完走15台中15位と、リタイア。トロロッソ・ホンダの開幕戦は、これ以上ないほどの無残な結果に終わった。「結果がすべて」と言ってしまえばそれまでだが、「結果以外の部分」に目を向けなければ真実は見えてこない。ミス、不運、そしてトラブルによ…

 完走15台中15位と、リタイア。トロロッソ・ホンダの開幕戦は、これ以上ないほどの無残な結果に終わった。

「結果がすべて」と言ってしまえばそれまでだが、「結果以外の部分」に目を向けなければ真実は見えてこない。ミス、不運、そしてトラブルによって、トロロッソ・ホンダが持つ本来の力は予選でも決勝でも結果に結びついていないからだ。



トロロッソ・ホンダは開幕早々にトラブルが発生してしまった

 金曜フリー走行を順調にこなしたトロロッソ・ホンダは、「中団グループで戦える」という手応えをしっかりと掴んで予選に臨んだ。

 その予選2回目のアタックで、ピエール・ガスリーはミスを犯してしまった。

「Q2進出を意識してターン3でプッシュしすぎてしまったんだ。最初のランよりブレーキングを5メートル奥に遅らせたら、ブレーキが冷えていてロックしてしまい飛び出してしまった。ほんのわずかではあったけど、プッシュしすぎて限界を超えてしまったんだ」

 ブレンドン・ハートレイも「路面のグリップ向上幅があれほど大きいとは予想できなくて、ターン1のブレーキングが早すぎた」と、0.029秒差でQ2進出を逃した。

 ガスリーは自ら「ここは抜けないから、予選がもっとも重要」と言っていた場面で、今季初の自身のミスが出たことに大きく落胆していた。それがなければ、マクラーレンに肉薄することもできたからだ。

「ターン3までで僕はブレンドンより0.2秒速かったんだ。ブレンドンが1分24秒532で、僕はターン3までで0.2秒上回っていたわけだから、間違いなく1分24秒300は可能だったし、実際には1分24秒100くらいはいけたはずだった。つまり(13位のセルジオ・)ペレスよりも速かったんだ」

 名手フェルナンド・アロンソは暴れるマシンを巧みにねじ伏せ1分23秒597を刻んでいたが、GP2時代からライバル関係にあるストフェル・バンドーンは1分24秒073。若手ふたりのドライバーの力量を勘案すれば、トロロッソ・ホンダのパフォーマンスは決してQ1敗退で終わるほど劣ったものではなかったのだ。

 後方グリッドからのスタートとなってしまった決勝では、アグレッシブな戦略で逆転を狙った。だが、これもまたミスと不運とトラブルによって、結果に結びつかなかった。

「スタート直後のターン1へのアプローチでラインを変えたら、路面のキャンバー(角度変化)を乗り越えるかたちになってしまって、そこで激しくブレーキをロックさせてしまったんだ。すぐにロックを解除させることができなくて大きなフラットスポットを作ってしまい、とても走り続けられるような状態じゃなかった」

 タイヤを壊してしまったハートレイは1周目にピットインしてソフトタイヤに交換し、最後まで走り切る作戦に切り替えた。チームとしては早い段階でのピットストップも想定しており、挽回は十分に可能で綻(ほころ)びもまだ小さかった。

 しかし、走り始めてしばらくすると、縁石にぶつけてしまったのか、ハートレイは左リアのフロアにダメージを負い、ダウンフォースを大きく失ってしまう。その壊れたパーツがタイヤに接触し、徐々にエア漏れを起こしていた。

 これで、最後まで走り切って他車のピットストップの間に逆転するという戦略は、あっけなく崩れ去ってしまった。

「かなりのダウンフォースを失っていたし、タイヤを最後まで保(も)たせるためにかなり抑えて走っていたから、今日のペースから実力を判断することはできない。でも、ウルトラソフトをあれだけ保たせることができたのを考えると、タイヤマネージメントは悪くなかった。特に最後の5周は、まだあれだけグリップが残っていたことに驚いたくらいだよ」(ハートレイ)

 開幕前に懸念していたタイヤマネージメントだが、ハートレイは23周目に履き替えてから全車中最多の34周も保たせた。リアのダウンフォースが抜け、金曜フリー走行とは大幅にマシンバランスが異なるドライビングの難しいマシンで、それをやってみせた。タイヤマネージメントの問題は解決できたようだ。

 一方、最後尾グリッドからスタートしたガスリーは、スタート加速でザウバーとウイリアムズをパスし、ターン9でハートレイも抜いて3つポジションを上げた。マーカス・エリクソン(ザウバー)がトラブルでスロー走行した際、ダブルイエローが振られて抜けずに6秒をロスしたが、そこからふたたび前のフォースインディアとウイリアムズに追いついていく速さを見せた。

 しかし15周目、終わりは突然やってきた。

「ターン12に入るまで、何も前兆はなかったよ。全開でコーナーの出口を出ていったら、突然パワーユニットのスイッチがオフになって、一度は復活したんだけどまたスイッチオフになり、次にオンになってからは1速ギアのままゆっくりとピットに戻ってくることしかできなかったんだ」(ガスリー)

 MGU-H(※)のトラブルだった。開幕前テストからノートラブルで3レース週末分を走り切っていたはずのパワーユニットが、ここにきてわずか1戦目で壊れてしまった衝撃は大きかった。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは、神妙な面持ちでこう語った。

「MGU-Hに異常が発生したので、ピットに戻しました。まったく予兆はありませんでした。テストで性能と信頼性を見極めてきたのと基本的に同じ仕様のものを持ち込んでいますから、(トラブル発生は)想定外です。早急に何が起きたのかを突き止めないといけません。

 まだマシンを開けていませんから詳細はわかりませんが、ハードウェアに異常が出ていることはわかっていますから、これからHRD Sakuraに送って(トラブルが起きた)モノを見て解析し、データも細かくチェックして、そこから次の対策も含めて考えていきたいと思います」

 ガスリー車のパワーユニットの走行距離は、まだたったの482km。年間3基と考えれば、1基あたり5000~5500kmは走らなければならないだけに、これはあまりにも早い。

 ただし、交換が許されないコンポーネント本体のトラブルならば深刻だが、シャフトなどの消耗部品・メンテナンス部品は交換が許されており、どのメーカーも1レース週末ごとに交換するのが通例だ。壊れたのがこうした消耗部品だったとしたら、700km走るはずのものが482kmで壊れたことになり、たとえば金曜の夜に新品に交換するなどメンテナンス周期を変えることで対処は可能となる。

 いずれにしても、一度トラブルに見舞われたコンポーネントは金曜フリー走行用に回し、予選・決勝で使うことはないはずだ。つまり、次戦バーレーンGPではMGU-Hと、それと一体化しているTC(ターボチャージャー)の2基目投入は避けられないだろう。もちろん、MGU-H本体のメンテナンス不可の箇所が物理的に壊れていれば、自動的に新品投入を余儀なくされる。

「パフォーマンス的にもマシンパッケージとして期待値を下回ってしまった部分がありますし、パワーユニットとしても絶対的にトップとは差があるという位置づけですから、開発をがんばらなければいけません。

 それに加えて、信頼性を上げてパフォーマンスもできるかぎり上げて開幕戦に臨み、まずは2台揃って完走というのを目標にしてきましたから、正直言って非常に残念な結果です。結果がすべてですから、全部見直して早急に原因を突き詰めたいと思います」(田辺テクニカルディレクター)

 結果以外の部分に目を向ければ、トロロッソ・ホンダに中団グループのなかで対等に戦える力があることはわかる。

「ハースとルノーはあそこまで速いと思っていなかったけど、フォースインディアやウイリアムズとは戦える。まだ開幕戦が終わっただけで、このサーキットでこのコンディションでの勢力図がこうだった、というだけのことだ。



開幕戦の恒例行事。参戦ドライバー全員の集合写真

 もっと暑いコンディションや寒いコンディションでは、違った結果になるかもしれない。僕らは低速セクションで速いこともわかっているし、正確な勢力図を判断するのは他のサーキットでのレースを待つべきだと思う。間違いなく、戦えるポテンシャルはあるよ」

 そう語るガスリーは、決勝でのマシンのポテンシャルに結果以上のものを感じ取ったようだった。ハートレイも「チームはこれから4月に大きなアップデートを投入する計画になっているし、次のレースを楽しみにしているよ」と、さらなる飛躍に期待を寄せる。

 しかし、ハースやルノーにはやや差をつけられていて、このままではポイント圏内には手が届かない。

 そしてなにより、信頼性を最優先に据えてコンサバティブに臨んだはずの開幕戦で起きてしまったこの事態に、ホンダは改めて気を引き締め直さなければならない。この事態に悔しさを感じているのか? 危機感を持っているのか?

 開幕戦で目指していた「第一歩」すら踏み出すことができなかったトロロッソ・ホンダの真価が問われるのは、ここからだろう。