平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園)が高校生活を1年残してプロに踏み切った。通信制の高校はこれまで通り続けるが、中学1年生から在籍してきたJOCエリートアカデミーは1年早く修了。30日に味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)で開かれた記者会見では修了証書が手渡された。平野は4月1日からプロに転向する。新たな所属先は現在メインスポンサーである日本生命を軸に調整中とのことだ。
決意を固めたのは今年の全日本選手権直後
平野の決意表明はこう始まった。「私はJOCエリートアカデミーを卒業してプロ卓球選手として活動していくことを決断したので、報告をさせていただきました」。JOCエリートアカデミーの在籍期間を1年残してプロになるという異例の決断だが、なぜこのタイミングだったのだろう? その理由を本人は、「目標である東京五輪出場と金メダル獲得に向けどうしたらいいかを考えた時、もっと人としても選手としても強い人間ならなければいけないと思った」とし、高校2年生の自分に「自己責任」を課す決意を口にした。
「JOCエリートアカデミーでは、とても良い環境で卓球をやらせてもらって感謝している。でも、もっと自分で責任を持って練習や試合に臨みたいと思うようになった。その方が自分を追い込めるし、モチベーションも上がると感じた」
平野がそう考えるようになったのは、全日本選手権優勝やアジア選手権優勝、世界卓球銅メダルなど飛ぶ鳥を落とす勢いだった2017年シーズン前半から一転、ワールドツアーなどでなかなか勝てなくなったシーズン後半だったという。そしてその思いは今年1月の全日本選手権女子シングルス決勝で、同じ17歳のライバル・伊藤美誠(スターツSC)に負けたのを潮に色濃くなっていった。
エリートアカデミーも平野のプロ活動を最大限サポート
JOCエリートアカデミー総監督で日本卓球協会強化本部長の宮﨑義仁氏も、全日本選手権終了後に平野と数回にわたってミーティングを繰り返したことを明かし、「平野の方から環境を変えてプロ活動をしていきたいという心強い申し出があった。私どももそれを受け入れ、全面的に応援していくことにした」と話す。
さらにこのタイミングでの平野のプロ宣言に対しては、今年9月の理事会で発表を予定している2020年東京五輪の日本代表選考基準との兼ね合いから妥当との見解を示した。
「おおまかには2019年1月~12月の国際競争力の評価が選考基準となるが、平野が同年3月にJOCエリートアカデミーを修了となると、五輪競争のスタートダッシュに遅れる可能性がある。その点、石川佳純(全農)や伊藤美誠(スターツSC)のように、自分のコーディネートした時間帯に練習したい相手と十分に練習できる環境で五輪競争を迎える準備ができるのはプロになる最大のメリットと言える」
宮﨑氏の言う「五輪競争での遅れ」という懸念は、いわゆる文武両道を目指す同施設ゆえの制約に起因しているようだ。ジュニア期のエリート選手を育成強化するにあたり集団的な全寮生活を送り、英会話をはじめとする独自の学習プログラムなどもこなさなくてはならない選手たちは競技以外の面でも時間と労力を費やす。「それで平野は本当に五輪出場、そして金メダルを狙えるのか?」。JOCエリートアカデミーとしても日本卓球協会としても、そうした思いに駆られたと宮﨑氏は説明する。
大筋のところで思惑が一致した平野とJOCエリートアカデミー、日本卓球協会の三者は今後も協力体制を継続し、平野に味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)の練習環境や施設内にある食堂の利用などを提供。平野のプロ活動を最大限サポートしていくという。競技指導に関しては平野個人で中国人コーチの起用を準備。生活拠点をNTCの近隣に置き、実家の山梨県から父・光正さんが上京し娘を支える。
(文=高樹ミナ)