一度は逆転されながら追いつき、PK戦で勝利をもぎ取った粘り強さを讃えるべきか、2点を先行しながらひっくり返されたナイーブさを厳しく指摘するべきか――。 2年後の東京五輪でメダル獲得を目指すU-21日本代表のパラグアイ遠征。初戦でチリに…
一度は逆転されながら追いつき、PK戦で勝利をもぎ取った粘り強さを讃えるべきか、2点を先行しながらひっくり返されたナイーブさを厳しく指摘するべきか――。
2年後の東京五輪でメダル獲得を目指すU-21日本代表のパラグアイ遠征。初戦でチリに0−2と敗れた日本は3月23日、ベネズエラと対戦した。
次のパラグアイ戦、森保一監督は誰を選ぶのか
ベネズエラといえば、昨年のU-20ワールドカップのラウンド16で敗れた因縁の相手。若き日本代表にとってリベンジマッチだったが、世界2位に輝く当時の主力メンバーの大半がA代表に抜擢されていて、今回は未招集。数人いる当時のメンバーもパラグアイとの初戦で先発したため、この日はベンチスタートだった。
一方、日本もチリとの初戦から松本泰志(サンフレッチェ広島)を除く10人を入れ替え、以下の11人で臨んだ。
【GK】
山口瑠伊(るい/エストレマドゥーラUD)
【DF】
大南拓磨(ジュビロ磐田)
椎橋慧也(しいはし・けいや/ベガルタ仙台)
立田悠悟(清水エスパルス)
【MF】
藤谷壮(ヴィッセル神戸)
坂井大将(アルビレックス新潟)
遠藤渓太(横浜F・マリノス)
松本泰志(サンフレッチェ広島)
伊藤達哉(ハンブルガーSV)
針谷岳晃(ジュビロ磐田)
【FW】
前田大然(だいぜん/松本山雅)
立ち上がりから主導権を握ったのは日本だった。
3分に針谷のコーナーキックを椎橋が頭で決めると、16分には藤谷のクロスを前田がダイビングヘッドでねじ込んだ。「(藤谷)壮から試合前、あそこに入れると言われていた。泥臭く点を獲るのは得意の形」と自画自賛のゴール。日本は早くも2点を先行した。
ディフェンスラインからのビルドアップこそ、もたつく場面があったが、中盤でのパスワークは軽快。ボランチの坂井が気の利いたポジショニングでサポートしたり、パスコースを作り、松本はテンポよくボールを動かした。2シャドーの針谷は相手の嫌がるスペースに顔を出し、スルーパスを繰り出した。
「自分のところに入ったら落ち着かせたいと思っていた。自分は合わせられるタイプなので周りに合わせるし、そうしたなかで前半は自分のよさもしっかり出せたと思います」
そう振り返ったのは針谷だ。30分ごろには流れるようにボールが回っていた。
もっともそこは、ベストメンバーではないとはいえ試合巧者のベネズエラである。4−4−2の中盤をフラットからボックス型に変え、日本のボランチとシャドーへのマークを強めてきた。前半のうちに日本の戦い方を見極めたようにうかがえた。
そしてアディショナルタイム、前田のバックパスが相手に渡りクロスを入れられると、ゴール前で椎橋が相手にシュートを許し、1点を返されてしまう。
「失い方は悪かったんですけど、僕が粘り強く守れなかった。ボールが空中にあるときに相手は見えていたので、トラップしたときにもっと距離を詰めればよかった」
先制ゴールの殊勲者は、そう悔やむしかなかった。前半の終了間際という警戒すべき時間帯での失点。ハーフタイムに立て直しを図らなければならなかったが、すぐさま同じ過ちが繰り返された。今度は後半の立ち上がりに、立て続けに失点を許すのだ。
ベネズエラはハーフタイムに5人を入れ替えた。そのなかには、FWロナルド・チャコンやMFロナルド・ルセーナといったU-20ワールドカップ出場メンバーがいた。48分にコーナーキックのこぼれ球を蹴り込まれると、55分にはクロスがゴール前のチャコンに渡る。立田が立ち塞がったが対応を誤り、強烈なシュートを叩き込まれてしまう。
前半の終了間際に失点してから、わずか10分間で3失点……。
「16番(ルセーナ)が入ってきて、自分のところとか間を消すようになって、なおかつボランチにもプレスをかけてきて、ペースを持っていかれて2発やられてしまった」
針谷はそう分析した。球際で劣る場面が見られるようになり、全体的にズルズルと下がる様子がチームのナイーブさを表していた。力強く鼓舞する選手も見当たらず、気がつけば3点を失っていたという感じ。悪い流れを断ち切ることができなかった。
実はこのあとも57分、66分と決定的な場面を作られ、GK山口の好セーブによって失点を免れている。「4失点目だけはやらせないと思っていた」という山口の好守がなければ、試合は終わっていたかもしれなかったのだ。
日本がようやく反撃に転じるのは、このピンチをしのいだ1分後、針谷と伊藤に代えてMF三好康児(北海道コンサドーレ札幌)とMF森島司(サンフレッチェ広島)を2シャドーに送り込んでからである。
68分、中盤でボールを受けた三好が前を向いてスルーパス。これに抜け出した前田がボックス内で相手に倒されてPKを獲得する。前田自らが決めて3−3の同点に追いついた。
ファウルを犯した相手DFが退場となり、数的優位を手にした日本は三好、遠藤らがゴールに迫ったが、再逆転はできなかった。こうしてPK戦にもつれ込み、DF中山雄太(柏レイソル)、FW上田綺世(あやせ/法政大)、MF初瀬亮(ガンバ大阪)、三好と4人全員が成功した日本に対し、ベネズエラはふたりが外し、日本が4−1でPK戦に勝利。勝ち点2を手に入れた。
さて、冒頭の問いだが、もちろん答えはその両方だ。ただ、試合を終えたとき、後者の気持ちのほうが強かった。あれだけ順調にゲームを進めながら、セーフティに終わらせなければならない時間帯でミスを犯して失点。後半開始早々にも同じミスを犯し、その際のDF陣の対応も甘く、「もったいない」という印象が強い。
チリ戦でも失点した瞬間、チーム全体が気落ちしたようにうかがえた。全体的にそうした世代なのか、今選ばれている選手がそうなのか、それとも、まだチームが立ち上げられたばかりで、鼓舞し、リーダーシップを取ることに遠慮している状態なのか。
「流れが悪くなると、それぞれが自分の殻に閉じこもるというか、自分の世界を作ってしまう。悪いことが起きたときこそ互いに支え合い、励まし合ってやっていくということを覚えつつ、自分自身も強い反発力、メンタリティを培わないといけない」
試合後、森保一監督はそう振り返った。3月25日のパラグアイ戦も含め、今後の活動のなかでいかに反発力を養うか、あるいは、そうしたメンタリティを備えた選手を起用していくのか。そのあたりの森保監督のチームマネジメント、チーム作りが興味深い。
若き日本代表にとって、パラグアイ遠征がいい経験になっているのは間違いない。だが、21歳はもう「いい経験」では済まされない年齢であるのも確かだ。
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