズムに乗れない。

 ラグビーはリズム、テンポの競技である。課題のディフェンスにしても、基本線として一斉に前に出てはいるのだが、部分的に出すぎたり、下がりすぎたり、チームとしての一体感に欠けるのである。リズムがどうも悪い。

 これはキーになる選手の見極め、判断、周りの対応力に負うところが大きい。バラつくとスペースが生まれる。ここをラン、パスのスキルの高いワラタス選手に突かれた。

 しかも個々のタックルも時折、甘くなった。豪州代表の巨漢ウイング、195cm・123kgのナイヤラボロに何度も爆走を許したが、こういった選手も体を張って止めなければ勝機はなかろう。

 そもそも、サンウルブズは来年のラグビーW杯に向けた日本代表の強化のためにある。だから、参入3年目の今季は日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)が指揮を執る。『W杯ベスト8入り』を目指すジェイミーHCは「強化が必要なのはセットプレーと防御」と宣言していた。

 もちろん日本代表のベースとはいえ、サンウルブズと代表は似て非なるものである。でも勝敗はともかく、日本代表につながるチームの成長が求められるのである。

 2015年W杯での日本躍進の原動力となったのはセットプレーである。スクラムとラインアウトである。サンウルブズにあっても、とくにスクラムは武器のひとつとなっている。

 試合後、記者と選手が交わる薄暗いミックスゾーン。スクラム強国、ジョージア代表であるサンウルブズのフッカー、ジャバ・ブレグバゼが直立不動で興味深いことを言っていた。

「日本がここまでスクラムにこだわるのは知らなかった。驚いた。シンさんがすばらしい指導をしている」

 シンさんとは「スクラム命」の長谷川慎コーチのことである。スクラム練習では、まるで精密機器のごとく、足の位置から、手のバインディング、肩の入れ方、体の合わせ方、押すタイミングまで微に入り細を穿(うが)つ指導をしている。

 この日のスクラムはマイボールが7本で1本、相手に押された。相手ボールは11本で1本、サンウルブズが押し勝った。全体としては優勢だった。

 スクラムの見せ場は後半の中盤、敵陣ゴール前のスクラム合戦だった。相手ボールのスクラムを押し崩して、コラプシング(故意に崩す行為)の反則を誘発した。もう一丁、スクラム。またも反則をもらい、またまたスクラムを組んだ。でも、これは逆に押し込まれてボールを奪われた。

 駆け引きである。3本目のスクラムでは組み負けで、右プロップの具智元(グ・ジウォン)がやられてしまった。まだ若い。つぶれた右耳に真っ赤な血がへばりついた23歳が反省する。

「相手の1番がすごく隠してきて、すごく窮屈に感じて。2番の頭が自分の肩に当たってきて。受けながら組んでしまった」

 つまり、相手の1番が少し下がって、肩を2番にグイと入れて1、2番の頭のスペースを消したため、具は内側向きに無理に組まざるを得なかったのだろう。これでは後ろのロックの押しは前にはいかない。負ける。

 これも経験か。スクラムは組む前から戦いが始まっている。組み勝つか、組み負けるか。レフリングの解釈が変わり、組む前の見え見えの体重掛けは反則をとられるようにはなったが、それでも極力、重心を前のめりに移し、先に仕掛けようとする。

「駆け引きです」と32歳フッカーの堀江は説明する。「組む前の押す、押さない。そこが僕の中では一番、大切な駆け引きになってきます」

 日本の、サンウルブズのスクラムはひと言でいえば、「8人で固まってまっすぐ押すこと」である。メンバーを固定せずとも、マイスクラムをどうつくりあげるのか。スルメと一緒、スクラムは組めば組むほどうまくなる。

 もうひとつ、課題のラインアウトを見てみると、この日は15本中12本、成功した。成功率は80%。これまでの通算成功率がリーグ最下位の76・8%だった。本職のロックが戻ってきたとはいえ、強風が吹き荒れていたことを考えれば、ラインアウトの強いワラタス相手によくやったのではないか。

 これもリズム。スローワーの堀江は「もっと速いテンポで入れたかった」と言った。こちらもメンバーが固定していないので、短い期間の打ち合わせ、練習でタイミングを合わせなければいけない。

「そのぶん、はよ、セットして、はよ、やりたかった。まだ、2、3テンポ、遅い」

 チームとしての成長が試合では見えてこないが、メンバーが代わる分、選手全体の経験値としては上がっているだろう。若手にもチャンスが生まれている。23歳の姫野和樹、具智元、25歳の徳永祥尭(よしたか)は確実に成長している。25歳の流大、松島幸太朗も。

 また課題も明確になった。アタックの精度、個々のタックル、ディフェンスのシステム、組織防御、互いの連係である。

 ジェイミーHCは記者会見の際、3分ぐらいで質問が途切れると、「ありがとう」と日本語で言って帰ろうとした。冗談だった。席に座って続けた。いつもポジティブ。

「負けが込んでいる状態だけど、それが現実だと思う。きょう、選手たちは全身全霊でプレーした。タフなリーグ。非常に度胸、勇気がいることだと思う」

『勇気なくして栄光なし』をモットーとする堀江も前を向く。個性的な髪型。長くて黒いあごひげを左手でさわりながら笑った。

「いちいちへこんでいたらやっていられない。気にせず、前に進むのが大切ですよね」

 同感である。サンウルブズで日本代表を語るのはナンセンスだが、来年のW杯を山の頂としたら、山の麓あたりを登っているイメージか。濃い霧の中を。

 愚問ながら、つい堀江に聞いてしまった。いま、山のどのあたり? 

 「全然、わからないですよ。登っているとき、あと何mで山のてっぺんってわからないでしょ。僕らは必死で登り続けるしかない」

 サンウルブズは次の土曜日の14日、秩父宮ラグビー場でブルーズ(ニュージーランド)と対戦する。

 次こそ、モヤモヤした霧を晴らすような、スカッとした初勝利を。

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