4月4日の日本選手権水泳競技大会で、会場を大きく沸かせたのは、女子100mバタフライに出場した池江璃花子(ルネサンス亀戸)だった。本命のバタフライ100mでしっかりと結果を残した池江璃花子(中央) 池江は今年1月の東京都新春水泳競技大…

 4月4日の日本選手権水泳競技大会で、会場を大きく沸かせたのは、女子100mバタフライに出場した池江璃花子(ルネサンス亀戸)だった。



本命のバタフライ100mでしっかりと結果を残した池江璃花子(中央)

 池江は今年1月の東京都新春水泳競技大会(短水路)で、出場した100m、200m自由形と50mバタフライ、200m個人メドレーの全種目で短水路日本記録をマークしている。

 さらに2月の長水路(50mプール)のコナミオープンでは、200m自由形と50mバタフライで日本記録を更新。冬場の高地合宿や、オーストラリアでの武者修行などを経て、その成果を遺憾なく発揮した。そして迎えた日本選手権では、前回の5冠達成から200m自由形を回避して、自由形とバタフライの50mと100mの4種目に絞って記録を狙った。

 その狙いは見事的中。大会初日に行なわれた100mバタフライの準決勝で早くも結果を出す。2016年リオデジャネイロ五輪で6位になった時に出した日本記録の56秒86を、0秒28更新する56秒58を出したのだ。

「56秒4くらいを目指していたので悔しい気持ちもありましたが、0秒3近いベストの更新は大きいと思う。26秒44という前半のタイムは世界でも戦えるタイムだと思うし、楽にいって前半のタイムが上がっているのは力がついたということ。後半の粘りもついているのでトータルで力が上がっていると思う」

 こう話す池江は「今考えたら準決勝は決勝並みに緊張していたので、決勝でもタイムを上げられると思う」と自信に満ち溢れた笑顔を見せていた。

 その言葉の通り、4日の決勝では前半を準決勝よりも速いタイムで折り返す。

「前半をそんなに(速く)いったつもりはなかったのに、後半はすごくバテたので、もしかしたら遅いかもしれないと思った」と感じながらも、後半も泳ぎを崩すことなく後続との差をどんどん広げ、前日塗り替えた日本記録をさらに0秒20更新する56秒38でゴールした。この記録は16年のリオ五輪では2位に相当するものであり、ハイレベルだった昨年の世界選手権では、3位に100分の1秒まで迫る記録だ。

 池江は「去年の世界選手権ならメダルは獲れなかったということですね」と、苦笑するが、世界レベルを証明する記録だった。

 昨年の日本選手権で56秒89を出していた池江は、7月の世界選手権では50mバタフライとともに、メダルを期待されていた。だが、最初に行なわれた100mでは準決勝を4位で通過しながらも、決勝では6位。池江はレースをこう振り返った。

「自分のバタフライの持ち味が後半の泳ぎなので、前半は自分のペースでいって後半を上げていこうというプランでしたが、なかなかうまく上がってこなかった」

 そして、その雪辱を果たすべく臨んだ50mでは予選を3位で通過をしながらも、準決勝では大きくタイムを落として13位と、決勝にすら残れずに終わった。池江は世界選手権後にこう話していた。

「リオ(五輪)は12レースに出ましたが、今回はそれより1レース多い試合でした。タフな大会だったかとも聞かれるけど、実際はそうでもなかったのではないかと思っていて……。

 例えば、すべての種目で決勝に残るとか、自己ベストを出すとかいうレースをたくさんすればタフだと言えるし、達成感もすごく残ると思う。タフなレースをこなしていても記録をどんどん伸ばして複数の種目で優勝できるサラ・ショーストレム選手(スウェーデン)のような、本当にタフで強い選手を見習って頑張りたいと思います」

 世界の舞台で、「来年は同じ思いをしたくない」という気持ちが生まれたからこそ、苦手意識のあった高地合宿や筋力アップなどに取り組んだ。その成果が今年、これまでより大きな泳ぎとなって現れた。準決勝も決勝も、前半からの力みのない大きな泳ぎは、終盤まで変わらなくなっている。

「元々キックに苦手意識はありますが、バタフライはきつくなると足を打たないと進まないので、とにかくきつくなったら足を打つという意識でやっている。そういう努力もタイムを上げていると思うし、得意ではなかった長い距離の練習も楽しくやれるようになったことが、後半の泳ぎにも出ていると感じています。

 それに、前半の泳ぎも今までは自分の50mのベストから1秒半とか2秒近く遅れるタイムで入ることが多かったんですが、男子のバタフライの選手に聞いたらベストのプラス0秒5で入っていると言われたので、自分もそのくらいでいかなければいけないんだと思うようになり、ここまで強化できたのかなと思います」

 池江の100mバタフライの前半のラップを見れば、56秒86で6位だったリオ五輪は26秒81で入っていて、昨年の世界選手権準決勝を56秒89で泳いだ時は26秒77だった。

 それが今大会では、予選で26秒73、準決勝は26秒44、決勝は26秒12と、どんどんタイムを上げている。これは25秒台中盤で入る世界記録保持者のショーストレムを別格とすれば、他の選手とは互角以上のタイム。これまであった心の壁を取り払ったことで、しっかり戦える準備ができてきた証拠だろう。

 残すは、その泳ぎを世界の舞台で再現することだけだ。今年は、オリンピックも世界選手権もないが、昨年の世界選手権を56秒18で2位になっているエマ・マキオン(オーストラリア)や56秒37で3位のケルシー・ウォレル(アメリカ)とは、8月のパンパシフィック選手権で対戦でき、その後はアジア大会も控えている。

 池江も「記録が出たと言っても日本の試合だから何とも言えない。これ以上の記録をパンパシやアジア大会で出したいし、ここで絶対に終わりにしたくないと思います。そのためには練習を怠(おこた)らずやること。それを乗り越えたからこそ身につく自信もあると思うので、その自信を持ってレースに臨むことがすごく大事だと思います」と気を引き締める。

 これまで日本がなかなか世界で通用しなかったパワー系種目の短距離で、池江がどこまで風穴をあけてくれるか、期待はさらに高まってきた。

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