移動に36時間を要したとも、前日に到着したばかりとも思えなかった。 さらに言えば、約2ヵ月ぶりの活動とも、スタメンに4人も森保ジャパン初出場の選手がいたとも思えなかった。 それほどU-21日本代表は軽快にボールを動かし、攻め込んでいた…
移動に36時間を要したとも、前日に到着したばかりとも思えなかった。
さらに言えば、約2ヵ月ぶりの活動とも、スタメンに4人も森保ジャパン初出場の選手がいたとも思えなかった。
それほどU-21日本代表は軽快にボールを動かし、攻め込んでいた。後半も15分が過ぎるころまでは――。
森保ジャパン初出場組のひとり、アピアタウィア久(右)
外務省が支援する『スポーツ・フォー・トゥモロー(SFT)プログラム 南米・日本U-21サッカー交流』の一環として、日本、パラグアイ、チリ、ベネズエラによる国際大会が3月21日にパラグアイのアスンシオンで開幕し、日本はチリと対戦した。
森保一監督がピッチに送り出したのは、以下の11人である。
【GK】
小島亨介(早稲田大)
【DF】
中山雄太(柏レイソル)
杉岡大暉(湘南ベルマーレ)
アピアタウィア久(ひさし/流通経済大)
【MF】
初瀬亮(ガンバ大阪)
森島司(サンフレッチェ広島)
三好康児(北海道コンサドーレ札幌)
松本泰志(広島)
菅大輝(札幌)
三笘薫(みとま・かおる/筑波大)
【FW】
上田綺世(あやせ/法政大)
フォーメーションはお馴染みの3-4-2-1。中山、杉岡、アピアタウィア、初瀬の4人は、これが森保ジャパン初出場だった。
序盤こそチリの激しいチャージの前にボールを失う場面が何度かあったが、エンジンが温まってきたのか、10分もしないうちにチリ陣内に侵入する回数を増やしていく。
「シャドーのところがすごく空いていて、ほしいタイミングで受けられることが多かった」と振り返ったのは右シャドーの三好だ。前線に並んだ5トップが相手の4バックの間、あるいはDFとMFの間に顔を出し、そこにボールが何度も入る。
こうしたビルドアップに貢献したのが、初めてトリオを組んだ3バックだ。左の杉岡がドリブルでボールを持ち上がり、前線にスルーパスを通せば、右のアピアタウィアも落ち着いてボールを散らした。そして中央の中山は、正確な縦パスを前線に通して右ウイングバックの初瀬にロングフィードを送り、自らも持ち運んで相手を誘った。
20分過ぎにはボランチの森島と中山がショートパスを何度も交換しながらチリの選手を動かし、スペースが生じたと見るや一気にスピードアップ。ショートパスをつないで逆サイドに展開し、チリを揺さぶった。
パスという撒(ま)き餌をちらつかせ、相手を食いつかせて生まれたスペースを攻略する攻撃は、森保監督が狙う形のひとつ。そこにロングボールを交えるなどプレーの判断も的確で、2ヵ月前のU-23アジア選手権とは見違えるほど、ビルドアップがスムーズになった印象だ。
「戦術的な練習は、1回もやっていないんですけどね」
試合後、森保監督はそう明かした。19日に日本を発って20日に現地入り。その日の夕方に身体を動かし、試合当日の午前中に戦術トレーニングを行なう予定だったが、グラウンドが急遽使用できなくなり、トレーニングを中止せざるを得なかったという。
「イメージを持ってもらうために、これまでの活動のなかからコンセプトの映像を作って見せたり、試合前にマグネットを使って全体的な戦い方の説明をしただけなんです」
それにもかかわらず、なぜ、スムーズに攻撃をビルドアップできたのか。
「やっぱり、森保さんのやり方について、それぞれが考えてきたからだと思います」と三好は語る。過去2回の活動に参加した選手たちは指揮官から提示されたものを頭のなかで整理し、参加していない選手たちは試合映像を見てイメージを膨らませたのだろう。「すごくよくやってくれたと思います」と指揮官も表情を緩ませた。
もっとも、こうした連係・連動した攻撃は、60分ごろから次第に薄れてしまう。ただし、これは選手交代による影響が大きかった。
ハーフタイムに三好、菅に代えてMF伊藤達哉(ハンブルガーSV)、MF遠藤渓太(横浜F・マリノス)を投入。57分には上田、三笘、森島、アピアタウィアに代えてFW前田大然(だいぜん/松本山雅)、FW中村敬斗(G大阪)、MF坂井大将(アルビレックス新潟)、DF立田悠悟(清水エスパルス)を送り出し、一気に4人を変更した。
とりわけ1トップ2シャドーを務めた前田、伊藤、中村は、森保ジャパン初出場の選手たち。戦術トレーニングを経験していない彼らは、言わばぶっつけ本番の状態。連係・連動を求めるのは酷だろう。
むしろ、それ以降の時間帯は、伊藤や遠藤のドリブル突破、中村の積極的なシュートへの意欲など、個の特徴が存分に発揮されていて、これもまた頼もしく見えた。
大会前に行なったインタビューで、森保監督はふたつのテーマを掲げていた。
「今回、特に意識しているのが、ビルドアップのクオリティと、個の成長です」
相手がプレッシャーをかけてきたときに、どう剥がし、どう回避するのか。時間もスペースも与えてくれない相手をどう攻略するのか。このチリ戦ではいずれのテーマに対しても、ポジティブなパフォーマンスを見せていた。
それだけに、失点がもったいなかった。
0-0で迎えた75分、立田がつなごうと中央に出したパスが相手に渡り、クロスからゴールに結びつけられてしまう。90分にも杉岡がボールを奪われ、相手クロスが杉岡に当たってコースが変わり、日本のゴールが割られた。終わってみれば、0-2。しかも、U-23アジア選手権と同様に、ミスからの失点だった。森保監督が言う。
「前回と同じ課題が出ているので、しっかり修正していかなければいけない。若い選手たちですけど、次のプレーにつなげる責任感や集中力を、ひとりひとりもっと上げていかなければいけない」
さらに言えば、アタッキングサードまで理想的な形でボールを運びながら、得点につなげられなかったゴール前のコンビネーションと精度も、大きな課題だ。
テクニックに優れ、デュエルも強く、試合の流れを引き寄せる駆け引きにも長(た)けた南米勢とは、勝敗は別にして、対戦するだけで学ぶべきものも多いが、一方で勝利しなければ得られないものもある。23日に対戦するベネズエラは、昨年のU-20ワールドカップのベスト16でPK戦の末に敗れた相手である。リベンジという点でも、次戦は勝負にこだわった戦いを見せてほしい。
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