イタリア・ミラノで開催中の世界フィギュアスケート選手権は、平昌五輪で優勝した羽生結弦、同3位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)が欠場したため、同2位の宇野昌磨が優勝候補と目されていた。右足の状態が万全じゃない中、世界選手権SPで5…
イタリア・ミラノで開催中の世界フィギュアスケート選手権は、平昌五輪で優勝した羽生結弦、同3位のハビエル・フェルナンデス(スペイン)が欠場したため、同2位の宇野昌磨が優勝候補と目されていた。
右足の状態が万全じゃない中、世界選手権SPで5位となった宇野
しかし、宇野は3月22日のショートプログラム(SP)で、1位のネイサン・チェン(アメリカ)と7.68点差の5位発進(94.26点)となった。他の日本勢は、友野一希が11位で田中刑事が14位。来年に日本の埼玉で行なわれる世界選手権で3つの出場枠を確保するためには、上位2人の合計順位が「13」以内にならないといけないため、日本は厳しい状況に追い込まれたと言っていい。
エースである宇野の不調の原因は、平昌五輪後に新調した靴にある。なかなか足に合わないまま練習を重ねたことで右足甲に痛みが生じ、20日夜のメインリンクでの公式練習では、5分ほどでリンクから上がってスタッフに背負われながらホテルに戻った。
大会に出場できるのか心配する声もあったが、日本スケート連盟の小林芳子フィギュア強化部長は、「念のために病院で診てもらったが、骨折はしていないという診断だった。本人も安堵している」と説明した。
宇野本人は、「(状態が)よっぽど悪くなければ欠場は考えていませんでした。ただ、メインリンクの公式練習を途中でやめた時は、さすがに『もしこのままの状態が続いたら、出ることによっていろんな人たちに恥をかかせてしまう』と思い、ちょっとだけ欠場も頭をよぎりましたね。それでも、次の日の午前は滑ることができたので」と、出場までの経緯を明かしている。
欠場は免れたが、それでもSPのジャンプ構成はレベルを落とした。4回転ジャンプは冒頭に跳ぶ単発のトーループだけにし、後半のコンビネーションジャンプは3回転サルコウ+3回転トーループにしたのだ。
21日午前の公式練習では、1番目に曲かけ練習を行なったこともあって20分ほどでリンクから上がった。SP当日の6分間練習では最終滑走だったにもかかわらず、ダブルアクセルとサルコウ+トーループを跳び、その後はトリプルアクセル1本と4回転トーループを2本跳んだだけの軽めの練習にしていた。
迎えた本番は32番滑走のミハイル・コリヤダ(ロシア)が100.08点を出し、34番滑走のネイサン・チェン(アメリカ)が101.94点を出したのを見てからの滑走だった。宇野は「4回転フリップを3回転サルコウ+3回転トーループにしたけど、完璧にやれば103点~105点は出る」と計算していたという。
だが、3回転サルコウの着氷を乱し、少し間を置いて2回転トーループをつけたジャンプはコンビネーションと認められたが、GOE(出来栄え点)は1.40点の減点。得点は94.26点にとどまることになった。
「右足は朝の公式練習でも痛かったけど、周りの方のサポートもあって練習することができましたし、気持ちが高まっているからか、試合会場に入ってからは普通に歩くこともできました。でも、体が動いたからこそ、3回転サルコウは力が有り余って変なジャンプになってしまって、バランスを崩してしまった。結果論だけど、この状態で試合に挑めると事前にわかっていたら、もうちょっと難しい構成をやってもよかったのかなと思います」
トリプルアクセルを跳んだ後のつなぎで、スケートが引っかかってよろけるアクシデントもあったが、宇野は「あれは左足だったのでケガには関係ないです。こっちへ来てからの練習が足りないという影響はあったかもしれないけど、なんともなかった」と淡々と振り返った。
ジャンプは本調子にほど遠かったが、スピンとステップはすべてレベル4。全選手の中で唯一、演技構成点の5項目すべてを9点台に乗せて46・36点を記録している。技術点と合わせた94.26点という結果も、本人は納得しているようだった。
「コンビネーションがほとんど点数の残らないジャンプになってしまい、『95点くらいか、もうちょいよければ90点台後半までいくかな』と思っていたので、ほぼ予想通りでした。
ジャンプ(のレベル)を抑えた分、ちょっと気持ちは楽でしたね。最初の4回転トーループを跳んだ後も、『落ち着いてやればできる』と思っていたので。結果的にはその後で失敗してしまったんですけど(笑)、あまり練習ができていない中でも落ち着いて試合に臨めました」
SPの演技後には笑顔を見せる場面も
宇野以外の選手も五輪の直後で本調子とはいえないため、24日のフリーは順位に大きく変動があるかもしれない。
ルッツとフリップの4回転をキッチリ決め、自己最高の96.78点で3位になったビンセント・ジョウ(アメリカ)は元気だったが、1位のチェンはルッツとフリップの4回転を決めたものの、ともにGOEではわずかに減点され、つなぎでも攻めていない印象だった。
また、コリヤダもルッツを4回転から3回転に落とす”安全運転”での2位。95.85点で4位のボーヤン・ジン(中国)も、4回転ルッツ+3回転トーループは確実に決めながら、4回転トーループは回転不足になっている。
そんな中で、5位からどこまで巻き返せるのか。宇野はフリーに向けた意気込みを力強く語った。
「最後まで元の構成(で演技をすること)を諦めたくないですね。こっちへ来てから公式練習はあまりしていないけど、靴を替えてからの練習は五輪の前よりしています。『もしかしたら明日よくなるかもしれない。明後日はもっとよくなるかもしれない』と諦めずにいきたいです。今日の試合も、今の状態ならもっとできたと思うので、もうちょっと無理できるんじゃないかなと」
試合直前にスケート靴が壊れて新しくした影響もあるのか、少し動きが重く出遅れた田中もジャンプアップを狙う。また、自身初のSPで80点台となる82・61点を出した友野は、「連戦にはなるけど、(先週のプランタン杯で)シニアの国際試合に出たことが刺激になって、時差調整も楽になった」と、キレのある動きを見せているだけに期待が高まる。
出場枠「3」獲得へ、宇野だけでなく友野か田中が順位を上げる必要はあるが、”黄信号”が灯りながらも日本にまだ希望は残っている。