今週末のバーレーンGPにて、F1直下のカテゴリーFIA F2も2018年シーズンが開幕する。日本からは、GP3からステップアップの福住仁嶺(ふくずみ・にれい)と、ユーロF3からステップアップの牧野任祐(まきの・ただすけ)のふたりが参戦…

 今週末のバーレーンGPにて、F1直下のカテゴリーFIA F2も2018年シーズンが開幕する。日本からは、GP3からステップアップの福住仁嶺(ふくずみ・にれい)と、ユーロF3からステップアップの牧野任祐(まきの・ただすけ)のふたりが参戦。彼らが今季目指しているのは、このFIA F2で活躍し、F1昇格に必要とされるスーパーライセンスを獲得することだ。



福住仁嶺は徳島県出身、1997年1月生まれの21歳

 開幕を前に、3月にはポール・リカール(フランス)とバーレーンでそれぞれ3日間のテストが行なわれた。だが、FIA F2が新車を導入したこともあって各チームの準備状況には差があり、はっきりとした勢力図は見えてきていない。

「クルマは去年のF2とは全然違って、走っていて重たい感じがします。走っていて乗り心地は悪くないし、コーナーも去年と比べて遅いわけではないんですけど、動きがダラッとしている感じがあるんです。予選シミュレーションでも去年のクルマより2~3秒遅かったし。エンジントラブルが出たせいか、気温が高かったせいか、バーレーンではストレートがとにかく遅いんです。走っていて『GP3に乗ってるのか』と思うくらいパワー感がありませんでしたから」(福住)

「クルマが重たくなって、キビキビしていなくて、去年のクルマのほうが動きが軽快だったし、走っていて楽しいのは去年のクルマでしたね。ポール・リカールでトラブルが出たことと、ここが暑いこともあってかエンジンのパワーを抑えているみたいで、去年のアブダビでF2に乗ったときのような『おおっ!』っていう感覚がないんです。加速のトルク感もないし、ターボラグも大きい。F3とは全然違うクルマです」(牧野)

 日本のスーパーフォーミュラ(SF)にも参戦する福住は、それぞれのクルマに対する適応力も問われることになる。両者ではかなり特性が異なると、福住は語る。

「SFとは全然違います。F2はブレーキをギリギリまで我慢してしっかり止めて、なるべくコーナリングしないですぐに向きを変えて、出口でいかにうまく加速していくかという走らせ方。SFはブレーキングの踏力が弱くて、高いボトムスピードをキープして曲がっていく走らせ方。

 8~9月には4週間連続で『SF→F2→F2→SF』というのもあるし、そこをアジャストするのは難しそうだなという感じはします。F2はフリー走行が45分しかないし、予選はいきなりオプションタイヤでアタックなので、SFで走ってから臨んでいる今週末も少し不安はあります」

 福住のチームはレッドブルのクリスチャン・ホーナーが共同オーナーを務めているとはいえ、ここ数年は低迷が続いていたアーデン・インターナショナル(イギリス)、そして牧野のチームは昨年のチーム王座を獲得したとはいえ、政治的な理由で参戦決定が2月までずれ込んでしまったロシアンタイム(ロシア)と、それぞれに不安を抱えながらのシーズンインだった。開幕前テストではメカクローム製の新型ターボエンジンにトラブルが多発し、必ずしも順調とはいえなかった。

「バーレーン最終日の午前中にみんながニュータイヤを入れてタイム比較ができる重要なタイミングで、僕はギアボックストラブルが出てしまって走れなかったんです。そこが見えていない不安は、まだちょっとあります」(福住)

 一方の牧野はマクラーレンの今井弘エンジニアを訪ね、熱心にタイヤの使い方についてアドバイスを受けて、そのビハインドを取り戻そうと努力していた。

「正直言うとテストでは十分に走り込めていないので、準備万端かと言われると、まだ50%くらいしか準備できていないような感覚です。ウチはトラブルが多くてレースランができていないんです。だから今井さんの手を借りて、少しでもよくなればと……」

 しかし、懸念されていたエンジニア能力やチーム体制は、思いのほかよさそうだった。

「参戦決定が遅れたのでエンジニアが離脱するかもという話も聞いていたんですけど、フタを開けてみたら全員そのまま残ってくれたので、チームの中身は去年チームタイトルを獲ったときと何も変わっていないし、体制的な不安はありません」(牧野)



牧野任祐は大阪府出身、1997年6月生まれの20歳

 アーデンもタイヤマネージメントに定評あるDAMS(フランス)からエンジニアを引き抜くなど、チーム力の強化に努めている。福住はエンジニアと激しい言い合いもしながら、お互いの仕事の進め方や感覚をすり合わせようという努力もしている。

「F2もSFも、クルマを作り上げるのがもっとも重要だと思います。ドライバーの腕でカバーできる部分もあるけど、クルマでそれ以上の差がついてしまうと、どうすることもできませんから」

 アーデンにも上位を戦える力があると、福住は見ている。

「上位はART、プレマ、カーリンあたりじゃないですか。この前のテストの感触では、アーデンは表彰台を争えるくらい前のほうにいると思います。レースペースも悪くないし、バーレーンのテストでは一発も悪くなかったですから。ただ、全然タイム差がないので、本当のところはまだわかりませんね。フタを開けてみたら、『どうしてそんなタイムが?』っていうようなチームが出てくるかもしれない」

 その見解は牧野も同じだ。テストでは燃料を軽くして実力をフルに出し切ったチームはいない。

「テストではまだみんな”三味線”を弾きまくっていると思うし、僕らもかなり燃料を積んで走っていたし、開幕してみないと本当の勢力図はわからないと思います。だから今週末の開幕戦が楽しみですね」

 F1昇格について現実的な話をすれば、ホンダはトロロッソにパワーユニットを供給し、強力なタッグを組んでいる。ホンダが希望するドライバーをトロロッソに推薦することも可能で、トロロッソとそのオーナーであるレッドブル側にもそれを受け容れる用意がある。

 すでにお膳立ては整っているのだ。ふたりの成績次第では、今季中にもF1のテストドライブやFP-1(練習走行)出走というチャンスも十分に視野に入ってくる。

 そのためにも、ふたりともに来季のF1昇格を目指してスーパーライセンスの取得が目標となる。

 過去2年間GP3で戦績を重ねてきた福住は、今年FIA F2でランキング4位以内に入れば、その取得基準を満たすことができる。F2ランキング5位ならSFで8位以上、F2ランキング6位ならSFで2位以上が条件になる。

「スーパーライセンスがなければここから上(F1)には行けないので、もちろん目標はそこです。テストの感触が続けば、それは可能だという手応えはあります。こういう看板(レッドブル)を背負って走ることになったので、これまで以上にいい成績を収めなければいけないというプレッシャーはすごく感じていますが、具体的な目標としてはポールポジション獲得と第1レースで勝つことです」

 昨年ユーロF3に参戦するも、開幕前のテストでモノコックにダメージを負ってつまずき、途中負傷欠場もあった牧野は、今季FIA F2でランキング3位以内に入ることがスーパーライセンス取得の条件になる。

「目標はランキング3位以内に入ってスーパーライセンスを取ることです。でも、競争の激しいFIA F2なのでそんな簡単ではないこともわかっていますし、まずは目の前の開幕戦をきちんと戦って、いい流れを作ることが大事だと思っています。それ(F1に関する話)は結果を出せば自然とついてくることだと思うので、まずはこっち(FIA F2)に集中して戦って結果を出していきたいと思っています」

 F1と同じレース週末に同じサーキットで開催され、常に激しいバトルが繰り広げられるFIA F2で、ふたりの日本人ドライバーがどのような走りを見せてくれるのか。F1昇格を目指して戦う彼らの姿にも注目してもらいたい。