2月の平昌五輪、そして平野歩夢の優勝に沸いた3月のバートンUSオープンと、今季のスノーボードはシーン全体がこれまでにない盛り上がりを見せたと言えるだろう。この実り多きシーズンがターニングポイントとなり、来季以降、ひいては4年後の北京五…

 2月の平昌五輪、そして平野歩夢の優勝に沸いた3月のバートンUSオープンと、今季のスノーボードはシーン全体がこれまでにない盛り上がりを見せたと言えるだろう。この実り多きシーズンがターニングポイントとなり、来季以降、ひいては4年後の北京五輪に向けて、スノーボードを取り巻く環境そのものがよりいい方向に進んでいくことに期待したい。

 では、そのように良質なサイクルを生み出しつつある日本のスノーボードシーンについて、世界はどう見ているのだろうか。ライバルである外国人ライダーたちの見解を探るべく、USオープン開催期間中、アメリカ・コロラドにて平昌五輪スロープスタイルのメダリストたちに話を聞いた。



USオープン直後のレッド・ジェラード。今後が楽しみな驚異の17歳

 まずは男子スロープスタイルを制したレッド・ジェラード。並みいる実力派ライダーたちを押しのけ、平昌の地で表彰台のトップにのし上がったアメリカ期待の17歳だ。

「平昌五輪では自分が望んでいた通りの結果が出て、本当にすばらしい経験になりました。ユニークなコースでしたが、いいルーティンを見せることができたと思います。ただ、17歳で、ということに特別な感情はないですね。僕は子供の頃から常にスノーボードのことを考えてきたし、クールでクリエイティブなトリックを決めて、スノーボードで多くのことを成し遂げることだけに熱中してきましたから。平昌のような成功を、今後もずっと続けていきたい」

 五輪の疲れもあったのか、直後のUSオープンではミスが目立ち決勝に進むことができなかったものの、この華奢な若者が今後長きにわたって男子スロープスタイルの中心的存在になってくることは確実だ。ジェラードはライバルである日本人ライダーたちについてこう語る。

「日本人ライダーたちは、スロープスタイルという競技において、しっかりとしたスタイルを持っているし、僕と同じような年齢の選手もどんどん出てきています。彼らがすべてのジャンプで着地に成功したとしたら、正直、勝てる保証はないですね。北京もそうですし、USオープンやXゲームズでも、この先は日本のライダーたちと常にメダルを争うことになるのではないでしょうか。とくにユウキ(角野友基)は本当にクレイジー(笑)。彼の滑りがとても好きですね」

 平昌の男子スロープスタイルで銅メダルを獲得したカナダのマーク・マクモリス。彼もまた、平野歩夢や片山來夢(らいぶ)ら、ハーフパイプ勢だけでなくスロープスタイルにも世界のトップで戦える日本人ライダーが多く存在すると証言する1人だ。



命を脅かす大怪我から復帰したマーク・マクモリス

「確かに、ずっと日本人のライダーたちはハーフパイプが上手だというイメージを持っていましたが、ここ数年で飛躍的にスロープスタイルのクオリティが上がってきていますね。日本は常に優れたライダーを10人は抱えていて、今回のUSオープンでもユウキやタケル(大塚健)がいい滑りを見せましたし、女子でもいい選手がコンスタントに出てきますね。日本人はボードの回し方が本当に柔軟でうまい。すごく鍛えられているし、何よりみんなスノーボードを心から楽しんでいて、かつ礼儀正しい。すばらしいですね。4年後に向けて彼らはさらに進化していくはずです」

 実は彼、マーク・マクモリスこそが、スロープスタイル、ビッグエア競技における真の”ビッグネーム”。平昌では銅メダルだったが、3月のUSオープンで持ち前の勝負強さを発揮して2連覇。Xゲームズも、これまで何度も制しているカナダの国民的英雄である。いわばハーフパイプにおけるショーン・ホワイトのような存在だ。昨年3月に内臓破裂など瀕死の大ケガを負いながらも、驚異のスピードで雪上に戻ってきた不屈の24歳。これからの4年、彼が日本人ライダーたちの前に大きな壁として立ちはだかってくる存在であることは間違いない。

「ソチ(銅)に続き、平昌でもカナダの代表としてメダルが獲れたことは本当にうれしかった。自分の中でもかなり野性的な滑りができたと思っていて、それが評価されたということが非常にクールでした。

 復帰した当初はもちろん怖さはありましたが、それでもスノーボードに乗ると地球上で最高の気分が味わえる。ケガしたことによってそれをさらに実感したし、今ではあのケガが今後の自分の滑りをさらによくしていくための大きなきっかけになるのではないかとさえ思います。平昌が終わった直後は北京のことは考えていませんでしたが、少し時間が経ち、今は出たいと思っています。十分な時間があるので、いい準備をしたいですね」

 女子は、平昌五輪ビッグエア金メダリストのアンナ・ガッサー(オーストリア)に話を聞いた。平昌のスロープスタイルでは強風の影響で本来の滑りができず、表彰台を逃したが、ビッグエアでは3本目にスロープスタイルで金メダルを獲っていたジェイミー・アンダーソン(アメリカ)を逆転。見事に自身初の五輪金メダルに輝いた。その後USオープンのスロープスタイルでもアンダーソンに次ぐ2位。2人が形成する盤石の”ワンツー”は、今後数年間は女子スロープスタイル、ビッグエアシーンを席巻し続けるはずだ。

「平昌でメダルを獲った瞬間は、もうすばらしい気分でした。トップライダーが集まった最高レベルの大会で、自分がイメージしていたベストの滑りが出せたので。USオープンやXゲームズは私にとって常に大切な大会ですが、五輪も4年に一度しかないという点で特別な存在。4年後のことはまだ考えていませんが、ずっと出られるレベルでいたいとは思っています」

 今や世界中の女子スノーボーダーの憧れの的となったガッサーだが、体操競技から転向し、スノーボードを始めたのがなんと18歳。たった7年で五輪金メダリストまで上り詰めた異色の経歴の持ち主は、10代のライダーたちが躍動する日本の女子スノーボード界をこう見ている。



実力、スタイル、そして美貌を兼ね備えたアンナ・ガッサー

「ココモ(村瀬心椛)の滑りにはもうびっくり! 13歳でUSオープンという大舞台であれだけの滑りを見せるなんて、私が彼女の年齢の頃はまだスノーボードを始めてもいなかったので信じられないですね(笑)。それにミヤビ(鬼塚雅)やレイラ(岩渕麗楽)も若いのにすばらしいスキルを持っています。

 日本の女子スノーボード界には明るい未来が待っていると私は確信しています。ただ、私自身も常に新しいものを学びたいと思っていますし、彼女たちのような将来性豊かなライダーたちを見ることがモチベーションにもなっています。負けないようにどんどん自分の滑りを押し上げていきたいです」

 このように三者三様の視点で日本人ライダーについての見解を語ってくれたレッド・ジェラード、マーク・マクモリス、そしてアンナ・ガッサー。彼らはいずれも、最高クラスのスキルと”スタイル”を併せ持つ本当のトップライダーだけが集うバートンのグローバルチームにも所属している(ハーフパイプではショーン・ホワイト、平野歩夢、クロエ・キムなどが所属)。これから北京までの4年は、日本人ライダーの滑りだけでなく彼らとのマッチアップにも注目してもらえると、よりスノーボードが面白くなるはずだ。

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