来年に控えたワールドカップフランス大会の出場権と、女子アジアカップ2連覇を狙うなでしこジャパンの初戦は、格下のベトナムを相手に4-0で勝利をおさめる結果となった。ボランチのポジションで効果的な動きをしていた猶本光 開始直後のファースト…
来年に控えたワールドカップフランス大会の出場権と、女子アジアカップ2連覇を狙うなでしこジャパンの初戦は、格下のベトナムを相手に4-0で勝利をおさめる結果となった。
ボランチのポジションで効果的な動きをしていた猶本光
開始直後のファーストチャンスを決めた横山久美(フランクフルト)の先制弾を皮切りに、17分には岩渕真奈(INAC神戸)がライン際からゴール前へ折り返したボールに中島依美(INAC神戸)がしっかりと合わせた。後半には、横山のCKからのこぼれ球に対して猶本(なおもと)光(浦和レッズ)がダイレクトでシュート性のクロスを放ち、岩渕がコースを変えて決めた。最後は、ビルドアップしてきた鮫島彩(INAC神戸)のシュートが弾かれたところを田中美南(日テレ・ベレーザ)が詰めた。
しめて4ゴール。大会直前に行なわれたガーナ戦同様、それぞれ異なる形でのゴールだった。ただ、勝利にもかかわらず、試合終了後、表情を曇らせる選手たちがいた。
「初戦は難しい……」と語ったのは阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)だ。今や、ボランチの阪口の相棒は試合ごとに入れ替わる。この試合で組んだ猶本を優先的に生かす、いつものやり方で全体をサポートしていく阪口。それを受けた猶本は中盤で効果的な動きを見せていた。
「体の向き(入れ方)がわかってきたから怖くなくなった」(猶本)というプレーは、しぶとくプレスにくる相手をかわし、かねてから意識してきた球際の鋭さもしっかりと表現できていたが、阪口はその先の展開に納得できていない。つまりは決定機だ。
熊谷紗希(オリンピック・リヨン)も同様の感想を持つ。センターバックを組んだ市瀬菜々(ベガルタ仙台)とともに、一枚だけ残っていたベトナムFWをケアしながらカウンターを封じた。シュートは打たれたものの、最後まで得点を許すことなく完封したが、熊谷もまた晴れやかな表情とは言い難かった。
勝たなければならない初戦で、かつ時折6バックにもなる守備を固めたベトナムが相手。あえて自らが引き出されて、市瀬がカバーに入るという形も功を奏していた。その分、攻撃の起点となる機会も増えた一方で、チームはゴールを思うように重ねることができなかった。
完全にゲームを掌握していた日本は、多くのセットプレーのチャンスも得ていた。CKに至っては13本を数えた。このチームが今欲しい最強アイテムのひとつがセットプレーでの得点だ。合わせる選手のポジショニング、入り込み方、蹴り手の球種、スピード……あらゆる組み合わせを試していたが、そのどれも実を結ぶことはなかった。想像以上の苦戦といっていい。ここは早急に合わせていかなければならない課題となった。
また、自身のゴールを含む全得点に絡む活躍を見せた岩渕も笑顔は少なかった。「4ゴール……少ないです。圧倒的に勝利しなければいけない相手にコンビネーションプレーが少なかった」と声を落とす。
何とかゴールをという岩渕の意気込みは伝わってきた。前半終盤、右サイドでボールを持った岩渕は一気にドリブルで1枚、2枚とかわしてシュートコースを探る。しかし、ベトナムもしぶとく1枚はがされてもまた次の1枚と、しっかりマークにつく。
「シュートを打ちたい!でもコースがない。あとは(相手が)引っかけてくれてもいい」(岩渕)と、ゴール前でピッチを横断する形になった。「ボールを呼ぶ声も聞こえていたけど、スピードが上がり過ぎていて出せなかった。なんとしてもゴールを狙いたかった」と振り返った。
ピッチ環境も万全ではなかった。最初の違和感は、それぞれのファーストタッチのブレだった。次に中途半端なパススピードが目につき始め、首を傾げた。それらは芝の長さに影響されていたようで、試合前々日に行なわれた公式練習から芝はカットされていたが、均等ではなかった。猶本も「うねっていて、FKのときもボールが浮いていた」と言う。
十分な散水もあったため、日本に有利なピッチかと思いきや、そうでもなかったようだ。加えて湿度25%という数字は尋常でない喉の渇きに直結する。砂埃を含んだ空気が選手たちを苦しめ、頻繁に給水ボトルに手を伸ばしていた。
厳しい環境下で初戦を完封勝利したにもかかわらず、選手たちが手放しで喜べないのは決勝トーナメント進出、およびワールドカップ出場権に得失点差が直結してくる可能性が十分にあるからだ。
日本はオーストラリア、韓国と同じグループB。上位2チームの枠を3強で争う形になっている。星を分け合った場合、対ベトナム戦でどれだけゴール数を稼げたかが、明暗を分けることもありえる。「4」という数字をどう捉えるか。選手たちの表情の違いは、その考え方の違いだった。
何か後ろ髪を引かれるような感覚が残る奇妙な初戦となったが、何はともあれ、唯一勝ち点3を取った日本が首位に立った。この試合の後に行なわれたオーストラリアvs韓国戦がスコアレスドローとなったためで、次の韓国戦で日本が勝利すれば、ワールドカップ出場権は獲得できる。
もちろん、後がない韓国も日本から勝利をもぎ取るために捨て身で臨んでくるはずだ。フィジカルと粘りで1対1の局面でも一切引くことなく、オーストラリアの猛攻をねじ伏せた韓国守備陣。日本は全員で連係を生み出し、韓国守備網に風穴を開けたい。
目標はあくまでも大会連覇。高倉麻子監督のもとで積み重ねた2年を証明するためにも、この23人で獲るタイトルに意義がある。