2018シーズンのF1世界選手権が幕を開けた。テストを重ねた各マシンが開幕戦オーストラリアGPに集結し、いよいよそのベールを脱ぐ。今年から頭部保護デバイス「HALO(ヘイロー)」が導入され、マシンのルックスは大きく様変わりした。では、…

 2018シーズンのF1世界選手権が幕を開けた。テストを重ねた各マシンが開幕戦オーストラリアGPに集結し、いよいよそのベールを脱ぐ。今年から頭部保護デバイス「HALO(ヘイロー)」が導入され、マシンのルックスは大きく様変わりした。では、参戦10チームの全マシンを一挙に紹介しよう。

※紹介順は昨年のコンストラクターズ・ランキング上位から。ドライバーのカッコ内は(国籍/年齢/カーナンバー)。年齢は3月23日現在。



メルセデスAMG(W09 EQ Power+)

【1】メルセデスAMG
ルイス・ハミルトン(イギリス/33歳/No.44)
バルテリ・ボッタス(フィンランド/28歳/No.77)

 パワーユニットが現行規定となった2014年から4年連続でドライバーズ&コンストラクターズの両タイトルを独占し続けている絶対王者メルセデスAMG。今季は黄金期のフェラーリ以来史上2度目となる5連覇を狙う。

 2010年のF1復帰の際に母体となったのは、かつてBARやホンダとして活動していた英国ブラックリーのチーム。個人の責任を追及せず、誰もが自由闊達(かったつ)に意見を言える組織作りがさらなるチームの強化と成功へとつながっている。

 正常進化型で1秒速くなったという今季型マシンW09 EQ Power+で昨年王者のルイス・ハミルトンは5度目の戴冠へと挑み、昨年は新加入でドライビングスタイルやセットアップをアジャストしなければならなかったというバルテリ・ボッタスも、今季はすでに馴染んだマシンとチーム組織で打倒ハミルトンを目指す。



フェラーリ(SF71H)

【2】フェラーリ
セバスチャン・ベッテル(ドイツ/30歳/No.5)
キミ・ライコネン(フィンランド/38歳/No.7)

 1950年のF1世界選手権初年度から参戦を続けている唯一の超名門チーム。最後にタイトルを獲得したのは2008年だが、親会社フィアットのセルジオ・マルキオンネ会長が強権を発動するかたちで組織再編を果たし、昨年は5勝を挙げてタイトル争いに加わる躍進を見せた。

 昨年はメルセデスAMGが得意としない中低速サーキットを中心に活躍した。今季はホイールベースを伸ばし、ダウンフォース発生量と高速旋回性能を向上させて打倒メルセデスAMGを期す。セバスチャン・ベッテルは自身5度目となる王座奪還を、2007年王者のキミ・ライコネンは若手の台頭によりシート喪失も噂されるなかで名誉挽回を狙う。



レッドブル(RB14)

【3】レッドブル
ダニエル・リカルド(オーストラリア/28歳/No.3)
マックス・フェルスタッペン(オランダ/20歳/No.33)

 世界的エナジードリンクメーカーが所有するオーストリア国籍チームで、2010年から4年連続でダブルタイトルを独占。鬼才エイドリアン・ニューウェイのもと、空力開発能力はピカイチだ。2014年の現行パワーユニット規定下では、TAGホイヤーのバッジで使用するルノーの非力さに苦戦を強いられて王座から遠ざかっているが、昨年後半は大幅にマシンを改良して2勝をマーク。

 ダニエル・リカルドとマックス・フェルスタッペンという極めて生きのいい若手を取り揃え、両者ともに「未来の王者」の呼び声が高い。活動的でクリエイティブなPR戦略にも定評あり。2019年にはホンダとタッグ結成の噂もあるなど、その動向から目が離せない。



フォースインディア(VJM11)

【4】フォースインディア
セルジオ・ペレス(メキシコ/28歳/No.11)
エステバン・オコン(フランス/21歳/No.31)

 インドの起業家ビジェイ・マリヤがオーナーを務めるインド国籍のチームだが、チーフデザイナーの羽下晃生(はが・あきお)、タイヤ運営を担うビークルサイエンスシニアエンジニアの松崎淳(まつざき・じゅん)など、多くの日本人エンジニアが中枢で活躍するチームでもある。

 トップチームに比べれば年間活動予算は圧倒的に少ないが、効率のいい開発と運営で年々ポジションを上げ、3強チームに次ぐランキング4位を2年連続で確保。浄水器メーカーBWT社と大型スポンサー契約を結び、マシンをピンク色に一新して世間を驚かせた。

 セルジオ・ペレスは一発の速さだけでなく、レース巧者ぶりも身につけて高い評価を得ている。メルセデスAMGの秘蔵っ子エステバン・オコンはユーロF3でフェルスタッペンを下して王者についた逸材だが、夢はグランツーリスモで大好きだった筑波サーキットを走ることらしい。



ウイリアムズ(FW41)

【5】ウイリアムズ
ランス・ストロール(カナダ/19歳/No.18)
セルゲイ・シロトキン(ロシア/22歳/No.35)

 今年でF1参戦41年目を迎える名門ウイリアムズは、サー・フランク・ウイリアムズ代表による前身でのF1活動も含めれば1969年からという長い歴史を持っている。だが、タイトルからは1997年以来遠ざかっているのが現状だ。

 現在はフランク御大の娘クレアが副代表を務め、メルセデスAMGから移籍したパディ・ロウが技術部門のトップに就くとともに経営陣入りし、名門復活に向けてテコ入れを始めたばかり。

 カナダの大富豪の息子ランス・ストロールは昨年大荒れのアゼルバイジャンGPでルーキーにして表彰台に立ったが、新人セルゲイ・シロトキンとのコンビではやや心許(こころもと)なく、開幕前テストではベテランのロバート・クビサも走らせてシミュレーター作業の精度を上げようと模索。開幕前準備は順調とは言いがたく、厳しいシーズン序盤戦が予想される。



ルノー(R.S.18)

【6】ルノー
ニコ・ヒュルケンベルグ(ドイツ/30歳/No.27)
カルロス・サインツ(スペイン/23歳/No.55)

 ワークス復帰3年目となるルノーは、資金投入によってスタッフ数が35%も増加した。コンポジットやCFD(空気の流れなどを可視化できるコンピューターシミュレーション)、風洞など英国ファクトリー設備の拡充も進み、かつてベネトン・ルノーとして数々の成功を収めてきた栄光の復活を目指す。

 技術面ではルノーやメルセデスAMGで技術責任者を務めたボブ・ベルが指揮を執るが、フランス側で製作されるパワーユニットの性能向上がやや鈍いのが気がかり。早くも年間3基という規制を破り、意図的にペナルティを受ける案も出ている。

 ル・マン24時間を制したこともある実力派ニコ・ヒュルケンベルグと、若手のなかでも速さと堅実さに定評あるカルロス・サインツがレッドブルからレンタル移籍。今季の現実的な目標は3強チームとの差を縮め、表彰台を狙うことか。



トロロッソ(STR13)

【7】トロロッソ
ピエール・ガスリー(フランス/22歳/No.10)
ブレンドン・ハートレイ(ニュージーランド/28歳/No.28)

 イタリア語で「赤い牛」という名前が示すとおり、レッドブルがオーナーを務める姉妹チーム。だが、1985年からF1に参戦した「ミナルディ」という誰からも愛されたイタリアの小チームが母体であり、空力部門以外は今もイタリアのファエンツァに拠点を置いている。

 ザウバーで2011年~2012年に優れたマシンを生み出したジェームス・キーは、低予算でも効率的なマシン作りに定評あり。今季はホンダとタッグを組み、チームとして初のワークス待遇でさまざまな恩恵を享受し、マシン開発を加速させている。かつてフォーミュラ・ニッポンに参戦するラルフ・シューマッハのマネージャーとして日本で暮らした経験もあるフランツ・トスト代表は、チーム内で日本文化セミナーを開いてスタッフにホンダへの理解とリスペクトを根づかせている。

 ドライバーはふたりともフルシーズン初年度とはいえ、ピエール・ガスリーはGP2王者、ブレンドン・ハートレイはポルシェワークスでル・マン24時間とWECを制した経験を持つ。開幕前テストではチーム歴代最多の距離を走り込み、入念に準備を整えてシーズン開幕に臨んでいる。



ハース(VF-18)

【8】ハース
ロマン・グロージャン(フランス/31歳/No.8)
ケビン・マグヌッセン(デンマーク/25歳/No.20)

 2016年にF1参戦を開始した新興チーム。フェラーリと幅広い技術提携を結んでおり、初戦から2戦連続で上位入賞を果たすなど、新チームとは思えないほどの実力を備えている。

 アメリカの工業用工作機械でシェアナンバーワンを誇るハース社の創業社長ジーン・ハースが趣味と自社のPRを兼ねて、NASCARに続きF1に参戦。ロータスで実績のある小松礼雄(こまつ・あやお)がチーフエンジニアとして技術・レース運営面を統括する。車体開発はフェラーリやダラーラと提携しており、チームの設備面でもフェラーリと共通点が少なくない。

 当初はスタッフ数が充分に確保できず、不眠不休で開幕に間に合わせたこともあった。だが、この2年間で人材確保が進み、チーム体制も強化。今季は開幕前テストで極めて好調な走りを見せた。

 ロマン・グロージャンはエースドライバーとしてチームを牽引し、今季はブレーキの不満も解消して好調。母国デンマークで国民的スターのケビン・マグヌッセンはやや波があるものの、才能を結果に結びつける頻度はどんどん上がってきている。



マクラーレン(MCL33)

【9】マクラーレン
フェルナンド・アロンソ(スペイン/36歳/No.14)
ストフェル・バンドーン(ベルギー/25歳/No.2)

 3年間にわたったホンダとの提携にピリオドを打ち、ルノーのカスタマーチームとして再出発。レッドブルの空力部門からピーター・プロドロモウを獲得し、空力偏重のニューウェイ路線模倣を継続しているが、開幕前テストでは冷却不足などで苦しんだ。

 ロン・デニスが去って、サウジアラビアの富豪マンスール・オジェとバーレーン政府系投資ファンドが実質的オーナーとなり、伝統のパパイヤオレンジ色を復活させるなど従来のデニス色を徹底的に排して再構築を進めているが、スポンサー獲得もままならず順風満帆とは言いがたい。最後の勝利は2012年、タイトルからは2008年を最後に遠ざかっている。

「当代一の名手のひとり」と評価されるフェルナンド・アロンソが宝の持ち腐れとなっているが、彼自身、2006年の戴冠を最後に成功は掴めていない。圧倒的強さで2015年のGP2を制した秘蔵っ子ストフェル・バンドーンも、デビュー初年度はトラブルが多発し走り込めなかったこともあってアロンソ相手に苦戦を強いられたが、2年目の今季は雪辱を期す。



ザウバー(C37)

【10】ザウバー
マーカス・エリクソン(スウェーデン/27歳/No.9)
シャルル・ルクレール(モナコ/20歳/No.16)

 スウェーデンのテトララバル社を中心とした投資ファンドの買収によって資金難を脱したザウバーは、今季アルファロメオとの提携によってさらなる飛躍を目指す。これはフィアットのマルキオンネ会長の肝煎りの計画であり、同グループのフェラーリから最新パワーユニットが提供されるほか、資金面でも支援が注入されるなど、フェラーリのジュニアチームとしての再建を進めている。

 チーム創設者であるペーター・ザウバーの後を受けてチーム存続に貢献してきたモニシャ・カルテンボーンもチーム代表兼CEOを解任され、GP2などに参戦するARTグランプリの代表を務めてきたフレデリック・バスールが昨年6月に代表に就任。ホンダとの提携合意を解消し、アルファロメオを選んだ。

 マーカス・エリクソンは母国スウェーデンからの資金的支援もあり在籍4年目を迎え、チームメイトにはフェラーリ育成ドライバーであり昨年圧倒的な速さでFIA F2を制した期待の新人シャルル・ルクレールが起用。ドライバーラインナップにおいてもフィアット色が濃くなっている。