雨がまったく降らない日がほとんどない今年の全仏オープン(フランス・パリ)。しかし、降雨の中でのプレー、2日がかり、連戦…とタフなコンディションとスケジュールを選手たちに強いた甲斐あって、最終日まであと3日を残して男女のシングルスは本来の…

 雨がまったく降らない日がほとんどない今年の全仏オープン(フランス・パリ)。しかし、降雨の中でのプレー、2日がかり、連戦…とタフなコンディションとスケジュールを選手たちに強いた甲斐あって、最終日まであと3日を残して男女のシングルスは本来の予定通りベスト4が出揃った。

 男子は、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)が第7シードのトマーシュ・ベルディヒ(チェコ)に6-3 7-5 6-3で快勝。その裏で行われていた若手対決のほうに、より興味を持ったファンは少なくないだろう。第13シードのドミニク・ティーム(オーストリア)対第12シードのダビド・ゴファン(ベルギー)。いずれもグランドスラムのベスト8入りは初というフレッシュ対決を4-6 7-6(7) 6-4 6-1の逆転で制したのはティームだった。

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 今シーズン絶好調のティームが、グランドスラムで初めて勝ち進んだ準々決勝で技巧派のゴファンを倒し、ベスト4に駒を進めた。第1シードのジョコビッチ、第2シードのアンディ・マレー(イギリス)、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)という、メジャーの常連とともに名を連ねた22歳の新星。この日の勝利で、大会後の世界ランキングではトップ10入りも決まり、ロジャー・フェデラー(スイス)が欠場、ラファエル・ナダル(スペイン)が棄権した大会で、思わぬ〈金の卵〉の出現となった。

 ボリス・ベッカー(ドイツ)やナダルが登場したときのように、ティームの名前は大会前から囁かれていた。今年は3大会で優勝し、うちクレーが2大会(ブエノスアイレス、ニース)。今季のクレーコートの勝ち星はツアートップの「24」で、対戦相手の格は違うにしろ、今シーズンここまでの勝ち星(40勝10敗)でもジョコビッチの41勝3敗に次ぐツアー2位だ。3位の錦織圭の32勝10敗を大きく上回っている。

 25歳のゴファンがミロシュ・ラオニッチ(カナダ)とともに錦織世代に括られるのに対し、ティームはニック・キリオス(オーストラリア)ら〈ポスト錦織世代〉のリーダー格。185㎝、82㎏と、フェデラーとほぼ同じ理想的な体格だが、片手打ちバックハンドのパワーがひときわ増し、この日の試合でもベースライン深く、サイドラインぎりぎりに散らす豪快なショットで、ウィナー数では49対31と大差をつけた。ミスがなく頭脳的なプレーを見せるゴファンに前半は苦しめられたが、第2セットのタイブレークを奪ってからはそのストローク力で圧倒した印象だ。

 メンタル面での成長も著しい。同じコーチ(ギュンター・ブレスニク)に就いていた縁から、ツアーの理論家として知られる5歳年上のエルネスツ・グルビス(ラトビア)と仲がよく、一緒に合宿をすることもあるという。グルビスもこの大会でベスト4に入ったことのあるクレー巧者だけに、その効果が出ているのかもしれないが、オーストリアと言えば、クレーコートの鬼と呼ばれたトーマス・ムスターの祖国でもあり、レッドクレーで活躍する素地はあった。 ただし、ムスターが全仏を制したときティームはまだ2歳になっておらず、「(ムスターに)憧れる年齢ではなかった(笑)」と言うのももっともだ。それ以降、オーストリア人のグランドスラム・チャンピオンは出ていない。

 準決勝の相手はジョコビッチ。また連戦だ。これまで2敗とは言え、クレーコートでの対戦はまだない。判官びいきのパリの観客の声援も若者になびけば、侮れない勝負になるだろう。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)