千代勝正インタビュー@後編 いよいよ開幕する2018年のスーパーGTシリーズで、注目したい男がいる。GT500クラスで日産を代表するドライバーのひとり、CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(ナンバー3)を駆る千代勝正(ちよ・かつ…

千代勝正インタビュー@後編

 いよいよ開幕する2018年のスーパーGTシリーズで、注目したい男がいる。GT500クラスで日産を代表するドライバーのひとり、CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(ナンバー3)を駆る千代勝正(ちよ・かつまさ)だ。その男のレース人生は試練の連続だったが、それを何度も乗り越えてきた。多くの経験を重ね、円熟味を増した31歳は今シーズン、国内最高峰クラスでどんな走りを見せるのか――。

「千代勝正インタビュー@前編」はこちら>>>


千代勝正は今年、スーパーGTとスーパーフォーミュラの

「二足のわらじ」に挑戦する

「このまま順調にいくのかなと思ったら、2年目に『ワークスチームのシートはありません』と言われて……。正直、『またか』と思いました」

 2012シーズンのオフ、突如言われた宣告に、千代勝正は愕然としたという。

「結果、2013年はプライベーターのチームで戦いました。そして2014年は日産が海外に力を入れ始めていた時期と重なり、ブランパン耐久シリーズに参戦することになったのです」

 海外での武者修行を言い渡された千代は、当時このような気持ちを抱えていた。

「僕はずっとGT500に乗りたかったので、自分の思うように物事が運ばなくて悔しい思いでした。同世代のドライバーたちがGT500で活躍しているなか、自分だけがまったく経験のない海外レースに挑戦するのは勇気がいりました。でも、誰もやっていないことをやるわけだから、それを経験することが自分の強みになると気持ちを切り替えたんです。海外でやるからには、そこで認められて結果を残してやろうと」

 自分の実力を認めてもらえない悔しさを力に変え、千代は地道に努力を重ねた。その成果が2015年、一気に花開くことになる。

 まずはシーズン初め、オーストラリアで行なわれたバサースト12時間レースで総合優勝を果たす。続いてブランパン耐久シリーズでもシリーズチャンピオンを手にした。さらに多忙なスケジュールの合間をぬってGAINERからスーパーGT300クラスにも参戦し、2勝を挙げてチームチャンピオン獲得に貢献。これらの活躍によって2016シーズン、千代は目標としていたGT500クラスのシートを掴み取った。

 そして迎えたGT500のデビュー戦、岡山国際サーキット。千代はこれまで培ってきた経験を存分に活かす走りを見せた。予選Q1で当時のコースレコードを更新すると、決勝でも相方の本山哲から4番手でバトンを受け取るやいなや3番手に順位を上げ、さらに2番手を走る平川亮を猛追。勢いあまって何度かコースからはみ出すシーンもあったが、それでも千代はアクセルを緩めることなく、平川に食らいついていった。

 わずかな隙さえあれば躊躇(ちゅうちょ)せずに並びかけ、毎ラップにわたって手に汗握るバトルを展開する。気がつくと、サーキットに集まった観衆のほとんどが千代の走りに釘付けとなっていた。最終的には逆転叶わず3位でフィニッシュ。しかし、取材に訪れていた報道陣は優勝した松田次生/ロニー・クインタレッリ組ではなく、まず先に千代のコメントをもらおうと彼のもとに集まっていた。

「F3のときも、スーパーGTにステップアップしたときも、自分のドライビングには自信があったので、『自分の速さを証明したい』とずっと思っていました。でも、周りの評価と自分が思う(自分自身の)ポテンシャルという部分に差があって、それが歯がゆかったです。

 モータースポーツはクルマというモノを使う競技なので、外から(結果だけを)観ている人にはわかりづらいところがあると思います。ただ、GT500というのは言い訳のできないプロのカテゴリー。自分がどんなに速いと思っていても、周りが認めてくれないと評価されない世界です。だから、やっぱり自分もタイムで証明しなきゃいけないという思いで(2016年の開幕戦は)走りました。2016年の開幕戦は、『これまでの経験が無駄じゃなかったんだ』と思えたレースでしたね」

 続く第2戦の富士スピードウェイでも、千代は予選Q1でコースレコードを塗り替える速さでトップタイムをマーク。決勝はレース展開に恵まれず表彰台を逃したが、その走りを見た関係者は、「千代の初優勝は時間の問題」と誰もが思っていた。

 しかし、その後は第5戦・富士でクラッシュしてケガを負うなど、なかなか歯車が噛み合わないレースが続く。2016年はそのまま未勝利に終わり、2017年も第4戦・SUGOでは2位表彰台に立ったものの、いまだGT500での初勝利はお預けのままだ。

 そして迎える2018シーズン。スーパーGTでは引き続き本山哲と組んで参戦するが、チームが昨年までのMOLAからNDDP RACING with B-MAXに変更となった。GT500初参戦の若いチームだが、オフのテストからひとつひとつ作業を確認しながら、着実に準備を進めているという。

 GT500参戦3年目となる千代は、今シーズンへの意気込みをこう語る。

「本山選手と組んで今年で3年目。ここで結果を出さなければいけないなと思っています。スーパーGTで『優勝する』『チャンピオンを獲得する』というのが長年の目標なので、そこは何としても達成したいですね」

 さらに千代は今シーズン、全日本スーパーフォーミュラ選手権にも挑戦することになった。所属チームはB-Max Racing Team。ベースはスーパーGTと同じチームで、こちらは本山が監督を務めて千代のレースをサポートする。

「自分はトップフォーミュラには縁がないと思っていました。ずっとGTレースの路線で来ていましたし、自分のキャリアのなかでスーパーフォーミュラに乗る機会はないだろうと。それが今回、突然チャンスをいただいて、チームと本山監督が自分を選んでくれたことをすごく光栄に思っています。

 5~6年前、自分でスポンサーを集めて何としても(フォーミュラに)乗りたいと思っていた時期は、どんなにあがいてもチャンスを得られなかった。それが今回、突然チャンスが舞い降りてきた。最初は戸惑いましたが、もう一度気持ちを奮い立たせてがんばりたいと思いました。ここでもいい仕事をして、自分の実力を証明したいですね」

 あくなきチャレンジ精神で「己の速さ」を追い求める千代勝正の2018年は、忙しいシーズンになりそうだ。