勝負の世界は残酷だ。「初戦(アウェーの全北現代戦)で2点先制しながら、3失点で落としてしまった。そういうことが起こりえるのがアジアの頂点を目指す大会で、簡単に勝たせてくれない。(天津権建、傑志戦も)終盤にゲームを動かせる選手がいるなと…
勝負の世界は残酷だ。
「初戦(アウェーの全北現代戦)で2点先制しながら、3失点で落としてしまった。そういうことが起こりえるのがアジアの頂点を目指す大会で、簡単に勝たせてくれない。(天津権建、傑志戦も)終盤にゲームを動かせる選手がいるなというのを、身をもって感じました」
試合後の記者会見で、柏レイソルの下平隆宏監督はそう言って肩を落とした。
アジアチャンピオンズリーグ(ACL)第5節、柏は全北現代に0-2と力負けし、勝ち点4のまま1試合を残してグループリーグ敗退が決まった。
柏から世界へ――その志はまだ道半ばだ。
全北現代に0-2で敗れ、肩を落とす柏レイソルの選手たち
4月4日、日立柏サッカー場。勝利が生き残る条件の柏は、韓国王者である全北を迎えて、悪くない立ち上がりを見せている。
10番を背負った江坂任が前線のプレーメーカーとして、攻撃の渦を創り出す。右サイドをコンビネーションで崩し、クリスティアーノに際どいクロスを合わせ、バックラインからのボールを引き出し、起点にもなった。
しかし、全北はこの攻撃に屈しなかった。
「チームが先制点を奪われた試合は苦しくなった。今日は先制されない準備をしてきた」(全北・GKソン・ボングン)
この日のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた守護神、ソン・ボングンは安定したセービングを見せ、これが反撃の狼煙(のろし)となる。
「(全北は)ターゲットになるキム・シヌク(身長198cm)を使い、高さ勝負をしてきた。行っても厳しいし、行かなければ(ボールが)収まってしまう。やり方としてはシンプルなんですが、相手はそれに慣れていて……」(柏・MF大谷秀和)
全北はロングボールをキム・シヌクに当て、セカンドボールを拾い、両ワイドからスピードある選手が飛び込む。これで柏のバックラインを下げることに成功、ペースを奪う。
前半16分だった。イ・スンギが迫力のあるドリブルで右サイドを突破し、柏がバックラインを下げた瞬間、その前に入ったリカルド・ロペスにパスが通る。ロペスは小池龍太のタックルを退け、バックラインを抜け出てGKと1対1になり、一度は左ポストにシュートを当てるも、跳ね返りを押し込んだ。
「柏ならではのサッカーをさせないようにしました。ポゼッションでは負けても、中盤の守備をはっきりし、セカンドをしつこく拾う、という作戦が当たりました」(全北・チェ・ガンヒ監督)
柏は全北のプレー強度の高さにたじろぎ、後手を踏むことになった。
しかし、その後は再びイニシアチブを握っている。圧倒的なボール支配率で、ゴール前まで迫る。伊東純也のスピードに乗ったドリブルから、江坂が決定的なヘディングシュートを放つなど、決定機も作った。
その流れは後半も変わらない。全北のファウルを誘発。相手の焦りが伝わってくる。伊東の縦へ抜けるスピードを武器にカウンターでも脅かすなど、もうひと息で仕留められるところまではきた。
しかし77分、キム・シヌクと交代で入ったイ・ドングッに左足で蹴り込まれ、追加点を奪われてしまう。
「前半もうまくチャンスは作れていたし、後半も自分たちのペースだった。でも、ワンチャンスを相手に決められてしまって……」(柏・FW伊東純也)
左CKからの崩れで、柏はゾーンで守っていたが、最終ラインがフラットに並んでしまい、エリア内でイ・ドングッに自由を与えている。守りの形はできていたが、それに固執して対応が遅れた。匂いを感じて動く38歳の老獪なストライカーを相手に無力だった。
結局、この2点目がとどめになっている。
柏がACLで敗退した理由をひとつだけ挙げるのは難しい。あえて言えば、わずかに攻守の強度や精度が足りないのだろう。
例えば、セットプレーの守りはゾーンの形式にこだわりすぎ、人に対して甘かった。単純な高さに対する劣勢もあったかもしれない。攻撃も、大谷がひとつ下がることにより、ビルドアップは格段によくなったが、そのときにセンターバックがひとつ持ち上がって有効な攻撃にすることはできなかった。また、勝ち上がるチームにはポイントゲッターがいるが、決定力で劣った。ディテールはいくらでもあるだろう。
しかし、全北の指揮官が「柏らしさを消した」という戦略を掲げたのは、少なくとも柏にはスタイルがあるということだろう。中山雄太のように、どのポジションも高いレベルでこなせる選手が最適なポジションを見つけられたら、自然とプレーの質は上がる。そのプロセスで、相手を叩き潰すような剛直さを身につけられるか――。
「力不足です。また一からですね」
国内ではあらゆるタイトルを勝ち取った主将・大谷の最後のひと言は潔く、今後に対する決意にも聞こえた。