「僕らは戦える。次のターゲットはレッドブルだ」 開幕戦オーストラリアGPを5位でフィニッシュしたフェルナンド・アロンソは、そう言い切ってみせた。世界各国のテレビカメラに向けて、何度も何度もその言葉を繰り返した。新生マクラーレンは開幕戦で…

「僕らは戦える。次のターゲットはレッドブルだ」

 開幕戦オーストラリアGPを5位でフィニッシュしたフェルナンド・アロンソは、そう言い切ってみせた。世界各国のテレビカメラに向けて、何度も何度もその言葉を繰り返した。



新生マクラーレンは開幕戦で5位・9位のダブル入賞を果たした

 しかし、メルボルンでレッドブルのマックス・フェルスタッペンを抑え切ったからといって、それがすぐに果たせる目標でないことは、アロンソ自身が一番よくわかっている。同じパワーユニットを積むレッドブルとのマシン性能差をコース上でもっとも肌身で感じ取っていたのは、彼だからだ。

「もちろん、いくつかのラッキーに恵まれたのも事実だよ。ハースの2台がリタイアし、カルロス(・サインツ)はターン9で問題を抱えてコースオフし、セーフティカーのおかげでフェルスタッペンをかわした(実際にはニコ・ヒュルケンベルグも)。ポジションの4~5つは、今日の状況が味方してくれて手にしたものだ」

 5位でフィニッシュしたものの、波乱がなければマクラーレンの2台は9位・11位でフィニッシュするのがやっとだった。

 アロンソが語るように、マクラーレンが5位・9位という結果を手にすることができたのは、5つの幸運に恵まれたからだ。

 まずひとつめの幸運は、予選から始まっていた。11位・12位でQ2敗退したことにより、新品タイヤを決勝用に選ぶことができた。つまり、Q3に進んだ前走車たちよりも3周新しいタイヤで第1スティントを走ることができたのだ。

 ふたつめの幸運は、ピレリが持ち込んだタイヤがコンサバティブでデグラデーション(性能低下)が少なかったこと。普段のレースならいかにライバルより先にピットインし、新品タイヤの威力で”アンダーカット”を仕掛けるかの勝負になるが、今回はウルトラソフトで走り続けることで逆転する”オーバーカット”も可能な状況だった。だから、ライバルより3周新しいタイヤでスタートしたマクラーレン勢は迷うことなく、ステイアウト(※)を選ぶことができたのだ。

※ステイアウト=ピットストップを行なわずコース上にとどまり、そのまま走行を続けること。

 3つめの幸運は、好調で上位を走行していたハースの2台がピット作業ミスでリタイアしたこと。これで順位がふたつ上がることになった。

 そして4つめにして最大の幸運が、ハースのストップによって導入されたセーフティカー。これが絶好のタイミングで入り、逆転優勝したセバスチャン・ベッテルとまったく同じようにマクラーレン勢も大きなアドバンテージを得て、アロンソはレッドブルのフェルスタッペンとルノーのヒュルケンベルグの前に出ることに成功した。また、ストフェル・バンドーンもカルロス・サインツを逆転することができた。

 さらに幸運だったのは、アルバート・パークが極めて抜きにくいサーキットだったことだろう。これはストレートが十分長くないコース特性もさることながら、タイヤのデグラデーションが小さく、各車のタイヤ状況に差が生まれにくかったことも影響している。

 加えて、アロンソの背後についた2台が同じルノー製パワーユニットを搭載し、ストレートスピードが伸びないマシンたちだったことも幸運だった。その後ろは全車がDRS(※)を使用し続ける状態になり、順位の入れ替わりは困難だった。

※DRS=Drag Reduction Systemの略。ドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 そんななかで5位を守り切ることができたのは、アロンソが一度もミスを犯さず、チームもミスを犯さなかったからだ。もちろん、懸念されていたマシントラブルもなかった。

 アロンソはレースをこう振り返る。

「今日の僕らはミスを犯すことなく、チャンスを最大限に生かすことができたんだ。チームがパーフェクトな仕事をしたこと、それに尽きるよ」

 フェルスタッペンとのバトルを制したことに、アロンソ自身、大きな手応えを感じ取った様子だった。

「タフなバトルだったよ。ミラーを見れば、常にフェルスタッペンがすぐ後ろにいるんだからね、リスクそのものだよ(苦笑)。彼は才能あるドライバーであり、とてもアグレッシブにオーバーテイクを仕掛けてくるドライバーだからね。だからライン取りにはものすごく気をつけなければならなかったし、もちろんミスを犯すこともできなかった。ひとつでもミスを犯せば、彼に抜かれてしまっていただろう。

 26周の間ずっとフェルスタッペンを抑え込むことができたように、今年の僕らはディフェンスもできるし、アタックもできる。これは、ここ数年できなかったことだ。だから去年までとは違った気分だし、今年はもっと楽しめるはずだよ。今日もナイスなファイトだったけど、できれば次は前を向いてレースをしたいね」

 そうは言うものの、この結果は幸運を掴み取ったからこそのものであり、実際の順位としては9位でしかなかったことは冒頭に述べたように、アロンソ自身もわかっている。レッドブルとの車体性能差もよくわかっているだろう。

「同じパワーユニットを積めば、自分たちもレッドブルのように表彰台争いができる」
「レッドブルと車体性能を直接比較されることは望むところだ」

 昨年からマクラーレンの首脳陣たちは、そう豪語してきた。

 しかし、オーストラリアGPの予選Q2で、マクラーレンはレッドブルに約1.3秒もの差をつけられた。それも、レッドブルは0.6~0.7秒遅いスーパーソフトを履いてのタイムだ。

 両者のタイム差は実質2.098%にも及んだ。昨年の最終戦アブダビGPの予選では1.079%。同じパワーユニットを積んだことで、その差は広がってしまった。決勝でも、フェラーリのキミ・ライコネンに抑え込まれたダニエル・リカルドにさえ、レース後半だけで20秒も引き離されてしまった。

 最高速も伸びず依然として最下位で、昨年から指摘されていたダウンフォースをつけなければ速く走れない設計思想のクルマという特性は変わっていない。それでもドラッグを削ったフロントウイングのフラップ(昨年アゼルバイジャンGPから投入したもの)を選び、ルノーやレッドブルとの車速差は数km/hまで縮めてきていた。

 いずれにしても、予選ではルノー製パワーユニットを搭載する3チームのなかで一番下であり、車体性能でもっとも劣っていることが厳然と突きつけられてしまった。映像を見ても、飛び跳ねるマシンを押さえつけてねじ伏せるアロンソの”神ドライブ”だからこそQ3に肉薄できたのであって、昨年後半戦にはアロンソを上回る走りも見せたバンドーンが常にアロンソに小さくない差をつけられて後塵を拝している事実を見れば、マシンとしての仕上がりはまだまだだと言うべきだろう。

 そこには、昨年9月に決まったルノー製パワーユニットへの変更に手間取り、マシンパッケージとして煮詰め切れていないことが大きく影響している。開幕前テストでトラブルが相次ぎ、急遽リアカウルを開口しなければならなかったように、信頼性の不安はまだ抱えているようだ。

 また、大きな問題にはならなかったが、フリー走行3回目のセッション終盤にコースインしてスタート練習を行なおうとしたところ、ガレージでの待機時間が長すぎてマシンの温度が上昇してしまいプログラムを中止しなければならず、アロンソが無線で声を荒らげる場面もあった。フリー走行1回目には排気管のトラブルで走行を止める場面もあったが、メルセデスAMGやホンダと違ってルノーはテールパイプだけでなく排気管も各チーム側が製作しなければならず、その設計や熱管理にもまだ手間取っている側面があるようだ。

 いずれにしても、それほど温度の高くなかったウエットコンディションの土曜に熱の問題を抱えたのは、今後に向けて不安が残る。

 開幕前テストでトラブルが相次ぎ、予定どおりの空力アップデートが進められなかったこともあり、開幕戦も投入できたのはフロアやTウイングの小変更くらいで、マシンパッケージとしてまだまだ未成熟だ。

「木曜にも言ったように、今回は僕らとしてはまだ今シーズンのなかで最低レベルのパフォーマンスであって、これからどんどん伸びていくんだ。まだマクラーレン・ルノーとしての開幕戦でしかないし、これからマシンパッケージからはまだまだポテンシャルを引き出すことができるよ」(アロンソ)

 開幕戦の5位は、巡ってきたいくつもの幸運を掴み取り、それを離さないアロンソの神ドライブがあったからこその結果であって、今の彼らの実力ではない。マクラーレンは5位という目の前の結果に踊ることなく、自分たちの現実を直視して、マシンのさらなる改良に努めなければならない。

 そのことを誰よりもよくわかっているのは、他の誰でもない彼ら自身だろう。