いよいよグランプリサーカスが2018年シーズン開幕の地、メルボルンへとやって来た。すでに8日間の開幕前合同テストでぼんやりとした勢力図は見えているとはいえ、このメルボルンの予選で初めて全マシンがフルアタックを行ない、307.574km…

 いよいよグランプリサーカスが2018年シーズン開幕の地、メルボルンへとやって来た。すでに8日間の開幕前合同テストでぼんやりとした勢力図は見えているとはいえ、このメルボルンの予選で初めて全マシンがフルアタックを行ない、307.574kmの決勝を戦うのだ。



初めてのF1フルシーズンに臨むピエール・ガスリー

 そんななか、テストでチーム歴代最長の走行距離を稼いだトロロッソ・ホンダは、快晴のメルボルンに来てもチーム内に前向きで明るい雰囲気が満ちあふれているように感じられた。

 実のところ、テストを終えた時点でトロロッソ・ホンダには、ふたつの不安要素があった。

 ひとつはテスト最終日に発生したパワーユニットの「データ異常」であり、もうひとつはレースシミュレーションにおけるタイヤの性能低下の大きさだった。だが、開幕直前のメルボルンにやって来たチームメンバーたちに聞くと、その不安はきちんと解決できているという。

 まず、ホンダのデータ異常について、田辺豊治テクニカルディレクターは次のように語る。

「電気系がらみでちょっと気になるデータが出たんですが、電気的なところなのでノイズのせいなのか接触不良なのか、解析に時間がかかりそうだったので走行をやめました。それを確認して対応データを入れて今回に臨んでいます」

 チーム関係者によれば、問題があったのはパワーユニットのセンサーボックスで、そのセンサーがあげる異常値のせいで自動的にパワーユニットの出力を抑えて走るモードに切り替わり、しばらくはそのまま走行したものの、パワーユニットへの負担を考慮してピットに呼び戻したという。物理的に壊れてしまうと、原因究明も格段に難しくなってしまうからだ。

 しかし、問題は致命的なものではなく、こうした異常値に対するモード修正の仕方を変えれば解決するものだと判明。パワーユニットのハードウェアには特に問題のないことがわかった。

 そしてもうひとつのタイヤの性能低下については、トロロッソがあえてやっていたことだという。テクニカルディレクターのジェームス・キーはこう説明する。

「たしかにウチのデグラデーション(性能低下)は大きかったけど、あれはタイヤマネージメントを学ぶため、ドライバーのトレーニングの一環としてやったことなんだ。本来ならテスト1回目でそれをやっておいて、2回目のフルレースシミュレーションのなかで本格的なタイヤマネージメントの実践を行なう予定だった。

 だけど、テスト1回目が悪天候でまともな走行ができなかったから、テスト2回目でそのトレーニングをやるしかなかったんだ。あのデグラデーションの大きさというのは、ある意味、なるべくしてそうなっているから心配することではないんだよ」

 テスト最終日のブレンドン・ハートレイはセンサー異常のため、レースシミュレーションの途中からペースを落として走らざるを得なかった。テスト3日目にフルレースシミュレーションを完走したピエール・ガスリーは、やはりキーと同じくタイヤの扱いについてこう語る。

「テストは『テストをするための場』だからね。僕らはいくつかのことを試したんだ。そして、そこから多くを学んだ。タイヤを労りながら走るよりも、むしろアグレッシブにいってどのくらいタイヤが保(も)つのか保たないのかを見て、どのくらいタイヤをマネージしなければならないのかを確認したかったんだ。

 つまり、限界を超えるところまでタイヤを使うというのが(テストでの)ターゲットだった。だから、バルセロナでのデグラデーションの大きさについてはそれほど心配していない。バルセロナは新舗装だったから予想がつかないところもあったし、メルボルンではまた違った話になると思う」

 すでにガスリーが5戦、ハートレイが4戦を経験しているとはいえ、フル参戦が初めてという若手ふたりがピレリのF1タイヤに不慣れであることに変わりはない。「ワーキングレンジ」と呼ばれる各タイヤの適正温度(オーストラリアGPに投入されている3種の場合は90~135度)に保ち続けることでグリップの保ちもよくなるが、2018年型タイヤは温度変化が繊細で温度管理がトリッキーになっている。

 だからこそトロロッソは、まずはタイヤを保たせる走りをしてコンサバティブにいきすぎるよりも、ギリギリまで攻めて限界を探らせるほうを選んだというわけだ。テクニカルディレクターのキーは語る。

「まさしく、タイヤの扱い方が今年の速さのカギになるだろうね。ウチのドライバーたちはうまくやってくれると思っているけど、(テスト地の)バルセロナと(開幕戦の)アルバート・パークではまたサーキット特性も大きく異なっているから、決勝になってみないとわからない。

 とにかく、本来ならテスト2回目でやろうとしていたトレーニングの先の”答え合わせ”を、今週末のFP-2と決勝でやることになる。そこが大きなカギになるはずだよ」

 一方、テストを終えた時点で何が起きるかわからないレースの現場に臨むのは「不安がある」と吐露していたホンダの田辺テクニカルディレクターだが、この1週間の追い込み作業によってその不安はかなり取り除かれたようだ。落ち着いた面持ちで2018年最初のレース週末に臨むことができている。

「テスト後に日本のHRD Sakuraに行って開発メンバーと一緒に(テストで発生した)不具合なども含めて最適化もやってきたんですが、そういう意味では今、我々にできることはすべてやって持ってきたつもりでいますし、不安は和(やわ)らいだと言えますね(笑)。フタを開けてみなければわからないとはいえ、落ち着いて開幕を迎えられています。もちろん、久々に現場に戻ってきたわけですから、緊張感は徐々に徐々に高まってきていますけどね」

 2018年に臨むにあたって、トロロッソ・ホンダは無謀な開発には手を出さず、まずは信頼性を最優先に準備を整えてきた。

 だが、ノートラブルで開幕戦を終えればそれで満足かと言われれば、当然そのレベルで満足するようなレース屋集団ではない。

「う~ん……とにかく、確実にレースを走り切るというのは、最初の第一歩の目標だと思っていますが……」

 田辺テクニカルディレクターに水を向けると、少し答えにくそうにそう言った。

 開幕戦完走はあくまで第一歩――つまり、通過点でしかない。トロロッソ・ホンダがその先にどんな未来を描こうとしているのか、メルボルンではその一端を目撃することができるはずだ。