現代ラグビーには、フェッチャーという専門用語がある。意味は、ボールを奪って来る人。オープンサイドFLをプレーする選手など、接点上で相手の球へと絡む職人にその称号が与えられる。 6月の日本代表スコッドにおけるフェッチャー候補の1人は、山本浩…

 現代ラグビーには、フェッチャーという専門用語がある。意味は、ボールを奪って来る人。オープンサイドFLをプレーする選手など、接点上で相手の球へと絡む職人にその称号が与えられる。

 6月の日本代表スコッドにおけるフェッチャー候補の1人は、山本浩輝だろう。

 筑波大を卒業した昨季は、国内最高峰トップリーグの東芝入り。強力FWを看板とするクラブで、シーズン終盤から出番をつかんだ。身長187センチ、体重95キロの23歳。地上戦で渋く光る。

 若手主体で全勝優勝を決めたアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)で、テストマッチ(国際間の真剣勝負)デビューを飾った。4月30日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場での韓国代表戦。ブラインドサイドFLとして背番号6をつけた。

 背番号7の安藤泰洋、背番号8のテビタ・タタフとともに、激しさを貫いた。背筋を伸ばし、密集へ長い腕をねじ込む。そんなオンリーワンに近いスキルで魅せた。

「相手のサポートが遅いところは、(ボール奪取を)狙えるチャンスかな、と」

 85-0で勝ち、「自分たちの狙っていたラグビーができたので、その結果がスコアにつながった」と安堵した。

「いやぁ…。でも、僕より泰洋さんやテビの方が行っていたと思いますけど…」

 島根・石見智翠館高時代から笑顔を絶やさぬ人は、ただただ謙遜する。

 この大会中は、別なチームからやって来たバックローに刺激を受けた。特に昨季のトップリーグでベストフィフティーンに輝いた金正奎には、「タックルのことなどを教えてもらった」という。

「学ぶことがあります。僕自身、(ARCの)代表でやろうとしているタックルができていなくて…。それを意識的に教えてもらえました。まだまだです」

 昨秋のワールドカップイングランド大会にあって、FLなどバックロー(FW第3列)の位置には大柄な海外出身選手が並んだ。それが歴史的な3勝を挙げたチームの答えだった。

 もっとも今回は、そのワールドカップ組のバックローが相次ぎ離脱。主将を務めたリーチ マイケルは怪我で、マイケル・ブロードハーストは諸事情で参加を見送った。さらに33名が選ばれたスコッドにあっても、ツイ ヘンドリック、ホラニ龍コリニアシ、アマナキ・レレイ・マフィは13日以降の合流が予定されている。

 11日に敵地バンクーバー・B.Cプレイススタジアムでおこなわれるカナダ代表戦にあっては、日本人選手主体でのメンバー編成が確定的だ。18、25日にはそれぞれ愛知・豊田スタジアム、東京・味の素スタジアムでスコットランド代表戦がある。欧州6強の一角との激戦に際し、カナダ代表戦は貴重なセレクションの場でもある。

 かねて「課題のフィジカル(の強さ)を克服して、そこ(カナダ代表戦やスコットランド代表戦の出場)を目指したい」と語っていた山本は、国際リーグ・スーパーラグビーのサンウルブズに所属する安藤、ワールドカップ前のジャパンに名を連ねたヤマハの堀江恭佑、さらには金と競争する。激流の渦中、新世代のフェッチャーの座をつかめるだろうか。(文:向 風見也)